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王都
128.ここで見てる
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ヒューゴは携帯していた何本かのナイフを床に置き、俯せになった遺体を仰向けにした。
遺体はお腹の辺りを両手で押さえている。
そのまま絶命した……のだと思う。
ガストは死の間際まで、レガリアを守ろうとした……それを思って、私はまた胸が締め付けられた。
「シルベーヌ様……外で待っていて下さい」
そう言うヒューゴに私は首を振る。
「いいえ、ここで見てます。宰相ガストの最後の意地をここで……」
ふと、佇む亡霊に目を向ける。
ガストはふふと柔らかく微笑み、胸に手を当て一礼した。
「ディラン、手を握ってて?」
私は後ろにいたディランに手を差し出した。
彼はその手を取り強く握ると、
「ああ、喜んで」
と暗闇の中で目映く笑った。
ヒューゴは手早く処置を開始した。
遺体はちょうど硬直中で、ナイフの扱いも難しいはずだけど、ヒューゴは上手く刃を入れ、遺体をこれ以上傷付けることなく目的の物を取り出した。
「シルベーヌ様、これを……」
ヒューゴは取り出したものを一度綺麗に拭き、私に手渡した。
それは、少し大きめの指輪のようで、本来石が付いている部分には、王家の紋章らしき意匠が彫り込まれていた。
親書や大切な書類に、これで印を押すのね。
くすんだレガリアは王家が紡いできた歴史を感じさせ、端が欠けたような所も、歴代の王が積み重ねてきた証にも見えた。
バカよね……素晴らしい先人が築いてきたものを、私利私欲の為に失ってしまうなんて。
私はレガリアをドレスの内側に作ってもらっていたポケットに大切にしまった。
ウィレムにおやつ収納用に作ってもらってたのが早速役に立ったわ!
ヒューゴは遺体の大きい傷を縫合し、こびりついた血糊を綺麗に拭いた。
破れている服は、ささっとウィレムが縫い合わせ、それから横に提げた袋からあるものを取り出した。
「これを、掛けておきましょうね」
彼は遺体に赤地に青い十字の刺繍が入った大きな布を被せた。
それは、ヴァーミリオン領で幾度と見たシンボル。
騎士団詰所に大きく掲げられた団旗だった。
ただ少し、それと違ったのは、十字の真ん中に羽を広げた黒蝶が足されていたこと。
「宰相ガスト・フォード。貴方の勇気ある行動に感謝を!」
ディランが胸に手を当て黙祷を始め、ヒューゴとウィレム、そしてスレイとロビーもそれに倣う。
私は一歩前に出て、遺体の上に浮かんだガストに声を掛けた。
「行きましょうか?」
「はい。ありがとうございます……娘を……どうかよろしく……」
「………わかったわ。スピークルム、お願い」
『はいデス。それでは……』
そう言うと、スピークルムは体から白い光線のような光を出した。
光はガストの体に螺旋状に巻き付き、輝きを強めながら、ゆっくりと溶かすように同化して行く。
そして、騎士団の黙祷が終わる頃には、輝きは消え、静寂と暗闇だけが残った。
「冥府へと旅立ったか……」
私の隣にディランが寄り添い、2人で同じ虚空を見つめた。
もう誰もいないその場所が、まだ輝いているようにも見えて少し涙が出た。
「………ええ。最後まで……笑っていたわ」
「そうか……」
ディランは噛み締めるように呟くと、勢い良く振り返り、回廊に響き渡る声で言った。
「分岐点で皆と合流し、速やかに脱出する!!」
遺体はお腹の辺りを両手で押さえている。
そのまま絶命した……のだと思う。
ガストは死の間際まで、レガリアを守ろうとした……それを思って、私はまた胸が締め付けられた。
「シルベーヌ様……外で待っていて下さい」
そう言うヒューゴに私は首を振る。
「いいえ、ここで見てます。宰相ガストの最後の意地をここで……」
ふと、佇む亡霊に目を向ける。
ガストはふふと柔らかく微笑み、胸に手を当て一礼した。
「ディラン、手を握ってて?」
私は後ろにいたディランに手を差し出した。
彼はその手を取り強く握ると、
「ああ、喜んで」
と暗闇の中で目映く笑った。
ヒューゴは手早く処置を開始した。
遺体はちょうど硬直中で、ナイフの扱いも難しいはずだけど、ヒューゴは上手く刃を入れ、遺体をこれ以上傷付けることなく目的の物を取り出した。
「シルベーヌ様、これを……」
ヒューゴは取り出したものを一度綺麗に拭き、私に手渡した。
それは、少し大きめの指輪のようで、本来石が付いている部分には、王家の紋章らしき意匠が彫り込まれていた。
親書や大切な書類に、これで印を押すのね。
くすんだレガリアは王家が紡いできた歴史を感じさせ、端が欠けたような所も、歴代の王が積み重ねてきた証にも見えた。
バカよね……素晴らしい先人が築いてきたものを、私利私欲の為に失ってしまうなんて。
私はレガリアをドレスの内側に作ってもらっていたポケットに大切にしまった。
ウィレムにおやつ収納用に作ってもらってたのが早速役に立ったわ!
ヒューゴは遺体の大きい傷を縫合し、こびりついた血糊を綺麗に拭いた。
破れている服は、ささっとウィレムが縫い合わせ、それから横に提げた袋からあるものを取り出した。
「これを、掛けておきましょうね」
彼は遺体に赤地に青い十字の刺繍が入った大きな布を被せた。
それは、ヴァーミリオン領で幾度と見たシンボル。
騎士団詰所に大きく掲げられた団旗だった。
ただ少し、それと違ったのは、十字の真ん中に羽を広げた黒蝶が足されていたこと。
「宰相ガスト・フォード。貴方の勇気ある行動に感謝を!」
ディランが胸に手を当て黙祷を始め、ヒューゴとウィレム、そしてスレイとロビーもそれに倣う。
私は一歩前に出て、遺体の上に浮かんだガストに声を掛けた。
「行きましょうか?」
「はい。ありがとうございます……娘を……どうかよろしく……」
「………わかったわ。スピークルム、お願い」
『はいデス。それでは……』
そう言うと、スピークルムは体から白い光線のような光を出した。
光はガストの体に螺旋状に巻き付き、輝きを強めながら、ゆっくりと溶かすように同化して行く。
そして、騎士団の黙祷が終わる頃には、輝きは消え、静寂と暗闇だけが残った。
「冥府へと旅立ったか……」
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もう誰もいないその場所が、まだ輝いているようにも見えて少し涙が出た。
「………ええ。最後まで……笑っていたわ」
「そうか……」
ディランは噛み締めるように呟くと、勢い良く振り返り、回廊に響き渡る声で言った。
「分岐点で皆と合流し、速やかに脱出する!!」
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