上 下
107 / 133
第五章

水魚の交わり08

しおりを挟む

 そうさとイェンは続ける。
 そもそも悪魔には親がいない。生き物が死んだ生まれ変りとも言われる彼らは、邪気を栄養分に育ったとは思えないほど美しい花から産まれるのだ。その時にはもう人間でいう四歳くらいの子供の姿をしている。
 そして物事の良し悪しの区別もつかない彼らは、好き勝手に生きるが故に子供のうちに様々な理由で死んでいく。

 例えば人間に悪さをはたらきそのせいで殺されたりと。

「おまけに人間は魔族と悪魔の区別なんかつかないだろ? 人間ではないけれど人間のような姿をした者を全て魔族だと思うんだから、悪さをしてるのをぜーんぶ魔族のせいにしやがる、こっちとしては頭が痛いったら~て、悪い。今この話は関係ないか」

 頭をかきながらそう謝ると、目の前の青年は思った以上に深刻な顔をしていた。

「……あーそれで、あの悪魔がなんなのかって話しなんだけど、ハクイ様の」
「「ハクイ様の?」」

 二人が身を乗り出す。その様子にイェンは罰が悪くなり目を背けた。

「あーいや間違った。あれは悪魔の親玉っつーか保護者っつーか、いやガキ大将みたいなもんで名前を"エルディアブロ"って言うんだよ。悪魔にしちゃ珍しく25年も生きてる」
「なんだ俺より1つ下か。てか"エルディアブロ"って……"悪魔"ってそのまんまの意味じゃんか、誰がつけたんだ?」

「ハクイ様だよ」
「ハクイ様?」

 疑問を投げかける青年とは違いマールが「あっ」と声をあげた。

「なんだマール?」
「あの、実はハクイ様は個人的に悪魔の子を気にかけているんです」
「そうそう、何かとはた迷惑な事してくれるし、ハクイ様はあれでいてお優しいから悪魔の子が早くに亡くなってしまうのが見てられないんだよ」
「はい、それでいつも気を配っておいでで」
「だけど悪魔の子はエルディアブロの言う事しか聞く耳をもたない、オマケにエルディアブロってのは面倒な奴でさ、ハクイ様が上手いこと言いくるめて"同盟"と称し悪さをしない事を約束させたんだけど、あの悪魔は自分以外の奴には興味が無い、実質野放し状態なんだよ」

「それじゃあ同盟なんて称した意味もない」

 青年が呆れて言い、イェンは肩を竦め、しばし妙な沈黙が流れた。

「まぁとりあえずあの悪魔がどんな奴なのかは分かった。けど肝心のなんの目的で来たのかがまるで分からない」

 青年の言葉に二人も頷く。

「だったら直接聞いてみようじゃないか"本人"に」
「どうやって?」
「思うに、もし奴が人間の俺らに用があるってんなら今夜辺りまた来るはずだ」

 自信満々に言う青年にマールがどうして?と聞く。

だよ」
「勘って……アナタの勘は侮れないからなぁ」

 マールは覚悟したように自身の腕の中で眠るリーベをしっかりと抱き直す。

「おいおい勘弁してくれよ。今日は魔王さまもハクイ様も城にいないんだ。これ以上何かあったら僕が困るんだけど」
「やっぱりな」
「はい?」
「おかしいと思ったんだ。これだけの事があったのに先日はすっ飛んで来た二人が全く顔を見せないなんて」

 確かにとマールも頷く。

「イェンどうせまだ報告も出来てないんだろう? 丁度いいからもう少し黙ってろ」
「……何する気だよ」

「いいから俺に任せとけって」


 青年は不敵に笑むと片目を瞑ってみせた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

生臭坊主と不肖の息子

ルルオカ
BL
一山の敷地に、こじんまりと本堂を構える後光寺。住職を務める「御白川 我聞」とその義理の息子、庄司が寺に住み、僧侶の菊陽が通ってきている。 女遊びをし、大酒飲みの生臭坊主、我聞が、ほとんど仕事をしない代わりに、庄司と菊陽が寺の業務に当たる日々。たまに、我聞の胡散臭い商売の依頼主がきて、それを皮切りに、この世ならざるものが、庄司の目に写り・・・。 生臭で物臭な坊主と、その義理の息子と、寺に住みつく、あやかしが関わってくるBL小説。BLっぽくはないけど、こんこんのセクハラ発言多発や、後半に描写がでてくるの、ご注意。R15です。 「河童がいない人の哀れ」はべつの依頼の小話になります。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...