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第一章 rose.

【 rose.11 】

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そう言われて差し出されたのは、見た事のある真っ赤な

「……その《薔薇》どうやって手にいれた」

 マティアスは金銭的なものは一切渡していなかった。訝しむとジャンは慌てて今日あった事を話し出す。
 腹が減って死にそうだったが喰う物も買う金もなく、働こうと思って外に出て、花屋で少年にあった事。
 二人で働ける場所を探し、よくわからん奴等に追いかけられ、最終的に花屋で働いた事を。

「それでさぁその彼女ってのが中々に可愛くてさぁもう二人して初々しいったら」

「それで、何故それを私に渡す事になるんだ」

 話が長すぎると、マティアスの眉間に皺がよる。

「だってこれ《大切な人》に渡すもんなんだろ?」

 当たり前のように言って「考えたんだけどマティアスしか出てこねーんだもん」と、更に続ける。

「大切なのかどうかはわかんねーけど、俺あそこで《起きて》からさ、初めて出会ったのがマティアスだったんだ。マティアスは嫌だったんだろうけど、俺にとっては命の恩人だし、なんだかんだでここに住まわせて貰ってるし、だから」

 あげる。

 ニコニコと照れながら、その手に持つ花。
 きっと《大切な人》と言う意味を、ジャンははき違えている。
 今日はそもそも恋人や夫婦が。

 そこまで考え、マティアスは言うのをやめた。

「ところで、やたらいい匂いがすんだけど……まさか」
「あぁこれか」

 マティアスが今し方、紙で切ってしまった指をみせる。
 するとジャンは息を呑んで、鼻と口を腕でおおった。

「うわ~やっぱり! やめてくれよ! せっかくパン喰って誤魔化したのに~!!」

 グゥ~と聞きなれたジャンの腹の音。

「う~っやっぱり無理だ! マティアスまじで今すぐそれくれよ!」

 今にも喰らいつきそうに深紅の瞳をギラギラと輝かせ、だが「ダメだ」とあっさり断られると、その瞳に涙が浮かぶ。

「ま、マティアスのばかやろおぉ。うううそもそもなんでそんな童貞でもない癖にこんな甘い匂いがすんだよ。なんであんな血が旨いんだよ。じゃなかったら俺だって~……本当にダメ?」

「何度も言っているが、《私のはダメだ》」
「またそれだ。わかったよ。わかってるよ」

 床にしゃがみこんで薔薇を片手にいじけだす。
 こうなったら、昼間あった変な奴等んとこにでも行って、と自暴自棄になりだすと、不意に暗い影が落ちた。
 見上げると銀の瞳を持つ端正な顔の男。

「そんなに欲しいか?」

 美しい銀の髪が、さらりと彼の肩から流れ落ちる。

「欲しい」

「……舐めるくらいなら許してやる」

 まさかの言葉に呆然とした。あんなにダメだと言っていたのに何故。

「いらないのか」
「い、いる!」

 慌ててマティアスの手をとった。切れたばかりで、まだ固まっていない血が、指先からつぅーと滴る。
 見た目より深めに切れたようだ。

(ちょっと痛そう)

 その血を一滴も逃すまいと、ジャンは舌を這わせた。


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