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ムーンバレー地方

41.攻めてきたもの

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私は、悲痛な面持ちのサクリスを見つめた。
彼は命の恩人である。
サクリスにその恩を返せるとすれば、ただひとつ。
彼の妹、フロール王女の所在を明らかにし、ラシュカ国、ひいては王を正しい道へと導くことだと思う。
だけど……それが出来るかどうかは別物。
追い払われた私に何か出来ることがあるだろうか……。

そう考えたとき、屋敷内がにわかに騒がしくなった。

「サクリス様!!」

扉の外から叫ぶような声がかかった。

「どうした!?何事だ?」

サクリスは表情を変え立ち上がると、乱暴に扉を開けた。
外には兵士のような男が、槍を携えて立っている。

「奇襲をかけられています!ラシュカの騎士風の者が、屋敷に乱入しました!数はざっと20人ほど!」

「ラシュカだと……それで鎮圧したんだろう?20ならたいしことないじゃないか。こちらはその3倍いるんだぞ?」

「それが……全員恐ろしく強いのです!何人相手にしても疲れる様子がなく……」

………………あら?それ、知ってる人のような気がするんだけど……。

「あの……サクリス?」

私は、恐る恐る話しかけた。

「どうした!?今たて込んでいるんだ、用なら後に……」

そこまで言ったサクリスの背後で、槍を持った兵士がバタンと倒れた。

「な!?まさか!?シルベーヌ、こちらへ!」

サクリスは私を後ろに庇うと、扉からサッと離れる。
そして、剣を抜き、構えると敵の侵入を待った。

ギィーー………。

軽く軋む音をたて、扉はゆっくりと開いた。
青鈍色の何かがそっと顔を覗かせたかと思うと、次の瞬間、見知った顔が目に飛び込んできた。

「ディラン!?」

サクリスの後ろから叫ぶと、ハッとしたディランが、剣を構え表情を固くする。

「シルベーヌ、こいつ知り合いか?ひょっとして君を助けに来たのか?」

サクリスの問に、私は答えようとした。
だけど、なぜか激昂したディランが怖い顔をして叫び妨げられてしまう。

「そこをどけ!シルベーヌ様に触るな!」

「ディラン!大丈夫!捕まってるんじゃないの!この人、川で溺れたのを助けてくれたのよ?」

「……………だとしても、シルベーヌ様がそこにいるのは、嫌だ」

嫌だ??そんなこと言われても……ねぇ。
ディランは剣を下ろさず、サクリスから目を逸らそうとはしない。
どうやら、私がサクリスの後ろにいることが、ディランの勘にさわるようだ。
このままでは、膠着状態が続く。

「わかった、ディラン。そっちに行くから、ね?」

「お、おい!大丈夫なのか?」

と、サクリスは振り返った。

私は静かに頷き一歩進んで、サクリスの横に並ぶ。
ここでサクリスを見ると、更にディランの神経を逆撫でするような気がしたので、そのまま真っ直ぐ歩いた。
ディランに向かって。





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