上 下
94 / 169
ヴァーミリオン領

94.機嫌が悪いシルベーヌ

しおりを挟む
昨日の夜は、少し雨が降ったらしい。
私とディランは朝露に濡れた子爵邸の庭を散歩中だ。

「ふわぁーー……」

脳に酸素を与えるべく、今、私の体は急速に目覚めつつある。
欠伸はその目覚めの前段階だったけど、ディランは少し勘違いをして申し訳なさそうに言った。

「悪いな。眠いのに早く起こしてしまって……だが、庭の花が綺麗に咲いたのを見て貰いたくて……」

雨の雫煌めく花、それよりも更にキラキラした瞳の彼を、私は大きく背伸びをしながら振り返った。

「ふふっ、大丈夫。爽やかな朝に綺麗なお花。この色の溢れる美しい世界!最高じゃない?」

「良かった……」

そう小さく呟き、ディランはほっとしてまた煌めいた。
眩しいのよ……本当に。
朝日を背に微笑む彼を、手をかざして私は目を細めた。

ガストとアリエルは早朝、王都に戻っていったとディランに聞いた。
朝日が上る前に、ローケンとウェストウッドが見送ったんだとか。
昨夜、子爵邸に泊まったローケンとガストとアリエルは部屋に籠って明け方まで長いこと話し込んでいた。
特にローケンとアリエルは、ガストが仮眠をとった後も、深刻そうに何かを話していたと、ウェストウッドが言っていたわね。
それでふと、私はローケンがアリエルの資料を見て「面白い」と言ったことを思い出した。
何が面白いのか全然わからなかったけど、信頼に足る何かを感じたのかもしれないわ。

庭に咲いた花の中を私はゆっくり歩く。
子爵邸の庭はこじんまりとはしているけど、繊細に手入れされた後が見える素敵な庭だった。
そして、あることに気づく。
それは、離宮の庭と子爵邸の庭。
2つの造りが良く似ていることに。

「これって、ロビーがお世話してる?」

「おっ!良くわかったな、そう、ロビーが世話してる」

と、ディランは感心した。
ふふん、そりゃあね、私にもわかるわよ!
腰に手を当て、ふんぞり返る私を、ディランは口を押さえて笑いを堪えている。
失礼なっ!と思った時、垣根の向こうから良く知った声がかかった。

「シルベーヌ様。騎士団の厨房の方に、朝食を用意しましたよ?」

ご飯(クレバード)だ!!

「はいはいっ!すぐ行くわ!ええ、すぐに!!」

私は導かれるように、クレバードの元へフラフラと寄っていく。
しかし、それをディランの手が阻んだ。
というか、これ、手を繋がれたのね……。

「ディラン?どうしたの?クレバードがいるから迷子にはならないわよ?」

「知っている。でも、エスコートさせてくれ」

「……う、うん。じゃあ一緒に行きましょうか?」

「ああ」

ディランは私の手を引き、白いバラのアーチを潜る。
すると、クレバードがフフ……と意味深に笑った。

「団長、過保護ですね?私がいるから心配ないのに……」

「そうだな、わかっているが、な。何事も気の緩みや慢心が後悔を招く。出来ることは万全にしておく。それが俺の信条だ」

知らなかった!
ディラン、案外計画的な男だったんだわ!

「そうでしたね。まぁ、私のことは信用してくれても構いませんよ。元より、団長とは分野が違いますから」

分野って何?

「クレバードは信用しているよ。だが、信用ならないのがいるからな。どこから出てくるかわからない」

……………………。
誰のこと?

「お任せ下さい。我々、ヴァーミリオン騎士団がそれは全力で阻止します」

「頼もしい!さすが我がヴァーミリオン騎士団………」

……………………。

「ねぇ!お腹が空いたんだけど!?」

ディランとクレバードの話に割り込み、私は睨みを利かせた!
騎士団自慢はどうでもいいわ!
先に食べさせてもらえます?

「あっ、すみません!シルベーヌ様、お許しを」

「ああ!ごめんな!さぁ、行こう!」

ふんっ!
空腹の私は機嫌が悪いわよ!?
と、キッと2人を睨む。
それを見て、なぜだか彼らは顔を見合せ幸せそうに笑っていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...