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王都
108.起床する、従者
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馬車から降り立つと、そこは、ニヤつく私兵の溜まり場だった。
聞こえた男の声は一つだったけど、実際は何十人もいたのだ。
「おお!すげぇ、いい女だぜ?誰だよ醜女なんて言ったのは!?」
「冥府ってのは、美女ばっかりかよ!攻めこんで連れ去ってくるか?」
「いいねぇ!王さまも喜ぶぜ!」
私兵達は、言いたい放題だ。
でも、ここで神経を逆撫でしてもいいことはない。
私達は出来るだけ刺激せず、目を合わせないように先を急いだ。
ルイとローケンは私の左右を守るように歩いてくれ、好奇の視線を遮ろうとしてくれている。
若干後ろが心許ない気もするけど、そんな弱音は吐いてられない。
そう、ディラン達は、ここにはいない。
私がしっかりしなければ、 何も始まらないのだ。
「シルベーヌ様、大丈夫ですか?」
ルイが声をかけてきた。
「ええ。ご心配ありがとう。私は大丈夫よ」
と、微笑む。
「お強いのですね。私など今何かされたらと思うと震え上がっています」
「強くはないわ。私、本当はすごく臆病な人間なの。でも、そんな私を支えて信じてくれる人達がいるから、なんとか頑張れているのよ」
私の頭には、ある人達が浮かんでいた。
廃屋で出会った、世話好きで頼もしい騎士団のみんな。
こんな私を、バカみたいに信じてくれる暖かい彼らのことを思い出すと、自然に目尻が下がる。
ルイはそんな私を見て、自身も、ふふと笑った。
豪華な紫の絨毯上を歩き、いくつもの扉を抜けた。
そして、初めて来た時と同じ黒く硬質な扉が現れる。
謁見の間に着いたのだ。
「ガスト様とエレナ様が、もしいるとすればこの扉の向こうですが……私は……」
「ありがとう、ルイ殿。あなたとはここで別れるのですね。お世話になりましたね」
ルイは申し訳なさそう言い、ローケンはそんな彼に頭を下げた。
「いえ。お気をつけて。特にシルベーヌ様は……王の機嫌を損ないませんように」
「気をつけるわ……」
深く頭を下げ、去っていくルイの背中を、私とローケンは暫く見つめていた。
「さて、いきますよ」
この扉の向こうに、元凶がいる。
ローケンは、襟元を正しぐるっと首を回した。
「ええ。行きましょう」
『どこへデスか?』
不意に聞こえた間抜けな声に、私の意気込みは完全に削がれた。
「スピークルム??ちょっと、何てタイミングで起きるのよ!!」
『そんなこと言われても困るんデスよー!こっちだって、びっくりしてるんデスからね!』
「スピークルム殿??ああ、良かった。あなたが起きないと、シルベーヌ様の身を守る者がいませんからね」
と、ローケンがほっとした様子で言った。
『あのー、よく状況がわかってないんデスがーまずここはどこデス??見たことあるよーな、ないよーな?』
スピークルムは体をフリフリ(キョロキョロ)している。
「王宮よ。ラシュカ国の」
『………………え?』
スピークルムは黙りこんだ。
いや、今黙り込まれても困るのよ。
このすぐ向こうに、王がいるのに勢いが削がれてしまうわ。
「王の悪事を暴こうってことになったの。あなたが寝てる間にね」
そう小声で言うと、スピークルムが聞き返した。
『暴いてどうするんデス?倒す……ええと、殺したりします?』
その疑問にはローケンが答えた。
「場合によってはそうなるかもしれませんね。非道なことをやっているようですし」
『………困ったデスねー』
と、一言いって、スピークルムはむーんむーんと唸り始めた。
「本当に。これからそれを探りに行くのです。この扉の向こうに王がいますから……ああ、あまり時間をかけるのも良くないですね。もう行きますよ!」
「は、はい!」
ローケンは、部屋の前で大きく息を吸った。
「冥府の第一王女、宵闇の女神シルベーヌ様、入室致します!!」
聞こえた男の声は一つだったけど、実際は何十人もいたのだ。
「おお!すげぇ、いい女だぜ?誰だよ醜女なんて言ったのは!?」
「冥府ってのは、美女ばっかりかよ!攻めこんで連れ去ってくるか?」
「いいねぇ!王さまも喜ぶぜ!」
私兵達は、言いたい放題だ。
でも、ここで神経を逆撫でしてもいいことはない。
私達は出来るだけ刺激せず、目を合わせないように先を急いだ。
ルイとローケンは私の左右を守るように歩いてくれ、好奇の視線を遮ろうとしてくれている。
若干後ろが心許ない気もするけど、そんな弱音は吐いてられない。
そう、ディラン達は、ここにはいない。
私がしっかりしなければ、 何も始まらないのだ。
「シルベーヌ様、大丈夫ですか?」
ルイが声をかけてきた。
「ええ。ご心配ありがとう。私は大丈夫よ」
と、微笑む。
「お強いのですね。私など今何かされたらと思うと震え上がっています」
「強くはないわ。私、本当はすごく臆病な人間なの。でも、そんな私を支えて信じてくれる人達がいるから、なんとか頑張れているのよ」
私の頭には、ある人達が浮かんでいた。
廃屋で出会った、世話好きで頼もしい騎士団のみんな。
こんな私を、バカみたいに信じてくれる暖かい彼らのことを思い出すと、自然に目尻が下がる。
ルイはそんな私を見て、自身も、ふふと笑った。
豪華な紫の絨毯上を歩き、いくつもの扉を抜けた。
そして、初めて来た時と同じ黒く硬質な扉が現れる。
謁見の間に着いたのだ。
「ガスト様とエレナ様が、もしいるとすればこの扉の向こうですが……私は……」
「ありがとう、ルイ殿。あなたとはここで別れるのですね。お世話になりましたね」
ルイは申し訳なさそう言い、ローケンはそんな彼に頭を下げた。
「いえ。お気をつけて。特にシルベーヌ様は……王の機嫌を損ないませんように」
「気をつけるわ……」
深く頭を下げ、去っていくルイの背中を、私とローケンは暫く見つめていた。
「さて、いきますよ」
この扉の向こうに、元凶がいる。
ローケンは、襟元を正しぐるっと首を回した。
「ええ。行きましょう」
『どこへデスか?』
不意に聞こえた間抜けな声に、私の意気込みは完全に削がれた。
「スピークルム??ちょっと、何てタイミングで起きるのよ!!」
『そんなこと言われても困るんデスよー!こっちだって、びっくりしてるんデスからね!』
「スピークルム殿??ああ、良かった。あなたが起きないと、シルベーヌ様の身を守る者がいませんからね」
と、ローケンがほっとした様子で言った。
『あのー、よく状況がわかってないんデスがーまずここはどこデス??見たことあるよーな、ないよーな?』
スピークルムは体をフリフリ(キョロキョロ)している。
「王宮よ。ラシュカ国の」
『………………え?』
スピークルムは黙りこんだ。
いや、今黙り込まれても困るのよ。
このすぐ向こうに、王がいるのに勢いが削がれてしまうわ。
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そう小声で言うと、スピークルムが聞き返した。
『暴いてどうするんデス?倒す……ええと、殺したりします?』
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「場合によってはそうなるかもしれませんね。非道なことをやっているようですし」
『………困ったデスねー』
と、一言いって、スピークルムはむーんむーんと唸り始めた。
「本当に。これからそれを探りに行くのです。この扉の向こうに王がいますから……ああ、あまり時間をかけるのも良くないですね。もう行きますよ!」
「は、はい!」
ローケンは、部屋の前で大きく息を吸った。
「冥府の第一王女、宵闇の女神シルベーヌ様、入室致します!!」
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