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ムーンバレー地方
34.黄色い三日月
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部屋を出ていったサクリスは、思ったよりも早く帰ってきた。
その手には見たこともない『黄色い三日月』のようなものを持っている。
「悪いな、料理人が出払っていてこんなものしかなかった」
そう言うと部屋のテーブルに置かれた銀のトレイに『黄色い三日月』をのせ、私の膝にポンと置いた。
「まぁ、これ、とっても可愛い!何て言う食べ物?」
「可愛い??おい……まさか……バナナを知らないのか……」
サクリスはまた目を丸くした。
「バナナ?……へぇ、そんな名前なのねぇ。名前まで可愛いわ」
黄色い三日月のようなもの、それは「バナナ」という食べ物のようだ。
同じ大きさの三日月が四つ、まるで兄弟のように固まっていて、私の膝が揺れる度に彼らも揺れた。
「このまま食べるの?」
「まさか!!こうやって皮をむいて……」
サクリスはベッドサイドに腰かけて、バナナを一本もぎ取ると、先端の飛び出たところからグイッと下へ引く。
すると!
中から出てきたのは、クリーム色のバナナだった!!
「わあっ!!バナナの中からバナナが!!」
私は両掌を広げ感嘆の声を上げた。
でも、サクリスにはそれが大袈裟に見えたらしく、呆れて笑いながらこう言った。
「………………君は………それが素なのか?ええと……人生が楽しそうで何よりだな……」
うっ、し、失礼な!
そんなアホの子に言うみたいに言わないでっ!
でも、人生が楽しいってことには、反論はしないわ。
こちらに来てから、新しくて楽しい驚きの毎日を送っているんだもの。
サクリスの言葉を軽く流し、私は彼のむいてくれたバナナを食べることにした。
「食べてもいい?」
「どうぞ。召し上がれ」
そう言われて、私は一度手を止める。
何故かというと、バナナを食べる時のマナーとして………。
1、かぶりつく
2、ちぎって口に入れる
という2つの選択肢が浮かんだからだ!
ナイフとフォークは用意されてなかったから、選択肢から外した。
用意されてないってことは、使わないってことよね?
必然的に1か2のどちらかになるんだけど……。
「どうした?」
バナナを前に動かない私を見て、彼は首を傾げる。
そんなサクリスを見上げ、私はおどおど尋ねてみた。
「バナナを食べる時のマナーとか……ある?」
「バナナの!?マナー!?」
いや、食べる時のマナーですよ……と、言おうとしたけど、それはサクリスの大爆笑に遮られた!
「マナー!?マナーって……あはははっ!!ダメだ、腹が捩れる!!死ぬ……死んでしまう!!」
………そのまま、笑い死ぬがいい。
私は心の中で呪いの言葉を吐いた。
「ちょっと!知らないから聞いたのに、あんまりじゃないの!!知らないことを笑うのは失礼なことよ」
プンスカ怒る私の隣で、ヒーヒーと悶えていたサクリスはやっと落ち着きを取り戻した。
「いや、悪い。あんまり君が、面白くて……プッ……純粋で天然なもんだからさ」
「……………」
「ごめん。うん、そうだな、知らないことを笑うなんてダメだな」
笑いの波が去ったサクリスは、今度は真面目に言った。
「わかってくれればいいのよ。で、どうやって食べるの?」
「オレのおすすめはな……」
「うん」
「かぶりつけ!!」
その言葉を合図に、私は勢い良くバナナにかぶりついた!
その手には見たこともない『黄色い三日月』のようなものを持っている。
「悪いな、料理人が出払っていてこんなものしかなかった」
そう言うと部屋のテーブルに置かれた銀のトレイに『黄色い三日月』をのせ、私の膝にポンと置いた。
「まぁ、これ、とっても可愛い!何て言う食べ物?」
「可愛い??おい……まさか……バナナを知らないのか……」
サクリスはまた目を丸くした。
「バナナ?……へぇ、そんな名前なのねぇ。名前まで可愛いわ」
黄色い三日月のようなもの、それは「バナナ」という食べ物のようだ。
同じ大きさの三日月が四つ、まるで兄弟のように固まっていて、私の膝が揺れる度に彼らも揺れた。
「このまま食べるの?」
「まさか!!こうやって皮をむいて……」
サクリスはベッドサイドに腰かけて、バナナを一本もぎ取ると、先端の飛び出たところからグイッと下へ引く。
すると!
中から出てきたのは、クリーム色のバナナだった!!
「わあっ!!バナナの中からバナナが!!」
私は両掌を広げ感嘆の声を上げた。
でも、サクリスにはそれが大袈裟に見えたらしく、呆れて笑いながらこう言った。
「………………君は………それが素なのか?ええと……人生が楽しそうで何よりだな……」
うっ、し、失礼な!
そんなアホの子に言うみたいに言わないでっ!
でも、人生が楽しいってことには、反論はしないわ。
こちらに来てから、新しくて楽しい驚きの毎日を送っているんだもの。
サクリスの言葉を軽く流し、私は彼のむいてくれたバナナを食べることにした。
「食べてもいい?」
「どうぞ。召し上がれ」
そう言われて、私は一度手を止める。
何故かというと、バナナを食べる時のマナーとして………。
1、かぶりつく
2、ちぎって口に入れる
という2つの選択肢が浮かんだからだ!
ナイフとフォークは用意されてなかったから、選択肢から外した。
用意されてないってことは、使わないってことよね?
必然的に1か2のどちらかになるんだけど……。
「どうした?」
バナナを前に動かない私を見て、彼は首を傾げる。
そんなサクリスを見上げ、私はおどおど尋ねてみた。
「バナナを食べる時のマナーとか……ある?」
「バナナの!?マナー!?」
いや、食べる時のマナーですよ……と、言おうとしたけど、それはサクリスの大爆笑に遮られた!
「マナー!?マナーって……あはははっ!!ダメだ、腹が捩れる!!死ぬ……死んでしまう!!」
………そのまま、笑い死ぬがいい。
私は心の中で呪いの言葉を吐いた。
「ちょっと!知らないから聞いたのに、あんまりじゃないの!!知らないことを笑うのは失礼なことよ」
プンスカ怒る私の隣で、ヒーヒーと悶えていたサクリスはやっと落ち着きを取り戻した。
「いや、悪い。あんまり君が、面白くて……プッ……純粋で天然なもんだからさ」
「……………」
「ごめん。うん、そうだな、知らないことを笑うなんてダメだな」
笑いの波が去ったサクリスは、今度は真面目に言った。
「わかってくれればいいのよ。で、どうやって食べるの?」
「オレのおすすめはな……」
「うん」
「かぶりつけ!!」
その言葉を合図に、私は勢い良くバナナにかぶりついた!
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