純喫茶カッパーロ

藤 実花

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番外編

僕の初めての友達⑤

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次の日の夕暮れ、いつものようにたみおくんと御堂で遊んでから、僕は浅川池に帰った。
すると、池の畔に何人かの子供の影が見える。
たまに釣りに来たり、蛙やなんかを取りに来る子供がいるけど、この時間にくるなんて珍しい。
僕はゆっくり池に近づいて様子を見た。

「アイツ、ムカつくよなぁ」

「民雄か?」

白い服の男の子と、黄色の服の男の子が言った。
たみおくん?
僕はその言葉に反応した。

「俺達のこと無視するし……何様なんだよ!」

「だよなぁ。自分は特別なんだって態度が腹立つよ」

たみおくんの悪口を言っていたのは、紙芝居の時、手を振ってきた子供達のようだ。
白い服の子と黄色の服の子は、池に石を投げながら、またたみおくんの悪口を言う。
僕は頭に来て、水をぶっ掛けてやろうと掌を彼らに向けた。
その時だ。

「そんなこと言うなよ!妹が死んじゃったんだぞ!民雄くんの気持ちも考えろよっ!」

そう叫んだのは、黒い服の男の子。
その子は心配そうにたみおくんを見ていた子だ。
あの時は気付かなかったけど、彼は浅川池のすぐ近所に住んでる石原さんちの子供だった。

「だってさぁ、良成よしなり。俺達いつも誘ってやってるのに……無視するなんて酷いだろ?」

白い服の子が言う。

「気持ちの整理がつかないんだと思う。もう少し落ち着くのを待とうよ。そうすればまたみんなであそべるよ」

黒い服の子が一生懸命他の子達を宥めているのを見て、本当にたみおくんのことを心配してるんだと思った。
でもそんな彼のことを、たみおくんは「どうでもいい」なんて言ったんだ。
優しいたみおくんと、その冷たい言葉のが、あの時の僕の違和感だったんだ。
だけど……。
それはひょっとしたら、僕のせいじゃないか、と考えた。
兄さまがよく言う「人と妖怪には住み分けが必要だ」ってこと。
僕にはその意味が良くわかっていなかったけど、今、なんとなく理解した。

『僕といると、たみおくんは人間の中で爪弾きにされる』

きっとそういうことなんだ。
たみおくんが一番辛かったとき、僕が側にいてしまった為に、依存してしまったんだよね……。
本当は誰か人間の友達が、その傷を癒やせれば良かったのに。
これから先……僕の存在はたみおくんの枷になってしまう!

僕が考えを巡らせている間に、男の子達はいなくなっていた。
陽の落ちた池の畔で、一人座って池を見て、僕はある決意をした。


*******


「三左くーん!」

「あっ、たみおくんっ!」

いつものように、たみおくんはブンブン手を振って、御堂に向かう坂を駆け登ってくる。
僕は御堂の縁からぴょんと跳び跳ねて、たみおくんを待ち、二人で御堂の中に入った。
そして、日が暮れるまでいろんな話をした。

たみおくんにもらったピンクの髪飾りは僕の一番の宝物になって、今日もお皿の一番目立つ場所についている。
お返しに、池の底で見つけた綺麗な翠色の石を、僕はたみおくんにあげたんだ。

「じゃあね、バイバイ、三左くん!」

たみおくんは無邪気に笑って僕を見る。
途端に切なくなって、決意が翻りそうになった。
それでも踏みとどまったのは、たみおくんの幸せを僕が一番望んでいたからだと思う。

「う、うんっ……バイバイ!」

くるりと背を向けて、御堂の坂を降りて行くたみおくんに……僕は妖術をかけた。
カッパが得意な幻術の一つ、忘却の術だ。
僕の掌から緑の霧が出て、たみおくんの体をフワッと包む。
霧が晴れる時、たみおくんは僕のことだけ忘れてしまうんだ。
ぐすっと鼻を啜ると、不意にたみおくんが振り向いた。
そして、言ったんだ。

「また、あしたねっ!」

緑の霧に包まれて、体を揺すりながら大きく手を振るたみおくんは、弾けるような笑顔だった。

そして、その後。
たみおくんは、この御堂には来なくなった。














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