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守護

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「本当に先程のご令嬢が?」

「…お耳を」

ジェラルド伯は渋い表情のまま互いに寄って、伯へ耳を寄せる。

「娘は守護の紋を持っています」

今日、目を見開くのは何度目か分からない。

守護の紋。

男なら、戦士であればどれ程熱望するか。

実在の人物を見たのは初めてだ。

私の知る限りにいないと言うだけで歴史的には珍しくはない。

時代によってはまとめて数人産まれたこともあるほど。

資料も豊富に残されている。

書物によれば硬化した魔力が全身を包み、空を飛ぶワイバーンから地表に落とされても死なずどんな名刀で刺し貫かれようと弾き飛ばす。

だが、望むのは男だけだ。

女であれば永遠の処女、または乙女の呪いと言われて忌避される。

傷ひとつ、つかんのだ。

破瓜が出来ん。

「だからですか?ですが、五日五晩というのは?膨大な魔力を持っていると聞きましたが」

「幼い頃から魔力の供給が不安定でドレインを扱える者を雇い、無理な吸引を繰り返しているうちに魔力の回復が常人を超えてしまい、器も大きく育ってしまいました」

「どれ程ですか?」

「常人の倍は動けます。守護の紋があるとはいえ、災害とされる上位魔人と肉体強化だけで五日五晩です。私と息子でさえ長時間の強化は無理です。娘は日をまたいでも平気です。使った端から回復が追いつきますから」

ご息女達が仕留めた魔獣へ視線をずらす。

「私と息子はあの大きさを単体で仕留めることは出来ません。出来ても娘達のように連続は無理です」

「エド」

「はい」

「あの魔獣を単体で仕留められるか?」

私の問いに解体されている肉を眺めた。

「はい、あの種類は経験があります」

「連続では?」

「群れだときついですね。ですが、やれないこともないといったところです。順番にということならもっと楽ですね」

だろうな。
私でも可能だ。

「団の中で出来る者は?」

「…難しいかと。隊列を組んで狩るべきです」

同意を込めて首肯を返す。

そしてあの小柄なご令嬢とその従者の三人は王都いちの剣豪と言われている私とその二番手の副団長と同等なのかと感嘆のため息を吐いた。 

「素晴らしい」

ポツリとこぼした言葉にジェラルド伯は首を振った。

「戦士としてなら。ですが、年若い娘ですので」

「申し訳ない。無神経なことを」

「誠に男であれば。女の身でこうも派手に武功をあげて父として誇らしくもあり心配でもあります」

兄の立場のロバート殿も同じ気持ちらしく二人とも同じ顔を心配を浮かべていた。

「あれほどの華の顔を持ちながら。王都中の花から花へと浮き名を流したグリーブス団長でさえ見とれて、」

慌てて片手を上げて話を制した。

「ご無礼を。不躾をお許しいただきたい」

やはり見られていたと恥じた。

自分では見咎められるつもりほどとは思わなかったが、よほど呆けていたのだ。

わざわざこうやって釘を刺すほど。

言われて先程のご令嬢を思い出す。

あんな血に濡れて少し拭いただけの顔なんか分かるものでもないのに。

あの細めた目と、くっと上がった柔らかな口許。

ぞわっと気が昂るのを圧し殺した。
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