104 / 120
番外編
僕の初めての友達⑤
しおりを挟む
次の日の夕暮れ、いつものようにたみおくんと御堂で遊んでから、僕は浅川池に帰った。
すると、池の畔に何人かの子供の影が見える。
たまに釣りに来たり、蛙やなんかを取りに来る子供がいるけど、この時間にくるなんて珍しい。
僕はゆっくり池に近づいて様子を見た。
「アイツ、ムカつくよなぁ」
「民雄か?」
白い服の男の子と、黄色の服の男の子が言った。
たみおくん?
僕はその言葉に反応した。
「俺達のこと無視するし……何様なんだよ!」
「だよなぁ。自分は特別なんだって態度が腹立つよ」
たみおくんの悪口を言っていたのは、紙芝居の時、手を振ってきた子供達のようだ。
白い服の子と黄色の服の子は、池に石を投げながら、またたみおくんの悪口を言う。
僕は頭に来て、水をぶっ掛けてやろうと掌を彼らに向けた。
その時だ。
「そんなこと言うなよ!妹が死んじゃったんだぞ!民雄くんの気持ちも考えろよっ!」
そう叫んだのは、黒い服の男の子。
その子は心配そうにたみおくんを見ていた子だ。
あの時は気付かなかったけど、彼は浅川池のすぐ近所に住んでる石原さんちの子供だった。
「だってさぁ、良成。俺達いつも誘ってやってるのに……無視するなんて酷いだろ?」
白い服の子が言う。
「気持ちの整理がつかないんだと思う。もう少し落ち着くのを待とうよ。そうすればまたみんなであそべるよ」
黒い服の子が一生懸命他の子達を宥めているのを見て、本当にたみおくんのことを心配してるんだと思った。
でもそんな彼のことを、たみおくんは「どうでもいい」なんて言ったんだ。
優しいたみおくんと、その冷たい言葉のズレが、あの時の僕の違和感だったんだ。
だけど……。
それはひょっとしたら、僕のせいじゃないか、と考えた。
兄さまがよく言う「人と妖怪には住み分けが必要だ」ってこと。
僕にはその意味が良くわかっていなかったけど、今、なんとなく理解した。
『僕といると、たみおくんは人間の中で爪弾きにされる』
きっとそういうことなんだ。
たみおくんが一番辛かったとき、僕が側にいてしまった為に、依存してしまったんだよね……。
本当は誰か人間の友達が、その傷を癒やせれば良かったのに。
これから先……僕の存在はたみおくんの枷になってしまう!
僕が考えを巡らせている間に、男の子達はいなくなっていた。
陽の落ちた池の畔で、一人座って池を見て、僕はある決意をした。
*******
「三左くーん!」
「あっ、たみおくんっ!」
いつものように、たみおくんはブンブン手を振って、御堂に向かう坂を駆け登ってくる。
僕は御堂の縁からぴょんと跳び跳ねて、たみおくんを待ち、二人で御堂の中に入った。
そして、日が暮れるまでいろんな話をした。
たみおくんにもらったピンクの髪飾りは僕の一番の宝物になって、今日もお皿の一番目立つ場所についている。
お返しに、池の底で見つけた綺麗な翠色の石を、僕はたみおくんにあげたんだ。
「じゃあね、バイバイ、三左くん!」
たみおくんは無邪気に笑って僕を見る。
途端に切なくなって、決意が翻りそうになった。
それでも踏みとどまったのは、たみおくんの幸せを僕が一番望んでいたからだと思う。
「う、うんっ……バイバイ!」
くるりと背を向けて、御堂の坂を降りて行くたみおくんに……僕は妖術をかけた。
カッパが得意な幻術の一つ、忘却の術だ。
僕の掌から緑の霧が出て、たみおくんの体をフワッと包む。
霧が晴れる時、たみおくんは僕のことだけ忘れてしまうんだ。
ぐすっと鼻を啜ると、不意にたみおくんが振り向いた。
そして、言ったんだ。
「また、あしたねっ!」
緑の霧に包まれて、体を揺すりながら大きく手を振るたみおくんは、弾けるような笑顔だった。
そして、その後。
たみおくんは、この御堂には来なくなった。
すると、池の畔に何人かの子供の影が見える。
たまに釣りに来たり、蛙やなんかを取りに来る子供がいるけど、この時間にくるなんて珍しい。
僕はゆっくり池に近づいて様子を見た。
「アイツ、ムカつくよなぁ」
「民雄か?」
白い服の男の子と、黄色の服の男の子が言った。
たみおくん?
僕はその言葉に反応した。
「俺達のこと無視するし……何様なんだよ!」
「だよなぁ。自分は特別なんだって態度が腹立つよ」
たみおくんの悪口を言っていたのは、紙芝居の時、手を振ってきた子供達のようだ。
白い服の子と黄色の服の子は、池に石を投げながら、またたみおくんの悪口を言う。
僕は頭に来て、水をぶっ掛けてやろうと掌を彼らに向けた。
その時だ。
「そんなこと言うなよ!妹が死んじゃったんだぞ!民雄くんの気持ちも考えろよっ!」
そう叫んだのは、黒い服の男の子。
その子は心配そうにたみおくんを見ていた子だ。
あの時は気付かなかったけど、彼は浅川池のすぐ近所に住んでる石原さんちの子供だった。
「だってさぁ、良成。俺達いつも誘ってやってるのに……無視するなんて酷いだろ?」
白い服の子が言う。
「気持ちの整理がつかないんだと思う。もう少し落ち着くのを待とうよ。そうすればまたみんなであそべるよ」
黒い服の子が一生懸命他の子達を宥めているのを見て、本当にたみおくんのことを心配してるんだと思った。
でもそんな彼のことを、たみおくんは「どうでもいい」なんて言ったんだ。
優しいたみおくんと、その冷たい言葉のズレが、あの時の僕の違和感だったんだ。
だけど……。
それはひょっとしたら、僕のせいじゃないか、と考えた。
兄さまがよく言う「人と妖怪には住み分けが必要だ」ってこと。
僕にはその意味が良くわかっていなかったけど、今、なんとなく理解した。
『僕といると、たみおくんは人間の中で爪弾きにされる』
きっとそういうことなんだ。
たみおくんが一番辛かったとき、僕が側にいてしまった為に、依存してしまったんだよね……。
本当は誰か人間の友達が、その傷を癒やせれば良かったのに。
これから先……僕の存在はたみおくんの枷になってしまう!
僕が考えを巡らせている間に、男の子達はいなくなっていた。
陽の落ちた池の畔で、一人座って池を見て、僕はある決意をした。
*******
「三左くーん!」
「あっ、たみおくんっ!」
いつものように、たみおくんはブンブン手を振って、御堂に向かう坂を駆け登ってくる。
僕は御堂の縁からぴょんと跳び跳ねて、たみおくんを待ち、二人で御堂の中に入った。
そして、日が暮れるまでいろんな話をした。
たみおくんにもらったピンクの髪飾りは僕の一番の宝物になって、今日もお皿の一番目立つ場所についている。
お返しに、池の底で見つけた綺麗な翠色の石を、僕はたみおくんにあげたんだ。
「じゃあね、バイバイ、三左くん!」
たみおくんは無邪気に笑って僕を見る。
途端に切なくなって、決意が翻りそうになった。
それでも踏みとどまったのは、たみおくんの幸せを僕が一番望んでいたからだと思う。
「う、うんっ……バイバイ!」
くるりと背を向けて、御堂の坂を降りて行くたみおくんに……僕は妖術をかけた。
カッパが得意な幻術の一つ、忘却の術だ。
僕の掌から緑の霧が出て、たみおくんの体をフワッと包む。
霧が晴れる時、たみおくんは僕のことだけ忘れてしまうんだ。
ぐすっと鼻を啜ると、不意にたみおくんが振り向いた。
そして、言ったんだ。
「また、あしたねっ!」
緑の霧に包まれて、体を揺すりながら大きく手を振るたみおくんは、弾けるような笑顔だった。
そして、その後。
たみおくんは、この御堂には来なくなった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる