約束の果てに

秋月

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*呪いの連鎖

呪いの連鎖#15

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翌日、怪我は兎も角、頭痛もなく目眩もしなかった

琉「37度7分か…」

熱っぽさと気だるさはまだほんの少し残ってるけどだいぶ落ち着いたと思う
けど、蓮に比べたらやっぱり回復に時間がかかるな…
取り憑かれた経験が無いわけではない
でも、あんなに長い時間取り憑かれた事は初めてだったから、自分で決めたこととはいえ、体調が戻るのも時間がかかるな…
今日も安静にしていた方がいいな…
携帯を開いてみるが、蓮からのメッセージも無ければ着信もない
昨日も俺から連絡してみようかと思ったけど、まだ体調が優れてないだろうし、逆に心配をかけてまた無理してこっちに来るとか言い出しかねないし…と思って連絡しなかった
蓮の事だからもう体調が回復していても可笑しく無いし、連絡の1つくらい寄越してくるかと思ったけど…
こんなに静かだと余計不安だ
まだ…良くなってないのか…?
俺から連絡を…いや、それより会いに行くか?
動けないほどではないし…
けど、母さん達に見つかると面倒だな…
心配なのも当然だけど…俺が蓮に会いたかった

琉「…はぁ…しょうがない、連絡してみるか…」

そう決心した時、ノックの音と母さんの声が聞こえた

華「琉~?開けてもいい?」

母さん…
しょうがない、電話は後にするか…

琉「あぁ」

華「調子はどう?琉
顔色は随分良くなったみたいだけど」

なんだか昨日とは打って変わって陽気な様子の母さんが顔を覗かせた

琉「まだ微熱と気だるさがあるくらい
あとは大したこと無いって」

華「そ?ゆっくりでも回復してるみたいで良かった!
そうそう、今日はお客さんを連れてきたんだよ♪」

琉「客?」

華「うん、そう!
じゃーん!蓮ちゃんがお見舞いに来てくれたよ♪」

母さんの後ろから顔を覗かせる蓮
勿論桜も一緒だった

琉「蓮…」

蓮「琉、おはよう」

蓮はいつもと変わらない様子で笑みを溢しながら俺に挨拶してきた

華「じゃぁ蓮ちゃん、好きなだけゆっくりしていってね」

蓮「はい、ありがとうございます」

母さんが御機嫌だったのは蓮が来てたからか…
母さんが出て行くと蓮は俺の方に視線を向けた

蓮「えと…琉、1日ぶりだね」

なんかぎこちなさそうだな…

琉「丁度今連絡しようとしてた所
その様子じゃ大丈夫そうだな」

あれだけ強い呪いを受けて瀕死に近い状態だったのに、今の蓮にそんな様子は微塵も無い
やっぱり回復が早いな
蓮が来てくれて、会うことができて正直やっと心の底から安心した

蓮「うん、もうすっかり元気だよ
昨日は私もほぼ1日寝てたの」

笑って答える蓮
なんか普通だな…
こいつの事だから俺の怪我とか見て、責任感じて泣くかとも思ったけど…
まぁ、泣かないなら良かった
こいつの泣き顔なんて見たくないからな

琉「桜も大丈夫だったか?」

桜「私なんて1番平気だって
大して役にも立てなかったし」

琉「そんなこと無い
正直お前に何度も助けられた
俺がこの程度の怪我で済んでるのはお前のお陰だし感謝してる」

桜の様子じゃ悪い影響とか負担は出てなさそうだな

桜「…ありがとう
あんたがそう言ってくれると救われる」

自分の事を重荷に思ってそうだな…
桜も俺と同じ様に己の無力さを嘆いていただろうから

桜「さてと!琉の無事も確認したし、私は席を外すね」

蓮「え?桜どこか行くの?」

桜「今は2人っきりの方が良いでしょ?
安心して?この敷地内には居るし、2人が呼びに来るまでは戻って来ないから♪
それじゃ、ごゆっくり~♪」

蓮「あ、桜…」

そうにこやかに桜は部屋から出ていった
変な気を使いやがって…

琉「取り合えず座れば」

俺もベットから降りようと体を動かす

蓮「駄目!無理に動かなくていいよ
骨にヒビも入って微熱もあるんでしょ?」

琉「お前の隣に座るくらい平気だって」

蓮「駄目ったら駄目
私がそっち行くから」

琉「は?」

そっちって?
疑問に思ったのも束の間、蓮はベットに腰掛けて座った
こいつ、躊躇いなく座りやがった…

琉「なんでお前までここに座るんだよ」

蓮「え?だってこっちの方が話しやすいと思って」

琉「…はぁ…お前、俺以外の前でこうゆうことするなよ」

蓮「こうゆうこと?」

蓮のこの様子、意味分かってないし無自覚かよ…

琉「なんでもない
それより父さんから聞いた
瀕死に近い状態だったのに無理して俺の所に来ようとしたんだって?
しかもそんな状態で囮役買って出たって?」

俺がそう聞くと蓮は罰が悪そうな顔をした

蓮「陸人さん…琉に話しちゃったの…?」

琉「父さんも危なっかしいてさ
本当に父さん達が気付かなかったらどうなってたと思ってるんだよ」

蓮「ごめん…」

しゅん、と肩をすぼめる蓮

琉「…頼むから俺の目の届かない所で無茶するなよ」

蓮「琉だって無茶しないで
桜に聞いたんだよ
吐血したって」

へこんでいたかと思えば、少し険しい顔付きでそう言ってきた
桜、余計な事言って…

蓮「吐血したって…大丈夫なの?」

琉「負担がかかりすぎたんだろ
吐血したのもあの1回だけだし、今は特に何ともない」

蓮「そっか…良かった…」

少し安堵する蓮の頬に手を伸ばして触れた

蓮「琉?」

琉「俺がもっと平澤の事を何とかしてたらお前があそこまで苦しむことも無かったのに、悪かった」

触れて感じる、確かな心地いい蓮の温もり
でも、こうして触れててもあの冷たさを思い出してしまう

蓮「ううん、琉は精一杯してくれたよ
だから私はこうして生きてるんだし
ありがとう琉」

そう穏やかに笑った蓮
その顔を見て何処と無く張り詰めていた物が緩むように微かに笑みが溢れた

琉「父さんも言ってたけど、お前の精神力には驚いた
呪いの影響で意識を保つことすら出来ないような状況で動けるんだからな」

蓮「えへへ…それはもう、無我夢中というか…自分でもびっくりかな」

そう笑う蓮の頬に触れてるとそういえばと思い出した

琉「そういえば約束まだ果たしてなかったな」

俺がそう呟くと蓮はきょとんとして呟いた

蓮「約束?」
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