上 下
31 / 169
ムーンバレー地方

31.滑って、転けて、流されて……

しおりを挟む
それから私は庭でロビー達(庭組)を探した。
見える範囲にはいなかったから、少し回り込んで森の端も確認したけど、どこを探しても彼らは見当たらない。
おかしいわね?皆でまた森の奥へ行ったのかしら?
アッシュなら知ってるかもしれないと思い、もう一度玄関に戻ってみた。
すると彼は、真剣な顔で作業に没頭し、周りの様子を気にせず一心不乱にノミを振るっている。
そんなアッシュに声をかけることは躊躇われ、私は一人、川の方へクレバードを探しに行ってみることにした。


ラシュカ国境近くのこの村『ムーンバレー』は、隣国のナシリスと川を挟んですぐ隣にあった。
館の真裏に流れるレテ川、そのレテ川のちょうど真ん中からが国境だ、というのをディランから聞いている。
私は館の裏手に回り、川へと続く小道を下った。
雨上がりの道はぬかるんでいる上、急な坂道で道幅がかなり狭い。
ロングドレスで、しかもヒールの高い靴。
そんなあり得ない装備でぬかるみの斜面を降りようなんて、私もバカなことをしたものよね……。
気を付けないと、滑り落ちてしまうわ。
そう思った時、案の定足を滑らせた。

「ひゃっ………きゃーーーーー!」

泥に足を取られて靴が脱げ、体はグラリと前のめりになる。
制御の利かない体は、そのまま泥の坂道をまっ逆さまに転がり落ちた!
天と地が交互に視界に映る!?
あまりに急すぎて、目まぐるしく変わる景色を、痛みに耐えながら呆然と見送ることしか出来なかった。
障害物が何もなかったのは、幸か不幸か。
私の体は更に速度を加速させ、勢い良く川へと放り込まれた。

…………冥府にも川はある……。
泥のような濁流で、そこには一人の橋渡しがいた。
冥鏡の祀られている祭殿へ向かうには、その橋渡しに頼まなくてはならない。
私はその川に落ちたことなどなかったけど、もし落ちれば今のようにもがき苦しんだかもしれない。
一昼夜降り続いた雨のせいで、レテ川は増水し、冥府のアケローン川と同じように激しい濁流になっていた。
浮き沈みする体は全く自由にならず、流れに身を任せることしか出来ない。
その時偶然にも、遥か頭上に見える館が視界に入った。
こんなことになるんだったら、ディランと来れば良かった……。
そう思ったけど、もう遅い。

体は自由を失って、また流されるまま濁流に飲まれた。

………いやだわ……水死は、あんまりキレイな死に方じゃないから、出来ればご遠慮したいのだけど……。
苦し紛れにそんなことを考えながら、私の意識は遠退いていった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!  4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。  無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。  日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m ※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m ※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)> ~~~ ~~ ~~~  織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。  なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。  優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。  しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。  それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。  彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。  おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。

秋津冴
恋愛
 レイダー侯爵令嬢アイナは生まれながらの王太子妃候補だ。  さらにいずれは正妃に相応しい女性となれるよう、厳しい教育を受けてきた。  その厳しさは、同年代の貴族子弟子女が通う学院で知り合った友人たちと、遊ぶ暇がないほどだ。  そんな、ある日。  第二王子ロイデンはいきなり、平民の少女を伴って現れると、「お前との婚約を破棄する」と宣言した。  そんな!   今までの真剣に打ち込んできた王太子妃補教育と、それに費やした努力に時間を返してほしい。  こんな仕打ちはなかった。  自分にとっては浮気者のロイデンに、アイナは問いかける。 「殿下、私はどうなるのですか?」  すると、ロイデンは新しい王太子妃候補となったミザリーを抱きしめ、代わりにアイナに拳を振るった。 「お前など、身分を平民に下げ、愛人なら、これからも可愛がってやらないこともない」 「そんな、ひどい! あんまりです! これまで、あなたに捧げて来た私の時間はどうなるのですか!」  そう訴えるアイナに、王太子はさらに暴力を振るおうとする。  しかし、悲惨な状況にあるアイナを救う一人の紳士がいた。  彼は一時的にアイナを保護することになる。  この作品は「本日は絶好の婚約破棄日和です!」の後日譚となります。  併せてお楽しみください。  三万字前後で完結の予定です。  

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

処理中です...