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ヴァーミリオン領

65.公爵令嬢の話②(エレナ)

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それから、一年ほどして………。
私の考えていたことが、間違いだと気付く出来事が起こった。
ある日、また子爵邸へ行こうと思い、ヴァーミリオンへ馬車を走らせていた。
いつものように市街を抜け、騎士団詰所を抜けて………その途中の畑で……。
私は見てしまったのだ。
彼は笑わない男なのだと、ずっと思っていた。
私がどんなに話しかけても、空返事ばかりで、決して笑うことはなかったから。
だけど、詰所で何人かの女性と畑仕事をしながら……彼は、朗らかに笑っていた。
私以外の女と?
何をそんなに楽しそうに?
腸が煮えくり返り、体中の血が沸いた。
気づいたときには馬車を止め、早足で畑に駆け出していた。
無意識に。
そして、楽しそうにディランに話しかける女の髪を掴み、引き摺り倒してやった。

「この端女が!!私の夫になる方に気安いわ!」

卑しい女風情が、私のモノに近づくな!

「きゃぁ!!」

叫び声をあげながら、女は顔から地面に突っ込んだ。
いい気味ね。薄汚い女に相応しいわ。
しかし、その直後、思いがけない事が起こった。

「何をするんだ!!……ああ、君、大丈夫か?」

彼は、私を突き飛ばし、下賎な女を抱き起こした。
そして、あろうことか私を睨み言ったのだ。

「なんと酷いことを……彼女が何をしたと言うんだ!………帰ってくれないか!?暫く来ないでくれ」

「は?なんですって?私はあなたの婚約者ですのよ?その私にそんな態度をとるなんて!公爵家を敵に回したいんですの?」

ただ悔しくて。
私は思った通りに口にした。

「君は少しおかしい!普通の女性……いや、人間はいきなり髪を掴んだりはしないっ!」

は?
一体何を言ってるの?
私のモノに、手を出そうとした女を排除しようとして何が悪いの?
黙っている私に、ディランは追い討ちをかけるように言った。

「……君との婚約を決めた父はもういない。俺はもう一度、この婚約について考え直そうと思う」

「それは……どういう……」

「今日は帰れ……」

ディランは、女性達をかばうように立ち上がり、ゆっくりと詰所に入っていった。

私は……それから……どうしたのか?
公爵家に帰ってきて、部屋に戻ったのは覚えている。
そして……それから?
腸は煮えくり返ったままだし、なぜかゾクゾクした震えも感じる。
手が震え、カタカタと足も震える。
確か……誰かが尋ねて来たのだったわ。
その誰かは私に言ったの。

「どうした?何をそんなに思い詰める?」

「手に入れたいモノが、言うことをきかなくて……困っているのよ」

私は誰かに告げた。

「ふむ、それは可哀想に。美しい者が塞ぎ込む姿など私は見たくない」

誰かはそっと私を抱き締めた。

「どうすれば……私は……どうしたら……」

「そうだな。言うことを聞かぬなら、永遠に黙らせればよい」

「それは……」

誰かは私に、そっと小瓶を握らせた。

「そなたのものにならぬなら、誰のものにもしなければよい」

ああ…………。
それは、天啓にも似た、悪魔の囁き。
わかったわ。
私はあの日《悪魔》に出会ったのよ。















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