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第五章
水魚の交わり12
しおりを挟むわらわらと此方へやってくる12人の黒い翼をもった子供達。
それぞれが口々に「エル様に何してんだよー!」とか「エル様が調子悪そうだったのは魔族のせいだったのね!」「あぁ見て人間もいるわ!」とかなんとか好き勝手に騒いでいる。
一体何処をどう見たらそう見えるのか、青年は月を背にエル様と呼ばれた悪魔に襟首を持ち上げられ、首には鋭い爪が今にも喉をかっ切ろうとしている。
正直首がしまってとても苦しい状態だ。下手すると窒息死、もしくは首の動脈を切られ出血死、はたまた地面に落とされ転落死か。
(て、状況なのにあの子らには俺が悪者に見えるってワケか)
青年は内心で苦笑する。
「やぁお兄さん随分と心配されてるようで、あの子らはまさかアンタの子?」
軽い調子で話しかけると、悪魔は不愉快そうに前方を眺め舌打ちをする。
「ガキ共が……」
その時突然空を飛んでいた悪魔の子達が地面へと次々に落ちる。「ギャーワー」と言いながらイェンの近くで落ちた子供達が翼が重いと口々に騒ぎ始めた。
「悪いけど君たちはそこで大人しくしてて貰うよ。直ぐ終わるから」
どうにもイェンが何かしたらしい。ギャーギャーと騒ぐ子供達をマールが宥めている。
「いったいこれはどういう状況だ?」
これまた突然聞き覚えのある声が城の方からした。まだ城に戻って来ない筈ではと思うイェンと、とか思ってそうだなと思う青年。
「こんな時間に何をしている?」
庭園へと足を踏み出し、此方へと近付く黒髪の男、その長い髪が歩く度に月に照らされ肩を滑る。
ふと顔を上げ、力強い真っ赤な瞳が青年とその悪魔を捉え見開いた。
「……何をしているんだ?」
ここにきて珍しく魔王は怒ったように片眉を潜めた。青年がここに連れて来られてたった数日ではあるが、こんな表情は見た事がない。見た目や雰囲気は傲慢そうに見えても実際は穏やかで、直ぐ狼狽えるようなあまり頼りのない男なのだと思っていた。
「フン貴様には関係ない」
だがエルディアブロは態度を崩す気は全くないらしい。
「それ以上近付けばこ人間の首を落とすぞ」
(おっと動脈を切られるどころじゃなかった)
青年の首を汗が一つ流れる。
魔王は暫し青年と悪魔を見詰め、イェンへと声をかける。するとイェンは片膝をついて頭を垂れた。
「申し訳ありません私(わたくし)がいながらこんな事に」
「それはいいどうなっている。いや多少察しはついてるが」
「実は今朝からその悪魔が妙な言い掛かりを、早くあの男を出せと騒いでおります」
「なるほど参ったな。あれはまだ戻らんぞ。だからと言ってあまり手荒な事もしたくはない」
「とりあえずあの人間はまだ大丈夫かと。ほら手を振る余裕があるくらいですから」
確かに青年は此方へ軽く手を振っている。魔王は溜め息をつくと、また夜空へと向き直った。
「エルディアブロ。悪いがあれはまだ戻らん。今日のところは引き返してはくれないか?」
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