上 下
159 / 169
番外編

魔女はある時突然に……①

しおりを挟む
新国家発足から2ヶ月、あたし、アリエル・レインはまだ毒物の謎を解き明かせずにいる。
ディラン・ヴァーミリオン王も、騎士団の皆さんも、相変わらず死んだまま。
しかも、そのことにまるで危機感を抱いていないのが彼ららしくて笑える。
でも、あたしとしては?
自分の作った不良品の結果を目の当たりにするのは、いかにも不愉快だったりする。
つまり死人騎士団さん達には、早いところ生き返ってもらわないと、枕を高くして眠れないのだ。

「アリエル?この書物で良かったのかな?」

隣国ナリシスの別荘で研究を続けるあたしの元へは、よくローケン・グリーグ審問官がやって来る。
ラシュカの王立図書館の本や文献は、首都ヴァーミリオンへ移された。
そこへ行けないあたしの為に審問官が運び屋……いや、配達屋をしてくれている。

「はいはいはいはい。どうもすみません!忙しいのにありがとうございますっ!」

「……いい加減、返事は一度にしてくれませんか……落ち着かない……」

相変わらずクソ真面目で面白くない男だなー。
こんなもの、ご愛嬌でしょうよ。
そう思ったことがあたしの表情に出たようで、審問官は苦虫を潰したような顔になり、持っていた本を押し付けた。

「全く……その姿をしていなければ王都で暮らせたのに……」

確かに、エレナの体に入りこんでなければ王都で暮らすことは出来るはず。
でもこうなったきっかけは、あなた方にあるんじゃない!?
……とは言えないわね。
これは破格の取引。
あたしを名簿に入れてくれたハーミットさんと、選んでくれた審問官の温情だものね。

「まぁ……ね。仕方ないですよ。審問官さんにはご迷惑をお掛けしますけど……」

本を両手で抱え込みペコリと頭を下げると、審問官は困ったように腕を組んだ。

「いや。君には大きな借りがありますから」

「……ああ、ラシュカの事件の時の?」

あたしの可愛い作品が、大いに役に立ったことですよね?
そんな、お礼なんていいんですよ?
と……口には出さない。
何事も、考えているだけが無難なことをあたしは知っている。

「それもありますが……そうじゃなくて……あの件ですよ?」

「あの件……あー、あの件ね……はいはいはい」

そう言いつつ、どの件だ!?と目を泳がせた。
どうも脳が研究分野(毒のみ)にしか発達してなくて、他のことを記憶する引き出しが極端に少ない。
物覚えが悪い……というか、あたしの脳、覚える気はまるでないらしい。

「覚えてないな?」

「うっ!」

ご明察。
相変わらず鋭すぎる審問官は、こちらの考えなどお見通しらしい。
彼は呆れた顔をして、次の瞬間フッと表情を弛めると、懐かしそうにあたしを見て言った。

「言ったでしょう?レイン男爵夫人。君のお陰で、今の私があるのだと」

「あ……」

そう言えばヴァーミリオン子爵邸で、聞かれたことがあった。
あたしの過去について。
そして、こうも聞いたわね。
『ファリーナという女性を知っているか?』と。








しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...