上 下
138 / 169
王都

138.地上を守る盾

しおりを挟む
「それは出来ません」

私は、キッと父を睨んだ。
生まれてこの方、父を睨んだことなんてない。
ぼーっとしていて、ことなかれ主義の私が両親と衝突することなんて一度もなかったからだ。
そんな私の人生初の反抗に、父は愕然とした。

「ど、ど、ど、どうした!?シルベーヌ?反抗期か?遅れてやってきた反抗期なのか!?」

アワアワと面白いくらい慌てる父。
それを目の前で見て、ディランも慌てて言った。

「シルベーヌ様。もうこうなったらこちらにいては危ない。君を危険な目に会わせることだけは出来ない……それは、この地上が滅んでもだ」

彼の思いを聞いて、私は頷いた。
でもそれは、納得したわけじゃない。
「私に任せて!」そういうつもりで頷いたのよ!

「お父様。私はこの地上へ、ラシュカ国王の妃になるためにやって来ました。約束はこうでしたよね?《ラシュカ王が私と結婚しなければ命を奪い、それを合図に地上を侵攻する》と」

「そうだ。だからこうして……」

「別人です」

「は?」

父は目と口をだらしなく開けた。

「べ、別人?それはどういうことだ?」

私は大きく息を吸った。
ここからが正念場よ!

「さっき死んだのはラシュカの王ではなく別人。あ、正確に言うと、王であったけどもう王ではないということです」

「……苦し紛れに何を言う。あやつ、ザビルが王であったことは冥鏡の名簿にも記されておる」

「事態は刻々と変わるもの。ほんの一時の間に、王は代替わりをしていたのですっ!」

私は声を張る。
負けられない戦いがここにあるからよ!

「ふん………聞いてやろう。お前のその奇策をな」

不敵に笑う父を前にして、私はディランの腕の中から地面に降りた。
守られているだけじゃない!
今度は私が皆を守ってあげる!
そんな思いで叫び倒した。

「これを見て下さい!」

ドレスのポケットから、あるものを取り出し天に掲げる。
ガストが命懸けで守ったもの、それは、今地上を守る唯一の盾になる。

「王の王足る証。レガリアです!これは……彼のもの……」

私は、ディランの手を取り、指にそれを嵌めた。
きっと驚いているだろう彼の顔を見ることは出来ない。
恥ずかしさもあり、照れもあり……。
これから言わなければいけないとても大事なこと、それを考えると、真っ赤になっている顔を見せることは出来なかった。





しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

白崎りか
恋愛
色なしのアリアには、従兄のギルベルトが全てだった。 「ギルベルト様は私の婚約者よ! 近づかないで。色なしのくせに!」 (お兄様の婚約者に嫌われてしまった。もう、お兄様には会えないの? 私はかわいそうな「妹」でしかないから) ギルベルトと距離を置こうとすると、彼は「一緒に暮らそう」と言いだした。 「婚約者に愛情などない。大切なのは、アリアだけだ」  色なしは魔力がないはずなのに、アリアは魔法が使えることが分かった。 糸を染める魔法だ。染めた糸で刺繍したハンカチは、不思議な力を持っていた。 「こんな魔法は初めてだ」 薔薇の迷路で出会った王子は、アリアに手を差し伸べる。 「今のままでいいの? これは君にとって良い機会だよ」 アリアは魔法の力で聖女になる。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

処理中です...