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番外編
魔女はある時突然に……⑥
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「どうしたの!?」
ファリーナの見開かれた瞳があたしを捉える。
その表情が良いものか悪いものかの区別がつかず息を呑む。
すると、ファリーナの目から、ポロポロと涙が溢れ始めた。
まさか……効かなかったの!?と、愕然とした時、彼女がボソッと呟いた。
「目を……醒ましました……」
……紛らわしいっ!!
その言葉をあたしは必死で飲み込んだ。
「ほ、ほんと!?良かった。どれどれ?様子を見ようかな?」
と、ラナスに近付く。
彼は薄く目を開け、ぼんやりとはしていたけど、最初見た時よりも遥かに顔色がいい。
呼吸も安定していて、脈もしっかり振れている。
「いい感じね。じゃあ、マリおばさん、今から薬を量産するから、同じ方法で他の皆に飲ませて貰えます?」
「はいっ!お任せ下さいませ!聖女様っ!」
聖女じゃないったらー!
しかし、ここでも訂正する時間が惜しい!!
あたしはなんちゃって聖女のまま、ひたすら特効薬を量産した。
「ふぅ。これでなんとか全員分行き渡ったわね?」
「お疲れ様でございます!少しお休みください。後は私達で出来ますので」
ファリーナが温かいお茶と、毛布を持ってきてくれた。
救える算段がついて緊張が解れたのか、どっと疲れが出てきて、お茶を一口含むともう瞼を開けてはいられなかった。
「お言葉に甘えて……寝ます……」
と言った後のことは覚えていない。
ただ、とても満ち足りた気分で眠りについたのだけは確かだった。
******
---どのくらい寝ていたのだろう。
辺りがガヤガヤし始めて漸くあたしの重たい目が開いた。
「ん……んん?んんん?んんんん?」
目を擦りながら、見えた光景が信じられず、また目を擦る。
そうして、瞼がものすごく赤くなった頃、漸くあたしは覚醒した。
「聖女様ーーっ!!」
そこには人の波があり、何故だか「聖女」を連呼している。
広くない村長の家に、溢れんばかりの人、人、人……。
ちょっと酔いそうなくらいの数にあたしは目を見開いた。
「な、な、な、な、何です?これ?」
「おはようございます!聖女様!」
ファリーナがいい笑顔で言った。
「え、えっと、何事?」
「聖女様のお薬により、村人全員、快方に向かっております!その喜びをお伝えしようと、こうして集まっているのです!!」
「あ、うん。そう。皆、良かったね、うん。良かったね……」
……本当はもっと喜びたい。
「イヤッホーイ!!全員助かったなんて最高ね!!あたし、天才?天才よね?アハハハハハー!!」くらい言いたい……。
でも、周りに先にお祭り騒ぎされちゃあね。
そんな胸の内など知らず、村人の皆さんはしきりに賛美の声をかけてくる。
それに対して「いや、それほどでも」とか「ど、どういたしまして」なんて必死で答えていると、澄んだ声がお祭り騒ぎを収めた。
「皆、落ち着きなさい」
人の波を掻き分け出てきたのは、村長のラナスだ。
彼はすっかり元気になって、足取りもしっかりしている。
それを見てあたしはほっと胸を撫で下ろした。
「聖女様。驚かせて申し訳ありません。皆、嬉しくて仕方なかったのです」
「あ、うん。大丈夫。大丈夫。平気です」
軽く答えると、隣のファリーナがふふっと可愛らしく笑った。
ラナスの腕を取り、見上げるファリーナはとても幸せそう。
良かった。本当に……。
「それで、私、村長のラナスが聖女様に改めてお礼をと……」
「ちょっ、ちょっと、待って!」
「はい?」
村長夫妻は小首を傾げ、村民の皆さんも同じ様に傾げる。
「あたし、聖女ではないのでっ!アリエルという素敵で可憐な名前があるの。だから、そう呼んで?」
「えっ、アリエル様と?」
ファリーナが言う。
「様はやめようよ。もうどうしてもって言うなら、アリエルさんで」
「アリエルさん……」
「アリエルさん」
「アリエル……さん?」
村人が口々に「アリエルさん」と呟き始め、変な呪文を唱えてるみたいになった。
その場のおかしな空気を消し去ったのはやはり村長ラナス。
彼はパンパンと手を叩くと、大きな声で言った。
「では、改めて。アリエルさん!どうもありがとうございます!!この通り皆、回復致しました。それで、薬代のことなのですが……」
「あ。いらないいらない」
「はぁ!?」
ヒラヒラと手を振るあたしを見て、村人全員が示し会わせたように叫んだ。
「そんな……いけません。出張代とお薬代、すぐにお支払いは難しいですが、必ず何年かかっても……」
「いらないってば!」
食い下がるラナスに、あたしはキッパリ言い放った。
だって、そうでしょう??
もともとは、カーズの企みによるものだし、使われたのはあたしの作った毒。
これで、お代をもらうわけにはいかない。
それどころか、払ってもいいくらいだ。
「しかし……」
「いいのいいの。領地の人からは貰わないようにしてるのよ。教会普請も手伝ってくれているし、ね?」
ラナスはそれでも不本意な顔をしていたけど、やがてファリーナに宥められ諦めたようだ。
そして、お代に変わる次の提案をし始めた。
「わかりました。アリエルさんのご厚意に甘えさせて頂きます!そのかわり、ぜひ村の宴にご参加をお願いします。大したおもてなしは出来ませんが、皆の感謝気持ちですから……」
本当は早く帰ってやらなきゃならないことがあるけど……。
でも、こんな風に言われたら、無下に断るのも申し訳ない。
「そ、そうね。じゃあ、ごちそうになります!」
「ああ、良かった!では皆、早速仕度を!!アリエルさんに喜んで貰おう!」
ラナスの声が響くと、村人がそれぞれ駆け出していく。
その顔は楽しそうで、とても幸せそうで、釣られてあたしも笑顔になった。
ファリーナの見開かれた瞳があたしを捉える。
その表情が良いものか悪いものかの区別がつかず息を呑む。
すると、ファリーナの目から、ポロポロと涙が溢れ始めた。
まさか……効かなかったの!?と、愕然とした時、彼女がボソッと呟いた。
「目を……醒ましました……」
……紛らわしいっ!!
その言葉をあたしは必死で飲み込んだ。
「ほ、ほんと!?良かった。どれどれ?様子を見ようかな?」
と、ラナスに近付く。
彼は薄く目を開け、ぼんやりとはしていたけど、最初見た時よりも遥かに顔色がいい。
呼吸も安定していて、脈もしっかり振れている。
「いい感じね。じゃあ、マリおばさん、今から薬を量産するから、同じ方法で他の皆に飲ませて貰えます?」
「はいっ!お任せ下さいませ!聖女様っ!」
聖女じゃないったらー!
しかし、ここでも訂正する時間が惜しい!!
あたしはなんちゃって聖女のまま、ひたすら特効薬を量産した。
「ふぅ。これでなんとか全員分行き渡ったわね?」
「お疲れ様でございます!少しお休みください。後は私達で出来ますので」
ファリーナが温かいお茶と、毛布を持ってきてくれた。
救える算段がついて緊張が解れたのか、どっと疲れが出てきて、お茶を一口含むともう瞼を開けてはいられなかった。
「お言葉に甘えて……寝ます……」
と言った後のことは覚えていない。
ただ、とても満ち足りた気分で眠りについたのだけは確かだった。
******
---どのくらい寝ていたのだろう。
辺りがガヤガヤし始めて漸くあたしの重たい目が開いた。
「ん……んん?んんん?んんんん?」
目を擦りながら、見えた光景が信じられず、また目を擦る。
そうして、瞼がものすごく赤くなった頃、漸くあたしは覚醒した。
「聖女様ーーっ!!」
そこには人の波があり、何故だか「聖女」を連呼している。
広くない村長の家に、溢れんばかりの人、人、人……。
ちょっと酔いそうなくらいの数にあたしは目を見開いた。
「な、な、な、な、何です?これ?」
「おはようございます!聖女様!」
ファリーナがいい笑顔で言った。
「え、えっと、何事?」
「聖女様のお薬により、村人全員、快方に向かっております!その喜びをお伝えしようと、こうして集まっているのです!!」
「あ、うん。そう。皆、良かったね、うん。良かったね……」
……本当はもっと喜びたい。
「イヤッホーイ!!全員助かったなんて最高ね!!あたし、天才?天才よね?アハハハハハー!!」くらい言いたい……。
でも、周りに先にお祭り騒ぎされちゃあね。
そんな胸の内など知らず、村人の皆さんはしきりに賛美の声をかけてくる。
それに対して「いや、それほどでも」とか「ど、どういたしまして」なんて必死で答えていると、澄んだ声がお祭り騒ぎを収めた。
「皆、落ち着きなさい」
人の波を掻き分け出てきたのは、村長のラナスだ。
彼はすっかり元気になって、足取りもしっかりしている。
それを見てあたしはほっと胸を撫で下ろした。
「聖女様。驚かせて申し訳ありません。皆、嬉しくて仕方なかったのです」
「あ、うん。大丈夫。大丈夫。平気です」
軽く答えると、隣のファリーナがふふっと可愛らしく笑った。
ラナスの腕を取り、見上げるファリーナはとても幸せそう。
良かった。本当に……。
「それで、私、村長のラナスが聖女様に改めてお礼をと……」
「ちょっ、ちょっと、待って!」
「はい?」
村長夫妻は小首を傾げ、村民の皆さんも同じ様に傾げる。
「あたし、聖女ではないのでっ!アリエルという素敵で可憐な名前があるの。だから、そう呼んで?」
「えっ、アリエル様と?」
ファリーナが言う。
「様はやめようよ。もうどうしてもって言うなら、アリエルさんで」
「アリエルさん……」
「アリエルさん」
「アリエル……さん?」
村人が口々に「アリエルさん」と呟き始め、変な呪文を唱えてるみたいになった。
その場のおかしな空気を消し去ったのはやはり村長ラナス。
彼はパンパンと手を叩くと、大きな声で言った。
「では、改めて。アリエルさん!どうもありがとうございます!!この通り皆、回復致しました。それで、薬代のことなのですが……」
「あ。いらないいらない」
「はぁ!?」
ヒラヒラと手を振るあたしを見て、村人全員が示し会わせたように叫んだ。
「そんな……いけません。出張代とお薬代、すぐにお支払いは難しいですが、必ず何年かかっても……」
「いらないってば!」
食い下がるラナスに、あたしはキッパリ言い放った。
だって、そうでしょう??
もともとは、カーズの企みによるものだし、使われたのはあたしの作った毒。
これで、お代をもらうわけにはいかない。
それどころか、払ってもいいくらいだ。
「しかし……」
「いいのいいの。領地の人からは貰わないようにしてるのよ。教会普請も手伝ってくれているし、ね?」
ラナスはそれでも不本意な顔をしていたけど、やがてファリーナに宥められ諦めたようだ。
そして、お代に変わる次の提案をし始めた。
「わかりました。アリエルさんのご厚意に甘えさせて頂きます!そのかわり、ぜひ村の宴にご参加をお願いします。大したおもてなしは出来ませんが、皆の感謝気持ちですから……」
本当は早く帰ってやらなきゃならないことがあるけど……。
でも、こんな風に言われたら、無下に断るのも申し訳ない。
「そ、そうね。じゃあ、ごちそうになります!」
「ああ、良かった!では皆、早速仕度を!!アリエルさんに喜んで貰おう!」
ラナスの声が響くと、村人がそれぞれ駆け出していく。
その顔は楽しそうで、とても幸せそうで、釣られてあたしも笑顔になった。
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