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第13話 エコテトの女王

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 煌びやかな玉座の間には、たくさんの家来が二列に並び、私達はその間を歩いていく、と。

 そんな荘厳なイメージはあっさりと崩されてしまった。

 用意されたのは質素な応接室。私とクレスは椅子に腰掛け、女王の到着を待っていた。クレスの隣には第二王女のサラもいる。壁際にいるのはサラの従者のみで、昨日までの監視の精霊術士はいなかった。

 私達と会うのは、あくまでも私的なものということだろう。

 緊張している私達を気遣い、サラ王女は微笑みを向ける。

「女王陛下は穏やかな方です。そう緊張なさらず。」

「そうなんですか?気に入らないことがあるとすぐ上から目線でなじったりしませんか?」

「クレスくんの偏見が早くなくなるといいよね。」

 私は嘆息混じりに呟く。

「そういえばイアルさん、ロザリオが押しかけたそうですね?」

 サラ王女は申し訳なさそうに言う。

「旅のお疲れがあるから遠慮するようにと、あれほど釘を刺したのに。ごめんなさいね。」

「いいえ。前置きは長かったけれど、ただお礼を言いに来てくれたみたいです。」

「雄弁に見えて、実のところ口下手なのです。お忙しいとは思うけれど、後で時間を作ってあげて欲しいの。」

 目を細めて、嬉しそうに話すサラ王女。その様子にクレスは目を輝かせる。

「優しいんですね。好きなんですか?」

「ちょっと、何でもかんでも恋愛事にしないでよ万年思春期が。すみません、失礼なことを。」

「いいんです!全然!?全然好きとかじゃないんで!?」

 なんということでしょう。

 サラ王女は顔を真っ赤にして、頭を高速で横に振る。

 そこで、大きな咳払いが響く。

「女王陛下のおなりです。」

 入り口から声をかけられ、皆で慌てて立ち上がる。

 現れたのは、エコテトの女王ラニア。豊かな黒髪を編み下ろし、シンプルな黒のドレスを身に纏っている。緑の瞳は優しく細められ、私達を見つめていた。

「お会いできて光栄です。クレスさん、イアルさん。」

 よく通る澄んだ声。大声で話しているわけではないのに、くっきりと言葉が頭に刻まれていく。

 女王に促され、私達は席についた。

「さっそくですが、あなた達には今日の午後に開かれる議会に出席し、議員の質問に答えてもらいたいのです。質問内容はこちらに。」

 渡された一枚の紙には、箇条書きで二つの質問が書いてあった。

『アラヤミと話す術をどこで知ったのか。』

『その術を他者に伝承することは可能か。
 』

「できれば今、回答を聞かせてほしいのです。」

「アラヤミと話す術は、兄のヴィオン・ユラフィスから教わりました。」

「兄、ですか?」

「血は繋がっていません。生まれた村が火山の噴火で全滅した時、助けてもらってから、一緒に暮らしていました。」

「そうですか。」

 女王は少し考えた後、申し訳なさそうに告げた。

「あなたの村の話、大変なことでしたね。ただ、今回はアラヤミの話こそが大事です。火山の話はせず、身寄りのないあなたをヴィオン・ユラフィスが引き取ったとだけ話してもらえますか?」

「え?わかりました。」

 クレスは戸惑いながらも、女王の要望を受け入れる。

「次の質問を。あなたの術を、他の者に伝えることはできますか?」

「できると思います。ただ、試してみないことには。」

「協力してくれますか?」

「もちろん!」

 女王は優しく頷く。

「その言葉を聞いて安心しました。」

 女王の視線が私の方を向く。

「イアルさんは、クレスさんの横でサポートをお願いします。たくさんの視線を浴びて、緊張してしまうこともあるでしょう。決して好意的なものばかりではありませんから。」

 私が頷くと、女王は満足気に微笑んだ。

「今日がエコテトの転換期となるでしょう。クレスさん、イアルさん、どうぞよろしくお願いします。」

 優雅に一礼し、退出する女王。

 クレスはほっと胸を撫で下ろしていた。

「優しそうな人でよかったよ。」

「そうだね。」

 クレスはあまり気にしていないようだ。

 そっとサラ王女の表情を窺う。

 彼女は何事もなかったかのように微笑んでいる。

 気づいていないのか、それとも気づいていない振りをしているのか。

「では、私達も参りましょうか。」
 促され、応接室を後にする。だから、クレスが知ることはないだろう。

 どうして女王が村の話をしないよう言ったのか、その本当の理由を。
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