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第四章 水神の玉
⑩赤飯は炊きません
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「あの……何やら楽しそうだが如何いたした?」
ライターを使い、きゃあきゃあ騒いでいた私達の元に一之丞が帰って来た。
彼は、呪札の残りを次郎太に預けてから、干上がりつつある浅川池の方に向かっていった。
そこで何かをしていた気配はあったけど、ライターの妖術に心を奪われていたカッパ三匹は、その様子を気にも止めなかったのだ。
次郎太はライターでひたすらカッコいいポーズを追及しているし、三左とエリちゃんは羨ましそうにそれを見ている。
私も、さすがにカッパの火遊びを放っておくわけにも行かず、その場で監視をすることにしたのだ。
変な使い方して、カッパーロが燃えたら困るしね。
そういうわけで、一之丞は一人で浅川池で何かをしていたわけだけど……何をしていたのかは知らない。
「兄者!見てくれ!」
一之丞を見て次郎太は叫んだ。
そして、一番カッコいいと思うポーズでライターの妖術を使った。
「出でよ!!火の妖術っ!」
シュボッ!
手元のライターは、軽い音と共に点火された。
次郎太は自慢気に明かりを目の前に持ってきて、フフと笑う。
きっとそこまでが、彼の思う「カッコいい俺」なんだろうね。
でも、残念ながら火の妖術と呼ぶにしてはかなりお粗末だった。
暫く辺りは静寂に包まれた。
その静けさが怖くなり、私は持っていた懐中電灯で一之丞を照らした。
すると、一之丞は目からポロポロと涙を流していたのだ!
「一之丞!?どうしたの?」
慌てて走りよると、一之丞はううっと呻いて膝を付いた。
「次郎太がっ!火の、火の、火の妖術を会得したとは……鍛練が嫌いで、どの術も中途半端だったヤツが……」
「あ……あの、一之丞?」
勘違いをしている……。
それも、激しく。
膝をついた兄を見て、次郎太は困惑していた。
違った反応を期待していたのに、ガチで捉えられたのだから当然だ。
「今までカッパが火の妖術を使ったことなどないっ!それをやってのけるとは、さすが又吉の次男!天晴れ、又吉次郎太!今日は赤飯であるっ」
「赤飯は炊きません」
「な!サユリ殿!?あの見事な火の妖術をご覧になったであろう!?」
腰元に絡み付いてくる一之丞をかわしながら、私は次郎太からライターをもぎ取った。
そして「ここをね……こう持って……こう!」と言いながら、回転ドラムを回す。
シュボッ!
火は簡単に灯された。
「なんとぉ!!」
一之丞は腰を抜かしてへたり込むと、なぜかコマ送りのように小刻みにこちらを向いた。
「こ、こ、これは、ど、ど、どういうことであろうか……な、なぜ、サユリ殿も妖術を……」
「うん。それはね、ライターという道具のせいなの」
と言いながら、ライターをつけたり消したりした。
すると、その場にへたりこんでいた一之丞は、のそのそと立ち上がり、恐々と私の手元を覗き込む。
「らいたぁ……とな?」
「ええ、いつでもどこでも着火出来るものよ」
私は、持っていたライターを次郎太に返した。
長兄のあまりの反応に引いていた次郎太は、ライターが戻ってくるとまた嬉しそうにシュボッ!と点火した。
そのうち、使えなくなることを教えた方がいいだろうか?
まぁ……いいか。
「僕も買ってもらうんだー!ね、サユリちゃん?」
三左がスリスリと腰にすり寄ってくる。
それを見て一之丞が目を剥いた。
「何ということを!!こんな高価なもの、2つと買えるハズがない!店舗を売っても買えるまいっ!」
だとすると、カッパーロの評価額は100円以下だということになりますが?
……なんてことをカッパに言っても仕方ない。
ワナワナと震える一之丞に、私は優しく言った。
「大丈夫。そのくらい買えるよ?なんなら、皆1つずつ買ってあげようか?」
「私にもか!?」
「まさか、サユリ様……私にも?」
一之丞とエリちゃんが、大きな目を溢れそうなほど見開いた。
「うん。一之丞にもエリちゃんにも、もちろん三左にもね」
「しかし、家計の方は……」
「いいって、いいって!その分皆に働いて返してもらうからね!」
まだお金の心配しているクソ真面目な長兄に、私はにっこり微笑んで見せた。
それでなくても、食事のきゅうりだけでタダ働きをさせている。
このくらいのボーナスはあって然るべき、と考えていた私の前で、カッパ達は嬉しさのあまり号泣した。
ライターを使い、きゃあきゃあ騒いでいた私達の元に一之丞が帰って来た。
彼は、呪札の残りを次郎太に預けてから、干上がりつつある浅川池の方に向かっていった。
そこで何かをしていた気配はあったけど、ライターの妖術に心を奪われていたカッパ三匹は、その様子を気にも止めなかったのだ。
次郎太はライターでひたすらカッコいいポーズを追及しているし、三左とエリちゃんは羨ましそうにそれを見ている。
私も、さすがにカッパの火遊びを放っておくわけにも行かず、その場で監視をすることにしたのだ。
変な使い方して、カッパーロが燃えたら困るしね。
そういうわけで、一之丞は一人で浅川池で何かをしていたわけだけど……何をしていたのかは知らない。
「兄者!見てくれ!」
一之丞を見て次郎太は叫んだ。
そして、一番カッコいいと思うポーズでライターの妖術を使った。
「出でよ!!火の妖術っ!」
シュボッ!
手元のライターは、軽い音と共に点火された。
次郎太は自慢気に明かりを目の前に持ってきて、フフと笑う。
きっとそこまでが、彼の思う「カッコいい俺」なんだろうね。
でも、残念ながら火の妖術と呼ぶにしてはかなりお粗末だった。
暫く辺りは静寂に包まれた。
その静けさが怖くなり、私は持っていた懐中電灯で一之丞を照らした。
すると、一之丞は目からポロポロと涙を流していたのだ!
「一之丞!?どうしたの?」
慌てて走りよると、一之丞はううっと呻いて膝を付いた。
「次郎太がっ!火の、火の、火の妖術を会得したとは……鍛練が嫌いで、どの術も中途半端だったヤツが……」
「あ……あの、一之丞?」
勘違いをしている……。
それも、激しく。
膝をついた兄を見て、次郎太は困惑していた。
違った反応を期待していたのに、ガチで捉えられたのだから当然だ。
「今までカッパが火の妖術を使ったことなどないっ!それをやってのけるとは、さすが又吉の次男!天晴れ、又吉次郎太!今日は赤飯であるっ」
「赤飯は炊きません」
「な!サユリ殿!?あの見事な火の妖術をご覧になったであろう!?」
腰元に絡み付いてくる一之丞をかわしながら、私は次郎太からライターをもぎ取った。
そして「ここをね……こう持って……こう!」と言いながら、回転ドラムを回す。
シュボッ!
火は簡単に灯された。
「なんとぉ!!」
一之丞は腰を抜かしてへたり込むと、なぜかコマ送りのように小刻みにこちらを向いた。
「こ、こ、これは、ど、ど、どういうことであろうか……な、なぜ、サユリ殿も妖術を……」
「うん。それはね、ライターという道具のせいなの」
と言いながら、ライターをつけたり消したりした。
すると、その場にへたりこんでいた一之丞は、のそのそと立ち上がり、恐々と私の手元を覗き込む。
「らいたぁ……とな?」
「ええ、いつでもどこでも着火出来るものよ」
私は、持っていたライターを次郎太に返した。
長兄のあまりの反応に引いていた次郎太は、ライターが戻ってくるとまた嬉しそうにシュボッ!と点火した。
そのうち、使えなくなることを教えた方がいいだろうか?
まぁ……いいか。
「僕も買ってもらうんだー!ね、サユリちゃん?」
三左がスリスリと腰にすり寄ってくる。
それを見て一之丞が目を剥いた。
「何ということを!!こんな高価なもの、2つと買えるハズがない!店舗を売っても買えるまいっ!」
だとすると、カッパーロの評価額は100円以下だということになりますが?
……なんてことをカッパに言っても仕方ない。
ワナワナと震える一之丞に、私は優しく言った。
「大丈夫。そのくらい買えるよ?なんなら、皆1つずつ買ってあげようか?」
「私にもか!?」
「まさか、サユリ様……私にも?」
一之丞とエリちゃんが、大きな目を溢れそうなほど見開いた。
「うん。一之丞にもエリちゃんにも、もちろん三左にもね」
「しかし、家計の方は……」
「いいって、いいって!その分皆に働いて返してもらうからね!」
まだお金の心配しているクソ真面目な長兄に、私はにっこり微笑んで見せた。
それでなくても、食事のきゅうりだけでタダ働きをさせている。
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