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ムーンバレー地方

42.シルベーヌ様の専属騎士団

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あと数歩と迫ったところで、ディランは長い腕を伸ばし、私の腕を捉える。
そして勢いよく引くと、抱え込むように腕の中へ納めた。
右手に構えた剣を下ろした様子がないのは、サクリスに対する警戒を解いていない証拠。
2人の睨み合いが続くなか、ディランが私の耳元で吐き出すように言った。

「無事で良かった!!……ごめんな、不安だったろう?俺が付いていながら君をつらいめに……」

「う?うん。あの、大丈夫よ?私、元気よ?」

お腹もいっぱいになったし、バナナとも出会えた!
むしろ何の問題もないわ。
問題があるとすれば、騎士団が乱入したことくらいかしら?
………なんて、絶対言えない……。

「ラシュカの騎士団か?シルベーヌの知り合いなんだな?戦うつもりはないから剣を納めろ」

サクリスは交戦の意思がないことを手振りで伝えた。
が!何が気に障ったのか……ディランは目を吊り上げサクリスを睨んだ。

「………無礼者が!シルベーヌ様を呼び捨てとはいい度胸だ」

「はぁ?」

サクリスはわけがわからず変な声を出した。
そりゃそうよね、私だって理解不能よ?
背後に広がる不穏な空気をヒシヒシと感じ、私は冷や汗をかいた。
にじり寄り、少し距離を詰めたディラン。
それを止めたのは、扉から現れたフォーサイスとスレイだった。

「おっとおっと!団長さん、目的は果たしたんだ。剣を納めようぜ?」

「ディラン、気持ちはわかるがもうよせ」

「………わかった……そうしよう」

そう呟くと剣を納め、腕の力を弱めた。
やっとキツい腕の中から解放された!と思った私は、今度は抱き上げられまた腕の中へ。
ここが定位置です!というような自然な行動に、私はついに言葉を失った……。
うん、もう好きにして?

「全く……命の恩人に奇襲とは……ラシュカの騎士団は、礼儀を知らないのか?」

サクリスも剣を納め、ベッドにどっかりと座り込む。

「シルベーヌ様の命を救ってもらった件に関しては、心より感謝している!そして、無礼を働いたことを謝罪したい!だが……1つ訂正を。ラシュカの騎士団というのは正しくはない!我らはヴァーミリオン騎士団。今はシルベーヌ様の騎士団だ」

「ん?ヴァーミリオン騎士団は、ラシュカ国ヴァーミリオン領の者だろう?シルベーヌ、おっと……シルベーヌ《様》の専属になったのか?」

サクリスはディランの目がギラッとした瞬間を逃さず、素早く判断して言い直した。
でもね?ナシリスの王子であるサクリスは、別に私のことを呼び捨てでも構わないんじゃないかしら?
なぜそんなことに、ディランが拘るのかがわからないけど、下手なことを言って、面倒なことになるのも頂けない。
……首を突っ込まないことに決定ね。

「我らは縁あってシルベーヌ様に救われた。その恩を返すべくお仕えしているのだ。ラシュカとはもう切り離して考えてもらいたい。つまり……シルベーヌ様専属騎士団だ!」

い、いつの間に専属に?
そんな私の心の声を通り越して、話はサクサク進んでいく……。

「ふぅーん、そうかよ。まぁナシリス王の別荘に殴り込むんだから、ラシュカ国の肩書きはない方がいいだろうな」

「ナシリス王の別荘?……なるほど。ということは、あなたは、サクリス殿下で?」

フォーサイスが尋ねた。

「ご名答。濁流に流される美しいお姫様を助けたんだが、ついでに恐ろしい騎士団まで招いてしまったか……やれやれ、いい行いなんてするもんじゃない」

呆れて天を仰いだサクリスに、私は慌てて言った。

「ごめんなさい、サクリス。でも、彼らは私を心配して来てくれたのよ。悪気はないのよ?ね、ディラン?」

「ああ!君が無事で本当に良かった!」

ひ、人の話を聞けーっ!
微妙に噛み合ってないじゃないの!
私の呆れる顔を見ながら、ほっとした表情のディランはまたキラキラした笑みを向けてくる。
だから………もう、眩しいから輝くなっ!!















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