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ヴァーミリオン領
94.機嫌が悪いシルベーヌ
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昨日の夜は、少し雨が降ったらしい。
私とディランは朝露に濡れた子爵邸の庭を散歩中だ。
「ふわぁーー……」
脳に酸素を与えるべく、今、私の体は急速に目覚めつつある。
欠伸はその目覚めの前段階だったけど、ディランは少し勘違いをして申し訳なさそうに言った。
「悪いな。眠いのに早く起こしてしまって……だが、庭の花が綺麗に咲いたのを見て貰いたくて……」
雨の雫煌めく花、それよりも更にキラキラした瞳の彼を、私は大きく背伸びをしながら振り返った。
「ふふっ、大丈夫。爽やかな朝に綺麗なお花。この色の溢れる美しい世界!最高じゃない?」
「良かった……」
そう小さく呟き、ディランはほっとしてまた煌めいた。
眩しいのよ……本当に。
朝日を背に微笑む彼を、手をかざして私は目を細めた。
ガストとアリエルは早朝、王都に戻っていったとディランに聞いた。
朝日が上る前に、ローケンとウェストウッドが見送ったんだとか。
昨夜、子爵邸に泊まったローケンとガストとアリエルは部屋に籠って明け方まで長いこと話し込んでいた。
特にローケンとアリエルは、ガストが仮眠をとった後も、深刻そうに何かを話していたと、ウェストウッドが言っていたわね。
それでふと、私はローケンがアリエルの資料を見て「面白い」と言ったことを思い出した。
何が面白いのか全然わからなかったけど、信頼に足る何かを感じたのかもしれないわ。
庭に咲いた花の中を私はゆっくり歩く。
子爵邸の庭はこじんまりとはしているけど、繊細に手入れされた後が見える素敵な庭だった。
そして、あることに気づく。
それは、離宮の庭と子爵邸の庭。
2つの造りが良く似ていることに。
「これって、ロビーがお世話してる?」
「おっ!良くわかったな、そう、ロビーが世話してる」
と、ディランは感心した。
ふふん、そりゃあね、私にもわかるわよ!
腰に手を当て、ふんぞり返る私を、ディランは口を押さえて笑いを堪えている。
失礼なっ!と思った時、垣根の向こうから良く知った声がかかった。
「シルベーヌ様。騎士団の厨房の方に、朝食を用意しましたよ?」
ご飯(クレバード)だ!!
「はいはいっ!すぐ行くわ!ええ、すぐに!!」
私は導かれるように、クレバードの元へフラフラと寄っていく。
しかし、それをディランの手が阻んだ。
というか、これ、手を繋がれたのね……。
「ディラン?どうしたの?クレバードがいるから迷子にはならないわよ?」
「知っている。でも、エスコートさせてくれ」
「……う、うん。じゃあ一緒に行きましょうか?」
「ああ」
ディランは私の手を引き、白いバラのアーチを潜る。
すると、クレバードがフフ……と意味深に笑った。
「団長、過保護ですね?私がいるから心配ないのに……」
「そうだな、わかっているが、な。何事も気の緩みや慢心が後悔を招く。出来ることは万全にしておく。それが俺の信条だ」
知らなかった!
ディラン、案外計画的な男だったんだわ!
「そうでしたね。まぁ、私のことは信用してくれても構いませんよ。元より、団長とは分野が違いますから」
分野って何?
「クレバードは信用しているよ。だが、信用ならないのがいるからな。どこから出てくるかわからない」
……………………。
誰のこと?
「お任せ下さい。我々、ヴァーミリオン騎士団がそれは全力で阻止します」
「頼もしい!さすが我がヴァーミリオン騎士団………」
……………………。
「ねぇ!お腹が空いたんだけど!?」
ディランとクレバードの話に割り込み、私は睨みを利かせた!
騎士団自慢はどうでもいいわ!
先に食べさせてもらえます?
「あっ、すみません!シルベーヌ様、お許しを」
「ああ!ごめんな!さぁ、行こう!」
ふんっ!
空腹の私は機嫌が悪いわよ!?
と、キッと2人を睨む。
それを見て、なぜだか彼らは顔を見合せ幸せそうに笑っていた。
私とディランは朝露に濡れた子爵邸の庭を散歩中だ。
「ふわぁーー……」
脳に酸素を与えるべく、今、私の体は急速に目覚めつつある。
欠伸はその目覚めの前段階だったけど、ディランは少し勘違いをして申し訳なさそうに言った。
「悪いな。眠いのに早く起こしてしまって……だが、庭の花が綺麗に咲いたのを見て貰いたくて……」
雨の雫煌めく花、それよりも更にキラキラした瞳の彼を、私は大きく背伸びをしながら振り返った。
「ふふっ、大丈夫。爽やかな朝に綺麗なお花。この色の溢れる美しい世界!最高じゃない?」
「良かった……」
そう小さく呟き、ディランはほっとしてまた煌めいた。
眩しいのよ……本当に。
朝日を背に微笑む彼を、手をかざして私は目を細めた。
ガストとアリエルは早朝、王都に戻っていったとディランに聞いた。
朝日が上る前に、ローケンとウェストウッドが見送ったんだとか。
昨夜、子爵邸に泊まったローケンとガストとアリエルは部屋に籠って明け方まで長いこと話し込んでいた。
特にローケンとアリエルは、ガストが仮眠をとった後も、深刻そうに何かを話していたと、ウェストウッドが言っていたわね。
それでふと、私はローケンがアリエルの資料を見て「面白い」と言ったことを思い出した。
何が面白いのか全然わからなかったけど、信頼に足る何かを感じたのかもしれないわ。
庭に咲いた花の中を私はゆっくり歩く。
子爵邸の庭はこじんまりとはしているけど、繊細に手入れされた後が見える素敵な庭だった。
そして、あることに気づく。
それは、離宮の庭と子爵邸の庭。
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と、ディランは感心した。
ふふん、そりゃあね、私にもわかるわよ!
腰に手を当て、ふんぞり返る私を、ディランは口を押さえて笑いを堪えている。
失礼なっ!と思った時、垣根の向こうから良く知った声がかかった。
「シルベーヌ様。騎士団の厨房の方に、朝食を用意しましたよ?」
ご飯(クレバード)だ!!
「はいはいっ!すぐ行くわ!ええ、すぐに!!」
私は導かれるように、クレバードの元へフラフラと寄っていく。
しかし、それをディランの手が阻んだ。
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「ディラン?どうしたの?クレバードがいるから迷子にはならないわよ?」
「知っている。でも、エスコートさせてくれ」
「……う、うん。じゃあ一緒に行きましょうか?」
「ああ」
ディランは私の手を引き、白いバラのアーチを潜る。
すると、クレバードがフフ……と意味深に笑った。
「団長、過保護ですね?私がいるから心配ないのに……」
「そうだな、わかっているが、な。何事も気の緩みや慢心が後悔を招く。出来ることは万全にしておく。それが俺の信条だ」
知らなかった!
ディラン、案外計画的な男だったんだわ!
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誰のこと?
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「頼もしい!さすが我がヴァーミリオン騎士団………」
……………………。
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騎士団自慢はどうでもいいわ!
先に食べさせてもらえます?
「あっ、すみません!シルベーヌ様、お許しを」
「ああ!ごめんな!さぁ、行こう!」
ふんっ!
空腹の私は機嫌が悪いわよ!?
と、キッと2人を睨む。
それを見て、なぜだか彼らは顔を見合せ幸せそうに笑っていた。
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