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ヴァーミリオン領
59.祭りの夜に
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私とディランは、ウェストウッドに仮面を借りて町へ繰り出した。
町は夜なのに明るく、屋台が軒を連ね人並みでごった返している。
所々で歌う声が聞こえ、広場では輪になって踊る人の姿も見えた。
「わぁ……すごい。祭りってキレイで、楽しくて、熱い!」
「熱いか?」
「ええ!熱い!火が沢山あるのもそうだけど、人の熱気?それを感じるわ!」
私は繋いだ手をぎゅっと握った。
ディランは珍しく私を抱き抱えてはいない。
それは、人混みが歩きにくいのと、私に好きなものを見てもらいたいからだ、と言った。
その代わり、繋いだ手を絶対に離さないことを約束させられた。
約束なんてしなくても、手は離さない。
だって、離したら迷子になるに決まってる。
自慢じゃないけど、私は方向音痴だからね!
……ほんと、何も取り柄がないな、私。
「どこにいく?何が見たい?」
ディランの声に顔を上げた。
「うーん、そうねぇ。お店とか?屋台がみたい!」
「良し。こっちだ。行こう!」
ディランはグイグイと私の手を引いた。
少し歩くのが早いな、と思ったけど、頑張って付いていく。
大きな彼の背中が、何故か子供のように見えたからだ。
早足で進み大通りを真っ直ぐ行くと、屋台の真ん中に辿り着いた。
そこには、手作りのアクセサリー屋さんがあり、見たことのある人がいた。
「おや!シルベーヌ様、ディラン様!こんばんは!!」
ヴァーミリオン婦人会の代表の女性だ。
「こんばんは!いい夜ね!」
「こんばんは、マーサ」
私とディランもマーサに挨拶を返す。
「どうぞ、見ていって?婦人会で作ったアクセサリーよ?指輪とか、首飾り、腕輪とかもあるわ」
「わぁ、どれもかわいくて色鮮やかね!あ…………でも……」
私は大事なことに気付いてしまった!
何と言うことでしょう。お金を持っていないわ!!
私のバカ!!
「選んで?どれがいい?」
ディランが言った。
「でも、私お金が……」
「俺が払うよ。シルベーヌ様に贈りたい」
「いいの?」
「遠慮しないで、ほら、どれにする?」
遠慮しないで、と言われても。
食事には遠慮しないけど、こういった色気のあるものは少し敷居が高いわ。
だって、買って貰ったことないもの。
私のつけるアクセサリーなんて、スピークルムだけだし。
あ、アクセサリー何て言ったらヘソ曲げそう。
「ディラン様、奥ゆかしいシルベーヌ様は選べないかもよ?選んでおあげよ」
お、奥ゆかしい?誰がよ。
「ああ、そうだな。シルベーヌ様は、奥ゆかしく控えめな方だから。わかった、俺が選ぼう。構わないかな?」
何か認識が大きくズレている、とは思ったけど、それはもういいわ。
「お願いします」
と、素直に答えておこう。
ディランはいろいろ手に取り、私の髪に当てたり、首もとに当てたり、手首に当てたりしながら、真剣に選んでいる。
そこまでしなくてもいいのに、とは言えなかった。
選んでる時のディランが、揺らめくカンテラの炎に照らされて、とても素敵に見えてしまったからだ。
キラキラ揺らめく、銀の………。
「これ。これなんかどうかな?」
ハッとして見ると、彼が手に持っていたのは、丸く赤い石が糸で繋がれ、中央に小さく黒い蝶のモチーフが付いた首飾りだった。
「わぁ!凄くキレイね(そして、お高そう……)」
ディランは私をクルリと反対に向けて、首飾りを付けた。
「ガーネット、鉱山で取れる一般的な石なんだが、これは、ヴァーミリオン領の象徴でもある」
「象徴?」
「ああ。ヴァーミリオンとは朱色のこと、だからこの赤い石が象徴なんだ」
「へぇ!そうだったのね!で、この黒い蝶は?」
ディランは何故か恥ずかしそうに俯いた。
「………それは、シルベーヌ様だ。シルベーヌ様のイメージ?かな」
ふわふわして落ち着きがないとか!?
悪いイメージしかわかないんだけど!?
私が説明を求めてディランを見つめ返すと、彼は、ふぅと一息ついてこう言った。
「高貴で美しい方でありながら、黒蝶のように可憐。掴まえていないとふわふわと、どこかへ行ってしまいそうな……そんな気がする。だから、ヴァーミリオンで繋いでおくんだ」
私にどんなイメージを持ってるの!?
『ふわふわと、どこかへ行ってしまいそう』くらいしか当てはまってないよ?
首を傾げる私を見て、マーサがケラケラと笑いながら言った。
「こりゃあ、大変だ!!シルベーヌ様、首飾りっていうのは、拘束したいほどの相手に贈るもんですよ!ディラン様は、あなたのことが繋いでおきたいくらい大切なんだねぇー」
それ、全く笑えない!!
ディラン、そんな性癖があったの?
え?繋いだり、拘束したり!?
私は少し震えながら、首飾りを見た。
それはとても美しく、艶かしく胸元を彩っている。
目の前のディランは、とても満足そうに微笑んでいて、返却します!なんて絶対言えない雰囲気が漂っていた。
「どうもありがとう。だ、大事にするね?」
と、声を振り絞ると、彼はそれは素敵に破顔し、私は心底震えたのだった。
町は夜なのに明るく、屋台が軒を連ね人並みでごった返している。
所々で歌う声が聞こえ、広場では輪になって踊る人の姿も見えた。
「わぁ……すごい。祭りってキレイで、楽しくて、熱い!」
「熱いか?」
「ええ!熱い!火が沢山あるのもそうだけど、人の熱気?それを感じるわ!」
私は繋いだ手をぎゅっと握った。
ディランは珍しく私を抱き抱えてはいない。
それは、人混みが歩きにくいのと、私に好きなものを見てもらいたいからだ、と言った。
その代わり、繋いだ手を絶対に離さないことを約束させられた。
約束なんてしなくても、手は離さない。
だって、離したら迷子になるに決まってる。
自慢じゃないけど、私は方向音痴だからね!
……ほんと、何も取り柄がないな、私。
「どこにいく?何が見たい?」
ディランの声に顔を上げた。
「うーん、そうねぇ。お店とか?屋台がみたい!」
「良し。こっちだ。行こう!」
ディランはグイグイと私の手を引いた。
少し歩くのが早いな、と思ったけど、頑張って付いていく。
大きな彼の背中が、何故か子供のように見えたからだ。
早足で進み大通りを真っ直ぐ行くと、屋台の真ん中に辿り着いた。
そこには、手作りのアクセサリー屋さんがあり、見たことのある人がいた。
「おや!シルベーヌ様、ディラン様!こんばんは!!」
ヴァーミリオン婦人会の代表の女性だ。
「こんばんは!いい夜ね!」
「こんばんは、マーサ」
私とディランもマーサに挨拶を返す。
「どうぞ、見ていって?婦人会で作ったアクセサリーよ?指輪とか、首飾り、腕輪とかもあるわ」
「わぁ、どれもかわいくて色鮮やかね!あ…………でも……」
私は大事なことに気付いてしまった!
何と言うことでしょう。お金を持っていないわ!!
私のバカ!!
「選んで?どれがいい?」
ディランが言った。
「でも、私お金が……」
「俺が払うよ。シルベーヌ様に贈りたい」
「いいの?」
「遠慮しないで、ほら、どれにする?」
遠慮しないで、と言われても。
食事には遠慮しないけど、こういった色気のあるものは少し敷居が高いわ。
だって、買って貰ったことないもの。
私のつけるアクセサリーなんて、スピークルムだけだし。
あ、アクセサリー何て言ったらヘソ曲げそう。
「ディラン様、奥ゆかしいシルベーヌ様は選べないかもよ?選んでおあげよ」
お、奥ゆかしい?誰がよ。
「ああ、そうだな。シルベーヌ様は、奥ゆかしく控えめな方だから。わかった、俺が選ぼう。構わないかな?」
何か認識が大きくズレている、とは思ったけど、それはもういいわ。
「お願いします」
と、素直に答えておこう。
ディランはいろいろ手に取り、私の髪に当てたり、首もとに当てたり、手首に当てたりしながら、真剣に選んでいる。
そこまでしなくてもいいのに、とは言えなかった。
選んでる時のディランが、揺らめくカンテラの炎に照らされて、とても素敵に見えてしまったからだ。
キラキラ揺らめく、銀の………。
「これ。これなんかどうかな?」
ハッとして見ると、彼が手に持っていたのは、丸く赤い石が糸で繋がれ、中央に小さく黒い蝶のモチーフが付いた首飾りだった。
「わぁ!凄くキレイね(そして、お高そう……)」
ディランは私をクルリと反対に向けて、首飾りを付けた。
「ガーネット、鉱山で取れる一般的な石なんだが、これは、ヴァーミリオン領の象徴でもある」
「象徴?」
「ああ。ヴァーミリオンとは朱色のこと、だからこの赤い石が象徴なんだ」
「へぇ!そうだったのね!で、この黒い蝶は?」
ディランは何故か恥ずかしそうに俯いた。
「………それは、シルベーヌ様だ。シルベーヌ様のイメージ?かな」
ふわふわして落ち着きがないとか!?
悪いイメージしかわかないんだけど!?
私が説明を求めてディランを見つめ返すと、彼は、ふぅと一息ついてこう言った。
「高貴で美しい方でありながら、黒蝶のように可憐。掴まえていないとふわふわと、どこかへ行ってしまいそうな……そんな気がする。だから、ヴァーミリオンで繋いでおくんだ」
私にどんなイメージを持ってるの!?
『ふわふわと、どこかへ行ってしまいそう』くらいしか当てはまってないよ?
首を傾げる私を見て、マーサがケラケラと笑いながら言った。
「こりゃあ、大変だ!!シルベーヌ様、首飾りっていうのは、拘束したいほどの相手に贈るもんですよ!ディラン様は、あなたのことが繋いでおきたいくらい大切なんだねぇー」
それ、全く笑えない!!
ディラン、そんな性癖があったの?
え?繋いだり、拘束したり!?
私は少し震えながら、首飾りを見た。
それはとても美しく、艶かしく胸元を彩っている。
目の前のディランは、とても満足そうに微笑んでいて、返却します!なんて絶対言えない雰囲気が漂っていた。
「どうもありがとう。だ、大事にするね?」
と、声を振り絞ると、彼はそれは素敵に破顔し、私は心底震えたのだった。
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