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王都

135.冥府の王vs眩しい人

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その時だった。

突然激しい地鳴りがし、王宮全体がビリビリと震え、薄い硝子は耐えきれずに割れる。
パラパラと石の欠片が天井から落ちるのを見て、ディランが慌てて私に覆い被さった。

「ここは危ない。外に出よう。皆、正面入り口まで走れ!!」

ディランの号令に、全員が速やかに行動した。
足元が覚束ない王女達を、騎士団が助けながら走る。
私は渡されたディランの上着を頭から被り、いつものように抱えられて移動した。
自分で走るよりもこの方が断然早い。
瞬間移動をするディランだから、ヒョロガリのお荷物が増えても、凡人よりも早いのよね。
悔しいけど。

尚も地鳴りは収まらず、入り口へ続く長い廊下では、細い柱が倒壊し、高そうな花瓶は床で粉々になっている。
その中を足早に抜け、正面入り口に辿り着くと、視界が黒に染まった。

地面を埋め尽くすほどの黒、黒、黒。
屈強な体躯に、身の丈を超える剣。
心のない金色の目、真一文字に裂けた赤い口。
そのなかには鋭い牙も備わっている。
一体でも手こずりそうな黒の戦士が、正面入り口広場には、数百体いた。

「な、何だこれ……」

並列して走っていたロビーが思わず口にした。
後ろから来たクレバードも、アッシュも……皆、目を見開いている。

「そんな………もう?」

私は絶望の声を出した。

ザッザッザッ!
冥府の軍勢は一糸乱れぬ動きで、隊列の真ん中に道を作り、やがて来る主を待つ。
すると地鳴りのような音が止み、静寂が生まれ、軍勢の真ん中にある人物が現れた。

「あれは……」

私を抱く手に力を込めながら、ディランが呟く。

「冥府の王、ルーマンド・ゼクロム・アルハガウン。私の父よ」

漆黒のローブに漆黒の剣。
容姿も私と同じ黒髪黒目で、同じ様に首から魂呼びの鏡を架けフードを目深に被っている。
軍勢の中をゆったりとした足取りで進み、王宮入り口に私を発見すると、父は歩み寄ってフードをとった。

「シルベーヌ、やはりラシュカ王はたわけだったようだな……残念なことだ。そのせいで地上も災難に見舞われ………あー、それで……どうしてお前、男に抱かれているんだ?ん?」

父は私とディランを交互に見て、最終的にディランを睨んだ。
どうしてと言われても困る……。
もうずっとこれだし、慣れると移動も便利よ。
なんて、この状況で言えないわー。

「………………お父様、あの……」

「はじめまして。冥府の王、ルーマンド様。俺……私はラシュカ国、ヴァーミリオン領主、ディラン・ヴァーミリオンです」

私が話すより早く、ディランが父に挨拶をした。
彼は思ったよりも堂々として、変態王より王らしく見える。

「名を聞いているのではない。どうしてうちの娘を抱いているのかと聞いているんだ!!」

「どうしてと言われても……もうずっとこれなんで……」

と、ディランはいつものようにあははと笑った。
だから!何度言わせるの?あははじゃないってぇー!
怒らせるようなことしてどうすんの!?
号令一つで殲滅されるわよ!
案の定、父は顔を真っ赤にして言い返した。

「ずっと……だと!?ずっと、抱いているだと!……ディランと言ったか?今すぐ娘をこちらに渡せ」

「え?無理です」

それを聞いて、父は震え始めた。
ああ、怒りのあまり?
………これ、地上、終ったかも……ね。

「ディランっ、怒らせないでよ……」

私の止める声に、ディランはチラッと視線を向け、いつものようにキラキラの笑顔を見せた。
……暗闇の中、煌めく銀色の光は眩しすぎる。
免疫のある私と違い、父はあまりの眩しさに目がくらみ体をふらつかせた。

「何だ!やたらと眩しいな、おい!その光をどうにかしろ!」

いや、無理だし。
たとえ丸坊主にしても、煌めくよ、この男は。

「地上への侵攻を諦めてくれれば、止めますが」

え……出来た……の?そんなバカな……。
煌めき調整可能だなんて聞いてない……。
私の心の声を感じ取ったのか、ディランが見下ろして笑っている。
だから、笑ってる場合じゃない!
もっと緊張感を持ちなさい!!
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