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第四章 水神の玉
⑥エリザベス
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私達は話し合いの場を二階の台所へ移した。
しかし、座る椅子は4つしかない。
確か私の部屋に一つあったな、と思い持ってきてエリちゃんに勧めると、凄く丁寧なお礼をされた。
「重ね重ね、ご迷惑をお掛け致します」
ゆっくり腰を折り頭を下げる、その一連の動作はまさに演歌歌手だ。
アバズレとか、裏切ったとか、弄んだとか言われてるけど、感じのいい子じゃない?
物腰が柔らかいし、カッパの世界ではきっと美人なのではないだろうか?
一之丞があっさり惚れてしまうのも納得だ。
「はい、皆座ったね。じゃあ、エリちゃん、ご用件をどうぞ」
この場の司会進行は私である。
次郎太と三左ではケンカになるし、一之丞は未だに目も合わさないからだ。
エリちゃんは、テーブルの上で指を組み……いや水掻きを組み、声を震わせて言った。
「まず、又吉一族様、更に一之丞様に謝罪をさせて下さい。私の仕出かしたことで、この池が干上がってしまうなんて……」
「だからっ!何でとったんだよぅ!大事な物だって知ってたくせに!」
三左が食って掛かり、テーブルに体を乗り上げた。
「まぁまぁ。三左、落ち着いて?そうだ、ここに来なよ?」
私は自分の膝をポンポンと叩いた。
この中で、一番手が早そうなのは三左だ。
これをガッチリ押さえ込んでおかないと落ち着いて話も出来ない。
「そんなことで、僕が大人しくするとでも……」
三左はすぐに私の企みを見抜き文句を言った。
が、問答無用で膝に乗せられると、身動きが取れなくなったためかすぐに大人しくなった。
あ、じゃあ椅子は持ってこなくてもよかったな……ま、いいか。
「さ、エリちゃん続きを」
「は、はい……では、どうして私が水神の玉を盗んだのか……それをお話致しましょう」
エリちゃんは姿勢を正し、コホンと一つ咳をした。
「そう、あれは確か三十年前のこと……」
まだ生まれてもないな……。
人知れず私は突っ込んだ。
「我が錦野一族の亥ノ子池に、4本の尻尾を持った狐が現れたのです」
「4本の尻尾の狐?ん?最近どこかで聞いたような……」
私は一之丞を見た。
すると、彼が叫んだ。
「四尾!集会所の天狐であるっ!」
「あっ!」
私も思い出した。
何で昨日のことなのにすぐ思い出せなかったのか……年のせいじゃないよね、うん……。
「皆様、御存知なのですか!?そうですか、ならば話が早い。その狐がうちの父を人質に取り、返してほしくば、浅川池にあると言う水神の玉を持ってこいと脅したのです」
エリちゃんは水掻きで目頭を押さえた。
「なんと。そのような事情が……」
一之丞が言った。
「いえ……どんな事情があろうとも、私はやってはいけないことをしたのです……天涯孤独な身の上を装って一之丞様に近づき、気のある素振りをした挙げ句、婚約した後に玉の在りかを聞き出して持ち逃げするなんて……」
わぁ……結構酷いことしてた……。
これって、現代でいう結婚詐欺では?
エリちゃんのこの話を聞かなかったら、アバズレって言われても仕方ないわ。
「そうだな。やってはいけないことだ。お陰で兄者のプライドはズタズタだぞ。浅川池の宝物を取られ、婚約者に逃げられ、行方を追おうにもどこに去ったのかもわからず……妖怪界隈でも、捨てられた憐れなカッパとまでいわれて、暫く立ち直れなかったんだ」
「酷いよ。僕らの自慢の兄さまを……だから許せないんだっ!」
次郎太も膝の上の三左も悲しい声で叫んだ。
なるほどねー。
そこまでへこんでたなら、断固として言いたくない!っていうあの態度もわかる。
次郎太や三左が困った顔で見てたのもそのせいだ。
「皆、もう良いのだ。私は、自分が《混ざりもの》だからエリザベスに嫌われ裏切られたのだと思っていた……だが、事情があってのことと知って今はほっとしている」
この時、一之丞は初めてエリちゃんを真正面から見た。
《混ざりもの》だから嫌われたんじゃないとわかって自信を取り戻したのかも。
「一之丞様……どうぞもっと責めて下さいませ!貴方はいつも優しすぎますっ!」
エリちゃんは黒く大きな瞳から、ポロポロと涙を溢した。
それを見て、一之丞がサッと手拭いを渡した……けど、それ台拭きだからー!
このいい場面に水をさすわけにもいかず、私は言葉を飲み込んだ。
「エリザベス。もう良い。それよりも水神の玉の件だ」
「あっ!はい。そうですね……私は水神の玉を持ち帰り狐に渡しました。そして父は無事に戻り、全ては解決したはずだったのですが……」
エリちゃんは言葉に詰まり、また泣き始めると、台拭きで思いっきり鼻をかんだ。
そして、話を続けた。
「昨日のことでございます。また狐が現れたのです……」
しかし、座る椅子は4つしかない。
確か私の部屋に一つあったな、と思い持ってきてエリちゃんに勧めると、凄く丁寧なお礼をされた。
「重ね重ね、ご迷惑をお掛け致します」
ゆっくり腰を折り頭を下げる、その一連の動作はまさに演歌歌手だ。
アバズレとか、裏切ったとか、弄んだとか言われてるけど、感じのいい子じゃない?
物腰が柔らかいし、カッパの世界ではきっと美人なのではないだろうか?
一之丞があっさり惚れてしまうのも納得だ。
「はい、皆座ったね。じゃあ、エリちゃん、ご用件をどうぞ」
この場の司会進行は私である。
次郎太と三左ではケンカになるし、一之丞は未だに目も合わさないからだ。
エリちゃんは、テーブルの上で指を組み……いや水掻きを組み、声を震わせて言った。
「まず、又吉一族様、更に一之丞様に謝罪をさせて下さい。私の仕出かしたことで、この池が干上がってしまうなんて……」
「だからっ!何でとったんだよぅ!大事な物だって知ってたくせに!」
三左が食って掛かり、テーブルに体を乗り上げた。
「まぁまぁ。三左、落ち着いて?そうだ、ここに来なよ?」
私は自分の膝をポンポンと叩いた。
この中で、一番手が早そうなのは三左だ。
これをガッチリ押さえ込んでおかないと落ち着いて話も出来ない。
「そんなことで、僕が大人しくするとでも……」
三左はすぐに私の企みを見抜き文句を言った。
が、問答無用で膝に乗せられると、身動きが取れなくなったためかすぐに大人しくなった。
あ、じゃあ椅子は持ってこなくてもよかったな……ま、いいか。
「さ、エリちゃん続きを」
「は、はい……では、どうして私が水神の玉を盗んだのか……それをお話致しましょう」
エリちゃんは姿勢を正し、コホンと一つ咳をした。
「そう、あれは確か三十年前のこと……」
まだ生まれてもないな……。
人知れず私は突っ込んだ。
「我が錦野一族の亥ノ子池に、4本の尻尾を持った狐が現れたのです」
「4本の尻尾の狐?ん?最近どこかで聞いたような……」
私は一之丞を見た。
すると、彼が叫んだ。
「四尾!集会所の天狐であるっ!」
「あっ!」
私も思い出した。
何で昨日のことなのにすぐ思い出せなかったのか……年のせいじゃないよね、うん……。
「皆様、御存知なのですか!?そうですか、ならば話が早い。その狐がうちの父を人質に取り、返してほしくば、浅川池にあると言う水神の玉を持ってこいと脅したのです」
エリちゃんは水掻きで目頭を押さえた。
「なんと。そのような事情が……」
一之丞が言った。
「いえ……どんな事情があろうとも、私はやってはいけないことをしたのです……天涯孤独な身の上を装って一之丞様に近づき、気のある素振りをした挙げ句、婚約した後に玉の在りかを聞き出して持ち逃げするなんて……」
わぁ……結構酷いことしてた……。
これって、現代でいう結婚詐欺では?
エリちゃんのこの話を聞かなかったら、アバズレって言われても仕方ないわ。
「そうだな。やってはいけないことだ。お陰で兄者のプライドはズタズタだぞ。浅川池の宝物を取られ、婚約者に逃げられ、行方を追おうにもどこに去ったのかもわからず……妖怪界隈でも、捨てられた憐れなカッパとまでいわれて、暫く立ち直れなかったんだ」
「酷いよ。僕らの自慢の兄さまを……だから許せないんだっ!」
次郎太も膝の上の三左も悲しい声で叫んだ。
なるほどねー。
そこまでへこんでたなら、断固として言いたくない!っていうあの態度もわかる。
次郎太や三左が困った顔で見てたのもそのせいだ。
「皆、もう良いのだ。私は、自分が《混ざりもの》だからエリザベスに嫌われ裏切られたのだと思っていた……だが、事情があってのことと知って今はほっとしている」
この時、一之丞は初めてエリちゃんを真正面から見た。
《混ざりもの》だから嫌われたんじゃないとわかって自信を取り戻したのかも。
「一之丞様……どうぞもっと責めて下さいませ!貴方はいつも優しすぎますっ!」
エリちゃんは黒く大きな瞳から、ポロポロと涙を溢した。
それを見て、一之丞がサッと手拭いを渡した……けど、それ台拭きだからー!
このいい場面に水をさすわけにもいかず、私は言葉を飲み込んだ。
「エリザベス。もう良い。それよりも水神の玉の件だ」
「あっ!はい。そうですね……私は水神の玉を持ち帰り狐に渡しました。そして父は無事に戻り、全ては解決したはずだったのですが……」
エリちゃんは言葉に詰まり、また泣き始めると、台拭きで思いっきり鼻をかんだ。
そして、話を続けた。
「昨日のことでございます。また狐が現れたのです……」
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