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番外編
魔女はある時突然に……①
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新国家発足から2ヶ月、あたし、アリエル・レインはまだ毒物の謎を解き明かせずにいる。
ディラン・ヴァーミリオン王も、騎士団の皆さんも、相変わらず死んだまま。
しかも、そのことにまるで危機感を抱いていないのが彼ららしくて笑える。
でも、あたしとしては?
自分の作った不良品の結果を目の当たりにするのは、いかにも不愉快だったりする。
つまり死人騎士団さん達には、早いところ生き返ってもらわないと、枕を高くして眠れないのだ。
「アリエル?この書物で良かったのかな?」
隣国ナリシスの別荘で研究を続けるあたしの元へは、よくローケン・グリーグ審問官がやって来る。
ラシュカの王立図書館の本や文献は、首都ヴァーミリオンへ移された。
そこへ行けないあたしの為に審問官が運び屋……いや、配達屋をしてくれている。
「はいはいはいはい。どうもすみません!忙しいのにありがとうございますっ!」
「……いい加減、返事は一度にしてくれませんか……落ち着かない……」
相変わらずクソ真面目で面白くない男だなー。
こんなもの、ご愛嬌でしょうよ。
そう思ったことがあたしの表情に出たようで、審問官は苦虫を潰したような顔になり、持っていた本を押し付けた。
「全く……その姿をしていなければ王都で暮らせたのに……」
確かに、エレナの体に入りこんでなければ王都で暮らすことは出来るはず。
でもこうなったきっかけは、あなた方にあるんじゃない!?
……とは言えないわね。
これは破格の取引。
あたしを名簿に入れてくれたハーミットさんと、選んでくれた審問官の温情だものね。
「まぁ……ね。仕方ないですよ。審問官さんにはご迷惑をお掛けしますけど……」
本を両手で抱え込みペコリと頭を下げると、審問官は困ったように腕を組んだ。
「いや。君には大きな借りがありますから」
「……ああ、ラシュカの事件の時の?」
あたしの可愛い作品が、大いに役に立ったことですよね?
そんな、お礼なんていいんですよ?
と……口には出さない。
何事も、考えているだけが無難なことをあたしは知っている。
「それもありますが……そうじゃなくて……あの件ですよ?」
「あの件……あー、あの件ね……はいはいはい」
そう言いつつ、どの件だ!?と目を泳がせた。
どうも脳が研究分野(毒のみ)にしか発達してなくて、他のことを記憶する引き出しが極端に少ない。
物覚えが悪い……というか、あたしの脳、覚える気はまるでないらしい。
「覚えてないな?」
「うっ!」
ご明察。
相変わらず鋭すぎる審問官は、こちらの考えなどお見通しらしい。
彼は呆れた顔をして、次の瞬間フッと表情を弛めると、懐かしそうにあたしを見て言った。
「言ったでしょう?レイン男爵夫人。君のお陰で、今の私があるのだと」
「あ……」
そう言えばヴァーミリオン子爵邸で、聞かれたことがあった。
あたしの過去について。
そして、こうも聞いたわね。
『ファリーナという女性を知っているか?』と。
ディラン・ヴァーミリオン王も、騎士団の皆さんも、相変わらず死んだまま。
しかも、そのことにまるで危機感を抱いていないのが彼ららしくて笑える。
でも、あたしとしては?
自分の作った不良品の結果を目の当たりにするのは、いかにも不愉快だったりする。
つまり死人騎士団さん達には、早いところ生き返ってもらわないと、枕を高くして眠れないのだ。
「アリエル?この書物で良かったのかな?」
隣国ナリシスの別荘で研究を続けるあたしの元へは、よくローケン・グリーグ審問官がやって来る。
ラシュカの王立図書館の本や文献は、首都ヴァーミリオンへ移された。
そこへ行けないあたしの為に審問官が運び屋……いや、配達屋をしてくれている。
「はいはいはいはい。どうもすみません!忙しいのにありがとうございますっ!」
「……いい加減、返事は一度にしてくれませんか……落ち着かない……」
相変わらずクソ真面目で面白くない男だなー。
こんなもの、ご愛嬌でしょうよ。
そう思ったことがあたしの表情に出たようで、審問官は苦虫を潰したような顔になり、持っていた本を押し付けた。
「全く……その姿をしていなければ王都で暮らせたのに……」
確かに、エレナの体に入りこんでなければ王都で暮らすことは出来るはず。
でもこうなったきっかけは、あなた方にあるんじゃない!?
……とは言えないわね。
これは破格の取引。
あたしを名簿に入れてくれたハーミットさんと、選んでくれた審問官の温情だものね。
「まぁ……ね。仕方ないですよ。審問官さんにはご迷惑をお掛けしますけど……」
本を両手で抱え込みペコリと頭を下げると、審問官は困ったように腕を組んだ。
「いや。君には大きな借りがありますから」
「……ああ、ラシュカの事件の時の?」
あたしの可愛い作品が、大いに役に立ったことですよね?
そんな、お礼なんていいんですよ?
と……口には出さない。
何事も、考えているだけが無難なことをあたしは知っている。
「それもありますが……そうじゃなくて……あの件ですよ?」
「あの件……あー、あの件ね……はいはいはい」
そう言いつつ、どの件だ!?と目を泳がせた。
どうも脳が研究分野(毒のみ)にしか発達してなくて、他のことを記憶する引き出しが極端に少ない。
物覚えが悪い……というか、あたしの脳、覚える気はまるでないらしい。
「覚えてないな?」
「うっ!」
ご明察。
相変わらず鋭すぎる審問官は、こちらの考えなどお見通しらしい。
彼は呆れた顔をして、次の瞬間フッと表情を弛めると、懐かしそうにあたしを見て言った。
「言ったでしょう?レイン男爵夫人。君のお陰で、今の私があるのだと」
「あ……」
そう言えばヴァーミリオン子爵邸で、聞かれたことがあった。
あたしの過去について。
そして、こうも聞いたわね。
『ファリーナという女性を知っているか?』と。
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