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ムーンバレー地方

49.愛馬ドミニオン

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深夜の騎士団の奇襲から時間が経ち、辺りはすっかり明るくなっていた。
いつの間にかレテ川の濁流も、澄んだ流れに変わっていて、避難していた川魚達も安心したのか、朝日を浴びて跳ねている。
騎士団と私、サクリスとサクリスの側近2名は、屋敷を離れ、対岸のラシュカ国ムーンバレーに移動するために川を渡った。
サクリスの屋敷近くの階段を下り、木で組まれた橋を越える。
行きは濁流で、散々な目にあったけど、今度は簡単に我が家にたどり着くことが出来た。

「あーーー、ただいまっ!懐かしの我が家!!」

思わず叫んでしまった。
ほんの数日しかいなかったのに、ここはもう、私の大切な家になっている。
そんな私を見て、スレイやフォーサイス、建設組の皆は誇らしげに肩を叩きあった。

「へぇ、あの幽霊屋敷が見違えるじゃないか?」

サクリスが私と私を離さないディランに声を掛けた。

「幽霊屋敷って……どうして?サクリスここを見たこと……いえ、来たことがあったの?」

「ああ、悪いが度々偵察には来ていた。ムーンバレーの民が残ってないかと思ってな。生活に困っているのなら、助けなければ……」

「……なんということだ。ラシュカの民を助けてくれようとした者を討伐する為に俺達は派遣されたのか!」

サクリスの言葉に、ディランが怒りの籠った言葉を吐いた。

そうだった……。
ディランは最初に「ここには隣国の者が入り込んでいて、その調査と討伐に来た」と言っていた。
しかも王の命で。

「……目も悪ければ、頭も悪いのか!?愚王がっ!!」

吐き捨てるように言うディランと同様に、騎士団も怒りを露にした。
グッと拳を握りしめている者、俯き唇を噛み締める者、怒りの表現は人それぞれだが、思いは同じ。
皆、王の資質に疑問を抱いているんだ。

「確かめなければならないわね」

私はポツリと呟き、間近で目を伏せるディランの頬に手を当てた。
いつも冷たくて気持ちのいい肌は、あり得ないことだけど、ほんのりと暖かく感じた。

「騎士団の死の謎と、王女の行方。それに合わせて、王の資質を問わなくては!きっと私達にしか出来ないわ!」

いつになく、私はやる気満々で拳を握り締めた。
冥府では「出来ることなら何もしたくない病」にかかっていたけど、地上に来てからは……特に、騎士団と出会ってからは、やる気が漲っている。
体の底から、生きる力が湧いてくるって感じ?
そんな、意味不明な私のやる気を、ディラン以下騎士団の皆さんは、また好意的に捉えた。

「……そうだな。シルベーヌ様はやはり聡明だ!我ら騎士団は君に仕えることを誇りに思う」

「あ、いえ、どうも……」

軽くお礼を言うと、ディランはキラキラな笑顔を惜しみなく振り撒いた。
朝日を浴びて、そのキラキラ度合いは5割増しである。

「おーい!団ちょー!」

館の玄関の前で、同じ顔の男が2人、手を振りながらディランを呼んでいる。
その後ろには、なんと沢山の馬がいた!

「ああ、マルス、ミルズ」

そうそう!彼らはマルスとミルズ、確か双子よね?
…………知っていたわよ、本当よ?

「隠していた馬、連れてきましたよ」

マルスとミルズは、沢山の馬を率い、玄関前に繋いだ。

「ご苦労。もう随分会ってない気がするな、ドミニオン……」

ディランは先頭の黒馬に話しかけた。
艶のある毛並みに、真っ黒な瞳。
尾も長く、気品に溢れた賢そうな馬だ。

「シルベーヌ様、これは俺の愛馬、ドミニオン。幼い頃から一緒で、良く走る頭のよい馬だ」

ディランはとても優しい顔をした。

「ええ。とても綺麗。夜闇の色ね。冥府の夜も濃い闇だけど、それと似ているわ」

ドミニオンは「ヒンッ」と小さく啼くと、顔を私に寄せてきた。
撫でて?と言っているように思えて、思わず手を添える。

「だろう!?俺は、最初に見た時から、シルベーヌ様はドミニオンに似てると思ったんだ!」

………………………は?

「神秘なる美しい黒の中の黒。闇の芸術品のようなその姿がとても似ているっ!」

それって、褒めているのよね?
馬のように顔が長い……と、言われてるんじゃないわよね?ね!?
その時の、私の戸惑いを感じたのは、ドミニオンだけだったようだ。
大きく首を振り、可哀想な眼でディランを見ている。

『ご主人、姫君になんてことを……』

そんな声が聞こえそうな顔だった。



























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