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ムーンバレー地方

36.由々しき事態だわ!

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「これは、由々しき事態だわ……」

国とは、民があってこそで、王個人が私物化するものではない。
と、私は思っている。
冥府では、父王ルーマンドは民に慕われる良き王だ。
確かに今は、地上を征服しようとたくらんではいるが、それによって民に無理を強いることはない。
冥府と地上では、仕組みも何もかもが違う。
だけど、同じ王として比べるなら、ラシュカ王が劣っているのがハッキリとわかる。
残念ながら、美しいのは外見だけか……。
と、一度見たきりの王を思い浮かべ……ようとしたが、全く思い出せなかった……。

「実は……それだけじゃないんだ」

サクリスは怒りの表情から、今度は悲痛な表情に変わっていた。

「何?他にまだ悪いことしてるの?」

「…………オレの妹、フロールは……一年前ラシュカ王の元に嫁いだ……」

「あら、そうなの?………ん?え?……………は?」

ちょっと言ってる意味がわからない。
ラシュカ王の元に嫁いだ?と言うことは、サクリスの妹は、王族か、またはかなり身分高めの貴族………。

「サクリス、あなた……何?」

混乱して、言葉選びを間違えてしまった!
何者と聞こうとしたのよ??
「何?」と言われたサクリスは、思わず緊張の表情を崩しブッと吹き出した。

「オ、オレは……ナシリスの王子だ……しかし、何って問われたのは初めてだな」

「王子………」

そういえば、王族の別荘しかないって言ってた……。
少し考えればわかることだったわ。
この屋敷もかなり豪華だもの。

「挨拶が遅れてすまない。冥府の王女よ。オレはサクリス・ヴァンダイク・ナシリスだ。よろしく頼む」

サクリスは、王族らしい威厳のある声で挨拶をした。
それに答え私もベッドを出、ふわりと寝衣をつまみ挨拶を返す。

「冥府、アルハガウン、一の姫シルベーヌ・ニグロム・アルハガウンでございます」

チラリと目を上げると、サクリスが呆然と立ち尽くしていた。
さっきの威厳はどこへやら、今はかなり間の抜けた顔をしている。

「どうしたの?サクリス?」

私は、彼の目の前で手をブンブン振ってみた。
はっ!と意識を取り戻したサクリスは、私の手を掴み、捲し立てた。

「その美しさは罪だな!ラシュカ王と君が昼間に会ったことに感謝しなくてはならない!!夜ならばどうなっていたか……あの女好きにいいようにされていたに違いない!」

「はぁ………あの、それで妹姫のことだけど……」

「あ!ああ、そうだ……一年前の今頃、フロールはラシュカ王に請われて妃になった。妹はとても美しかったからな……大国ラシュカの王ならば、申し分ない、と父も母もオレも……喜んで送り出したのだ……」










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