純喫茶カッパーロ

藤 実花

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番外編

カッパーロ、夏場所!③

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「狐様ではありませんかっ!」

私は、こそこそと台所の窓から退散しようとしていた狐様(天狐)の尻尾をむんずと掴んだ。

「い、イタタたっ!これ、メスカッパ!掴むでない!」

「しかし、掴まねば逃げるでしょう?」

そう、あの時だって!
亥ノ子池から銅山まで付き従った私を、あっさり捨てたではないですか!
その仕打ちを忘れたわけではない。
私はより一層強く尻尾を掴んだ。

「まぁまぁ、お梅ちゃん。まずは夕食を食べましょうよ。ね?」

「師匠……しかし、また狐様が逃げるのでは……」

おそらく悲しい顔をしただろう私に、師匠は優しく言った。

「大丈夫よ?だって、四尾の家はここだもの」

「え……ええっ?そうなのですか?」

驚いた私が尻尾を離すと、狐様はぴょんと師匠の肩に飛び乗った。

「これ、サユリ。余計なことを言うでない」

「何で?事実でしょ?水神様にお仕えするんだから、ここにいなきゃだめよね?」

「ぐっ……むぅ」

師匠の言葉に、狐様は難しい顔で黙り込んだ。

「さぁ、頂きましょう!お梅ちゃんもここ、座って?キュウリでいい?」

「あ、いえ。私は減量中なので……」

「ええっ?減量?大丈夫?死ぬんじゃない?」

そう言ったのは、又吉の三男だ。

「死にませんよ、失礼な。私にだって、ガマンはできるんですから!」

「ふぅーん。別にどうでもいいけどぉ。ねぇ、サユリちゃん、早くごはんにしようよぉ!」

三男は、話もそこそこに、師匠に猫なで声で擦りよった。
……銅山で見たときから感じてはいた。
この三男、果てしなく姉と同じような臭いがすると!
タイプは違えど、根底に流れる「あざとさ」は同じ。
私は瞬時に、三男に拒否反応を示した。

「お梅ちゃん?どうしたの?」

「あっ、いえ」

心配して師匠が覗き込んできた。
いけないわ、お梅。
私は修行に来たんだから!
こんなことで、いちいちムカついてたら素敵なヒロインになれないわっ!
そう決意を新たにすると、私は師匠ににっこり微笑んだ。

「私は部屋の隅でお待ちしてます。ささっ、皆様、食事をおすませくださいませ!」

「そ、そう?じゃあ、みんな食べようか?」

師匠が言うと、又吉三兄弟と狐様、全員が席に着き、頂きます!と手を合わせる。
私は冷蔵庫と流し台の隙間に身体をめり込ませ、邪魔にならないようにその様子を眺めることにした。
師匠はオムライスを、狐様はいなり寿司を美味しそうに食べている。
次に又吉三兄弟を見た。
彼らは大皿に盛られたキュウリを……全くもって理解出来ない方法で貪り食っていた!
兄から順番に一本ずつ、ボリボリ、シャクシャクと言わせながら無言で食べ続ける三兄弟。
そんな彼らの様子を確かめながら、師匠は懐からサングラスを取り出しさっと掛けた。
夜なのに、サングラスを?
私は首を捻った。
確か、あれは日光を遮るものだと、お父様が言ってたはず。
部屋の中や、夜に使うものではないわよねぇ……と、考えた時。
三男が発光し始めたのである!

「ひいっ!な、何ですか!?何事ですかぁーーーー!?」

あまりの眩しさに顔を覆うと、(あざとい)三男の楽し気な声が耳に届いた。

「やっほーうぃ!!僕が当たりだねぇ!ツイてるぅー!」

あ、当たり?何が当たったの?
気になって目を開けると、そこには白い世界が広がるばかりで何も見えない。
私は仕方なく目を瞑り、眩しさが収束するのを待った。
すると、ほどなく呑気な三兄弟の声が聞こえてきた。

「はぁ。今日も負けたな。俺は連敗続きだよ」

声からしてこれは次男だ。

「次郎兄、明日は頑張ってね!」

そして、(あざとい)三男。

「ふむ。旬になったキュウリの力は凄まじいな。力が漲る」

低いこの声は長兄だ。
やれやれ、発光は終わったのかしら?と、目を開けると、そこには一面緑の世界が広がっていた。

「カ、カッパに戻ってますよね?な、なんで?」

「キュウリを食べると戻るんだって!」

師匠がサングラスを外しながら言った。
そこで私は、何故サングラスが必要だったのかを悟った。
これ、三兄弟の発光ショーへの対策だわ。

「ま、まぁ、知りませんでした。妖怪の世界にも、まだまだ不思議なことがあるのですねぇ」

しみじみ言うと、三男が(あざとく)得意気に笑う。

「僕たちは《はいぶりっと》なんだってさ!今まで、半妖だって馬鹿にされてきたけど、実は水神の玉の力とカッパと人間のいいとこ取りなんだよねー」

はいぶりっとって何だ?
しかし、それを尋ねると(あざとい)三男に馬鹿にされるかもしれない。
私は、知ったかぶりで「なるほどなるほど」と頷いておいた。

「あ、そうですわ。師匠、これ、修行でお世話になるにあたり、姉が手土産をと……」

私はリュックの中で嵩張っていた土産物を取り出し、師匠に手渡した。
夕飯が終わって、ひと息つくと甘味が欲しくなるもの。
これほど、渡すのに良い機会はない、と自分の粋な計らいに勝手に称賛を贈った。

「えっ!そんなのいいのに!ごめんね、気を使わせちゃって……」

「いえ、師匠!ほんの気持ちですので、お納めください!」

「そう?じゃあ遠慮なく……」

受け取った師匠は、包み紙を開けようとした。
しかし、それを狐様が止めた。


















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