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40※グラッセ

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「……どういうことよ」

私の寝室に行くとロルフがいない。

タイロンに運ぶようにあれだけ言っておいたのに。

許せない。

「タイロン!タイロンはどこ!あの役立たずをここに呼びなさい!」

ぱんっと側にいた侍女を扇で叩いて怒鳴り付けた。

硬い芯のある扇に侍女が叫んでいた。

それさえも耳障りでたまらない。

「うるさいわね!早くしなさい!」

這うように走っていく侍女を見送ったら寝台のシーツをめくったり、クローゼットやバルコニーを覗いてどこかに隠れていないか探した。

「あの子ったら、本当にどこに行ったの」

イライラと親指の爪を噛んだ。

がじがじと硬い爪を噛むと少しは気分がましになる。

そうこうしているうちにタイロンを呼びに行ったはずの侍女が戻って、見つからないと土下座した。

そんな報告が聞きたいんじゃないと扇を背中に投げつけると、ひっと喉から悲鳴がこぼれて手のひらをキツく踏みしめる。

「もっ、申し訳ありませんんっううっううう!」

踵をねじれば動きに合わせて呻き声がこぼれる。

うるさいと強く叱れば唇を噛み締めて堪えていた。

そのままロルフもタイロンのことを考える。

二人はどこ?

私のロルフ。

婚約者がいようも一晩、私と過ごさせれば、強引に私のものに出来るのに。

既成事実があろうがなかろうが関係なく。

婚約者はたかが伯爵位。

あの子と比べれば世間は私の美しさと地位の高さに膝まづいたと納得するもの。

醜聞が何?

私にそんなものがあるわけないじゃない。

気を回しすぎなのよ。

世間体を気にするあの子のために私から積極的にならなくては。

あの子を処分して私と一夜を明かす。

ここまですればきっと素直になるわ。

感謝されて当然よね。

あちらの国だって他国の王家の中でも最も歴史の古く価値の高い我が王家への縁続きを喜ぶに決まっている。

しかも美しい私の王配となるならその価値は莫大。

全て順調。

あの子はゴミ箱、添い寝人形は私のベッド。

あとは湯あみをすませた私が装いを整えて部屋に行くだけ。

でも私の初夜だから思い出になるように念入りに。

セクシーさを出すためにきつめのアイライン、真っ赤な口紅。

腰だけで結んだ装いは胸元からおへそまで深くVネックが刻まれて歩くと裾の合わせからは私の白く輝く太ももが交互に覗く。

ロルフのために用意したのはお顔の化粧と装いだけじゃないの。

夜着の隙間から大きく見える胸元。

そこからはみ出たふっくらして大きな谷間には金粉をまぶした白粉で彩り、蜜蜂の括れのようや細い腰から足の付け根まで香りの練り粉を丹念に塗った。

私が夜着を脱げば芳醇な高貴な香りに包まれて、私の手の込んだ心遣いに男心が刺激されて感動するはず。

とっても楽しみだわ。

それなのに肝心のロルフがいないなんて。

タイロンは一体何をやってるの。

爪を噛むのが止められない。

みしり、みしりと歯の圧迫に私の形のいい硬い爪が反り返る。

ぱきっと響く音も。

ああ、これもタイロンのせい。

私の爪に。

私をいら立たせるから。

また他の侍女や側仕えのメイドが戻って同じ答えを繰り返すから彼らの手のひらを渡って歩くのに忙しくて堪らない。

どうしてこんなに私の機嫌を損ねるのが上手なのかしら。

あの小さな小娘も。

子供のような見かけと大したことのないつまらない中身。

あまりにも稚拙で同じ女性なんて思えない。

あの子のままごと遊びのせいでロルフは大人の魅力が分からないのよ。

あの子で気晴らしをしようかしら。

鞭のひとつやふたつ与えればこのささくれが和らぐかも。

それとも処分を急かそうかしら。

ぼろ雑巾にして外に捨てさせてしまえばもう見ることもないのだから。

どうしてやろう。

「……両方ね。……ロルフがいないのがいけないのよ」

タイロンは見つけ次第、鞭打ちにしてしまおう。

そう決めてしまえば、絨毯の一部になった侍女達にいつもの男を呼んでこいと告げた。

行くので手をどかしてほしいと懇願されて口答えに気分を害した。

ぱきぱきと音がするまで踏んずけた。

当然よね。

この私を怒らせるのが悪いのよ。
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