上 下
90 / 169
ヴァーミリオン領

90.張り切る男、沈黙する男

しおりを挟む
「本当に!ディラン・ヴァーミリオン!あなた、怖いくらい変わりましたね!この姿を先代が見たら、即、吐血しますよ!?」

こめかみに青筋を浮き上がらせローケンが怒鳴った。

「はは、面白い。父のその様子をみたかったな」

「ああ……頭が痛い。まぁ、いいでしょう。偵察のシルベーヌ様とエレナ様、2人が上手く人質の居場所を突き止めることが出来れば、騎士団とサクリス殿下達の出番ですからね!そこはちゃんとわかっていますね!?」

「勿論。シルベーヌ様を確保した後、愚王もぶった斬る」

ディランはそう言ってせせら笑った。

「おい、王を斬るのはオレだ!」

サクリスが、何故か忌々しそうにディランを睨んだ。 

「サクリス殿下は、フロール王女を救った後、早々にナシリスへ帰られるとよろしかろう」

「は?おいおい、子爵風情がオレにそんな口を聞くか?」

「子爵風情とは……ふふっ、もうそんな下らない階級などに振り回されはしない。俺は自由だ。誰にも邪魔はさせない」

「へぇ?自由はいいが、その中途半端な存在のままでは、好きな女にちゃんと告白も出来ないなぁ」

「……何が言いたい?」

一触即発とは正にこのこと!
ディランとサクリスはにらみ合いを続け、間に挟まれた私はオロオロするばかり。
ガストもアリエルも、話が見えないらしく成り行きを見守り、ローケンはこめかみに青筋が一本増えた。

「そういう痴話喧嘩は全部終わってからにして下さい!!ここは、力を合わせないと乗り切れませんよ!?一国の王を屠ろうとしているのですから!」

ローケンは更に青筋を増やして2人を怒鳴り付ける。

「………わかっている。悪い。少しムキになったよ」

先に謝ったのはサクリス。
彼は沸騰するのも早いが、鎮火も早い。

「…………やることはちゃんとやる。心配するなローケン」

ディランの方も少し収まったようだ。

「頼みますよ。一枚岩にならなければ事は成し得ませんから」

ローケンの青筋は漸く消えて無くなった。
それにしても。
どうしてサクリスが、ディランにケンカを吹っ掛けたのかがわからない。
別に仲が良くもないけど、悪くもないし、お互いの力量も認めているはず。
それともう1つ。
彼らの会話の中で気になったことがあった。

「ディランは好きな女性に告白したいの?そう……好きな人がいたのね?」

「は?」

「ん?」

ディランとサクリスが同じ方向に首を傾げた。

単純に気になったことを口にしただけ。
でもそれを言葉にした途端、トゲを帯びた嫌味な言い方になってしまい、私はそんな自分に驚いていた。
いや、そんなつもりはなかったんだけど。

「申し訳ないわ。そんな人がいるのに、私に付きっきりで……別にいいのよ?恩人だから、側で守ってくれてただけなんでしょ?」

あら……更にトゲトゲしさが増してしまったわ。
イヤな女になったみたい。

「ふっ……ふはははっ、そうかそうか。なるほどな、冥府の王女様はそういうことがまだわかってないんだな」

サクリスは大声で笑ったけど、ディランは表情を強張らせている。

「いいぜ。さぁ、ローケン・グリーグ。話を詰めて行こうじゃないか?俄然やる気が出てきたね、オレは」

「……………………………」

張り切るサクリスに、沈黙するディラン。
この絵にかいたような対比を、大きな溜め息をついたローケンが心配そうに見詰めていた。
そして私も、もやもやとして胸の奥が落ち着かない。
食べ過ぎた日の不調と似ているようで似ていない、わけのわからない状態に悩まされていた。






しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。 なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの? どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの? なろう様でも公開中です。 ・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...