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「足元にお気をつけて。」

侍従のヨルンガに手を添えてもらい馬車から降りました。

「ありがとう。青毛は?」

私の馬車は私の大きな青毛の馬に合わせた特注です。

「少し疲れたようですが元気です。」

「良かった。」

こんなに長く馬車を引かせたことはなく心配でした。

顔を見ようと馬車の前に向かいます。

「リリィ、止めなさい。いちいち馬に構うのは。」

後ろからお母様に叱られました。

「はい。」

お母様とお父様は別の馬車に乗って道中ご一緒です。

本当なら私もお父様達と同じ馬車に乗る予定でしたが、私は乗馬の姫君と各国に有名でして。

私の馬も並外れて大きい為、その姿をぜひご覧になりたいと。

青毛を込みでご招待を受けました。

お父様は気にされませんでしたが、私のお転婆に疲れたお母様はしばらく寝込んでしまって。

謝るしかできません。

「ごめんなさい、お母様。」

「姉のウルリカのようにおしとやかなら良かったのに。…はあ。」

大人しく頭を下げました。

お母様は馬が嫌いです。

お転婆なことも。

女の子らしくないことは全て。

刺繍やお勉強をすると喜びます。

お父様はどちらでもいいようです。

何をしてもウンウンと頷くだけです。

「お母様、お久しぶりです。」

「久しぶりね、ウルリカ。元気だった?」

私は喉が苦しくなりました。

「お久しぶりです。お姉さま。」

頭を下げてカテーシーをします。

お顔を見るのが怖いからです。

「久しぶりね。」

優しくお声をかけられたことにほっとして顔をあげると昔と変わらないご様子にひくりと頬がひきつりました。

つまらなそうに。

嫌そうに。

「…あなたは、相変わらずのようね?」

微笑まれるのに言葉に棘がございます。

「…はい。か、変わらず元気です。」

「…そう。良かったわね?」

“だから何?”

そう聞こえてきそうです。

「お久しぶりでございます。…公爵夫人。」

私とお姉さまの間にヨルンガが滑り込んで頭を下げました。

すると、お姉さまのお顔がほころんでヨルンガを見つめています。

「元気そうね。」

「はい。」

顔をあげて対峙してます。

私はヨルンガの後ろでお姉さまの視線から逃れた安堵から大きく息を吸います。

息苦しい、やはりお姉さまといると苦しくて辛い、と考えました。

ヨルンガがお父様とお母様に会話を振って私への興味をそらしてくれました。

私は出来るだけ気配を殺して静かに3人について屋敷の中へと入ります。

ここはお姉さまが嫁がれたスワロフ公爵家のお屋敷。

この国に嫁がれた我が国のザボン公爵の一人娘サフィア様と、お姉さまの結婚式が執り行われます。

お二人はこの国の第二王子と第三王子のもとへ嫁がれたのです。

「久しぶり。リリィ嬢。」

「お久しぶりでございます。スワロス公爵。」

応接室には第三王子でありスワロス公爵である義兄のメランプス様がお待ちでした。

「気軽に義兄と呼んで構わないよ。私も君を気軽に呼んでも構わないかな?」

ちらっとお姉さまへと視線を送ります。

今はお母様達とのお喋りに夢中でこちらに気づいてらっしゃいません。

「恐れ多いことなので。…お姉さまがお許しになるなら。」

そう言うと、お姉さま達に話しかけて許しを得ていらっしゃいました。

「あなた様のお好きになさいませ。」

お姉さまは穏やかに微笑まれました。

そしてこちらをご覧になり、はあ、とため息をおつきになります。

「リリィ、つまらないことまでいちいち聞くのは感心しないわ。…本当に手のかかる子ね?…相変わらず。」

「申し訳ありません。」

お顔を見ないように頭を下げてごまかしました。

「しょうがないでしょう?ウルリカ。気にしないでこちらでの事を教えて?」

お母様の言葉にまた落ち込みつつも静かに過ごします。

お母様なりにかばってらっしゃるのだと思います。

「リリィ、あなたの部屋はないわよ。」

「え?」

「ウルリカ、それは、」

「あなた、第四王子の婚約者として王宮に寝所が用意されているの。今からあちらへ行って?」

「え?」

「連絡がなかったのかい?ウルリカ、どういうことだ?」

メランプス義兄さまがお姉さまに詰め寄り、私はお母様達に視線を向けました。

お父様とお母様も戸惑って首を横に振ります。

「私は手紙に書いたわ。行き違いになったのかもしれないわね?何しろフィンレー王子が急に言い出したんですもの。」

「え、あの、」

急き立てるようにお姉さまは馬車の支度を執事に言い付けてます。

私達はおろおろしました。

「いや、もう今日は遅い。今夜は泊まって明日にしなさい。ウルリカ、いいね?」

「…あなたがそう仰るなら。」

私達はほっとしてため息をつきました。

「ありがとうございます。」

「部屋は余ってる。気にするな。」

メランプス義兄さまもあまりのことに驚いたようで顔をぬぐっています。

「…いやぁ、君のお姉さんはスゴいね。」

肯定も否定もせず黙っておりました。

そのお姉さまがあなたの妻です。

そう答えそうになりました。
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