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「きゃ!」

どすんと衝撃。

ウドルが転んだみたいです。

それと一緒に私も篭から転がり出てしまいました。

『お姫さん!大丈夫カ?!』

軽かったからウドルより随分と先に転がってしまってウドルが四つんばで私のもとへ。

『だ、大丈夫』

『怪我、怪我は?!』

『えーと、落馬より大丈夫』

『ら、落馬?』

『私、馬によく乗るカラ。受け身上手なの』

手を支えられて膝をつくとウドルがほっと長く息を吐いて項垂れて、良かったと呟きました。

私もこのまま走ろうかと尋ねると足は遅そうだからいいと断られました。

『またこの中に、』

二人でまた急いで篭の中に入ろうとしていたら、がさがさと走る音が私達の来た方向から。

怒鳴り声も。

『おーい!ふざけんなぁ!味見すんなっつったろうが!』

『てめぇだろ!石なんか詰めて誤魔化しやがって!』

殺してやると聞こえて恐ろしくて青ざめた瞬間、ウドルが私を抱えてまた走り出しました。

私もしっかりウドルの腕にしがみついて服を握って。

髪が枝にかかって、びちっ、びちっと何度も千切れたけど我慢しました。

捕まったら私もウドルも。

髪の毛くらい。

『くそ、くそぉ!俺はやっぱりバカだ!ちくしょう!』

急にウドルが叫んで分からずに顔を上げました。

『ごめん!お姫さん、俺バカだ!こんなに走ッタのに!方向を間違えた!』

早口が聞き取れずにいるとまたウドルが走って。

『ぐあ!』

「きゃっ!」

また前のめりに。

でも私を庇ってウドルは私を抱えたまま肩から勢いよく地面に倒れました。

『手間かけさせんな!くそが!このデカブツ!』

「ひ!」

『が!ぐっ!』

追い付いた一人がウドルを何度も蹴って怒鳴って、すぐにウドルが私の上に被さって隠そうときつく抱き締められて、ドスン、ドスンとウドルが乱暴される衝撃が私まで響いています。

『どけ!王女がお待ちなんだ!』

『イヤだ!ぐっ!』

亀のように丸くなった大きな体にすっぽり包まれ私も必死で小さく丸まってウドルにしがみつきました。

でもどうしてらいいの?

このままじゃウドルが。

私も。

どうしていいか分からずにポロポロ泣きながらウドルの名前を呼びました。

「ごめん、ごめんなさい、ウドル、ごめんなさいっ、ウドル!」

三人の怒鳴り声とウドルの呻き声。

皆が何を言ってるのかもう分かりません。

途方もない恐怖に涙が止まりません。

「ロ、ロルフ様、ヨルンガ!助けて!ウドルが死んじゃう!助けて!誰か助けて!」

わぁわぁ叫んで助けを呼ばなきゃと必死で。

でも喉が苦しい。

胸も。

怖くて怖くて、声を張り上げるのに全然大きな声じゃありません。

三人の笑い声。

私が叫ぶのが楽しいようです。

「助けて!助けて!誰か来てください!」

ウドルの胸にしがみついて泣きながら叫びます。

お願いです。

誰か気づいてください。
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