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ムーンバレー地方

44.シルベーヌ様と(俺の)快適生活

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騎士団の心配事が無くなったのは良かったけど、そんな呑気なことを言っていられない状況なのは確かよね?
消えたフロール王女のことも心配だし、このままナシリスと戦が始まれば、私の快適な地上生活が壊される可能性がある。
それはなんとしても避けたいところよ!

「ね、皆、聞いてくれる??大事な話があるの」

その言葉に、何事かと皆が距離を詰め、私を抱きかかえるディランを囲みぐるりと輪になった。
それを、サクリスが少し離れて眺めており、そんな中、私はさっき彼に聞いた話をした。

そして大体のことを話終えると、ディランが一番に口を開いた。

「確か一年前だな。ナシリスの王女がラシュカに来たのは。良く覚えているよ、ヴァーミリオン騎士団も、祝いを述べに行ったからな」

「ああ、そうだな……やたらと祝いに宝石を寄越せと言っていたから記憶に残っているよ」

フォーサイスがディランに同意した。

「それまでにも何回か婚姻があったよな?」

「あった!もう数えきれないくらい王都へ行ったぜ?山のような宝石をもってなぁ?」

スレイとロビーが、顔を見合わせて話している。
それにしても、王……一体何人の妃がいるのよ!?

「そう言えば……あれから、他の妃や、ナシリスの王女は見た記憶がない。新年の行事でも見かけなかったな」

「団長が見てないなら、僕たちが見ることなんてまずないですね。エレナ様の婚約者として、王の側へ行けるのは団長だけですから」

ヒューゴは腕を組み、難しい顔をして言った。

「そうか……国内でもそんな状態か……最早戦は避けられないかもしれないな」

呟くサクリスに、私は言った。

「それにはまだ早いかも。戦は最終手段。やれることを先にやってからにしない?」

「やれること?」

サクリスが言うと、全員の目が私を捉えた。

「ええと……気は進まないんだけど。私もう一度、ラシュカ王に会おうと思うの」

「はぁ!?」

叫んだのはディランだ。
もう!耳元で叫ぶのはやめてよねー!
キーンという耳鳴りが治まってから、私はディランを軽く睨んだ。

「ダメだ!絶対に!!クソ王には会いに行かせない!」

「ディラン……私が一番自然に近づけるの。そして、内情を探れるの!わかるでしょ?追い払われたとはいえ、まだ、婚姻は保留された状態よ?会う口実はあるわ!」

「会ってどうするんだ!?シルベーヌ様は、あんなクソの妃になりたいのか!?」

仮にも自国の王に暴言連発なんだけど、いいの?

「なりたいわけないじゃない!会うのも嫌だけど、私の快適生活の為に、戦争は起こせないのよっ!!」

その私の叫びに、シーーーーン、という文字が浮かぶくらい、辺りは静まった。
どうして皆黙るの?
あ、ひょっとして、戦争を止めたい理由が私的なこと過ぎて引いたの??

騎士団の皆も、サクリスもポカンと口を開けて、こちらを見ている。
ディランもかしら?と思い見上げると。

「快適生活……シルベーヌ様の……シルベーヌ様と(俺の)……快適な生活のため………」

麗しき騎士団長、ディラン・ヴァーミリオンはなぜか夢見るような顔で私を見下ろし呟いた……。

















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