純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第五章 天狐を探して

⑬因果応報?

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「うわぁぁぁぁん!……サユリちゃん……僕のこと、家族だって思ってくれてたんだねぇー!」

感極まった三左が、涙で顔をぐちゃぐちゃにして私の腰元に引っ付いてくる。
やめてよ……服が鼻水だらけになるじゃない。

「またサユリさんに泣かされてしまったよ……」

次郎太は溢れてくる涙を一生懸命拭こうとしているが、メガネが邪魔してうまくいかない。
伊達なんだから外せばいいのに。

「サユリ殿っ!我らを……我らを家族と!?いや、わかっておった!わかっておったが、やはり、サユリ殿はそのような思いを私に……」

もう一之丞に至っては何を言っているのかすらわからない。
しきりに「わかっておった!」を連発してるけど、絶対何もわかってないと思う。

テンション上がりまくりのカッパ三兄弟。
それを微笑ましく見つめるカッパ姉妹。
豆狸吾郎は「良い話じゃ」と頷き続け、六太郎は「泣かせるねぇ」と掌で鼻を擦る。

その前で、私はどういう顔をしていいかわからなくなっていた。
良い話も泣かせる話もしていない。
給与きゅうり払いのブラック店舗のオーナーが、従業員に不平不満を持たせない為に話を逸らしただけだったんですけど?
でも、訴えられないんだったらそれはそれで大成功だ。
一之丞も次郎太も三左も泣いて喜んでるんだし、誰も傷ついてない。
はい、めでたしめでたし。

その場が綺麗にまとまったところで、私は中腰になり、泣いているカッパ達を引き寄せスクラムを組んだ。

「私達、家族だもんね!助け合って行こうね」

だから暫くは、支払いきゅうりで我慢しろ、と私は心の中で呟く。

「サユリ殿っ!」

「サユリさんっ!」

「サユリちゃーん!」

一之丞達は、感涙しながら私の首にとりすがり、力任せに体当たりをかましてきた。
力自慢のカッパ三匹に押し倒されて踏ん張れるわけがない。
あえなく私は、後ろに転び、お尻が泥の中にダイブした。

「いやぁーー!!」

あんなに気をつけていたのに、自分が泥の洗礼を受けるとは……。
更なる被害を防ぐために急いで立とうとするけど、カッパが上に乗っていて動けず、お尻の被害は広がった。

「あー……何やってんの、サユリちゃん……泥だらけじゃん」

ヒョイと真っ先に退いた三左が何食わぬ顔で手を差しのべた。

「すまぬ!!」

一之丞はズサッと半歩後退りする。

「あーあ。やっちゃったね」

次郎太は悪びれずに言い、最後にそっと退いた。

誰のせいだと思っとるんだね?ん?
とはいえ、助けてくれるのはありがたい。
無言で三左の手を取ると、 慌てて一之丞と次郎太もヨイショと私の背中を押した。

「もう、えらいことになったわね……」

そう呟くと、お尻を手で確認する。
すると、太もも部分にも染みているようでジーパンは大変なことになっていた。
歩くごとに気持ち悪く、気分は最悪である。

「これは大惨事じゃな、はよう帰らんと風邪を引くぞ?」

吾郎が呑気に言った。
他人事のように言われてイライラしたけど、まさにその通りなので、返す言葉もない。
だけど、一刻も早く帰りたい、その気持ちは一之丞達も感じてくれていたようだ。

「うむ!夜も更けてきた。サユリ殿の尻も大惨事である。目的の一つは果たせたのだ。今日はこの辺で帰るとしよう」

一之丞の言葉に私達は同意した。
早く帰ってお風呂に入りたい、もう望みはそれだけだ。

「おう。元気でな!水神の玉見つかるといいな」

「さらばじゃ。カッパ達。縁があったらまた会おうぞ」

六太郎と吾郎は愉しげにピョンピョンと跳ねて言った。
お梅ちゃんという枷から解放されて、身も心も軽いらしい。
少し調子に乗っているようなので、ほとぼりが覚めたくらいにお梅ちゃんを送り込んでやろうかなと、私は少し意地悪なことを考えた。
それもこれも、お尻が気持ち悪いからである。

「さらばである。豆狸殿」

「ばいばーい!」

「世話になったね」

一之丞、三左、次郎太が言い、

「お梅の面倒を見てくれてありがとうございます」

エリちゃんが深々と頭を下げる。
そして、最後にお梅ちゃんが豆狸達に言った。

「ありがとうね!また来るわ!」

可愛い笑顔で手を振るお梅ちゃんが、出口に向かって背を向けた瞬間、私は見たのだ。
吾郎と六太郎の愕然とした表情を。
恐らく「もう来るな、絶対来るな」と思ったのにちがいない。

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