純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第二章 めたもるふぉーぜ!

④私の好きな顔

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一階倉庫へと階段を降り、焙煎室を覗いてみると、窓から照らす月明かりをぼんやり眺める一之丞がいた。
体育座りでちょこんと座る姿は、親に怒られた小学生男子のよう。
とてもさっきのギリシャの海運王には見えない。

「一之丞?」

声をかけると、びっくりした顔をしてこちらを向き、私しかいないのを確認すると少しほっとした表情になった。

「サユリ殿。先程はお見苦しい姿を見せてすまなかった。あの程度のことで、取り乱すなど私もまだまだ未熟者であるな」

一之丞は近寄って座る私に向き直ると、正座で座り深く頭を下げた。

「ううん……ね、一之丞は人間が嫌い?」

「いや、そのようなことはない」

「でも人型じゃない方がいいのよね?」

その質問に一之丞は押し黙った。
少し、言い方がきつかっただろうか?
人間である私が、人型が好きではない彼を責めてるように聞こえたのかも……。
そうだったら謝らないといけない。
全然そんなつもりはないんだから。
黙る一之丞を窺うように見ながら、私は謝罪の言葉を探した。
すると、一之丞が突如真剣に語りだしたのである。

「……私は、ずっと自分がどちらであるのかわからなかったのだ」

「え……?」

その重い雰囲気に私は言葉を続けられなかった。

「幼少の頃、同じカッパの一族にからかわれたのだ。《混ざりもの》《半端者》と蔑まれ悲しかった。しかし、だからと言って、父や母を恨むなどお門違いであろう?未だにこの思いを何処へ向けて良いのかわからないのだ。全く……不甲斐ない!」

一之丞は何回も強く拳で膝を叩いた。
うっすらと色を変える膝を見て、思わず私は一之丞の手を掴んだ。
思ったより、妖怪世界の差別も根が深い。
人間世界もそうだけど、自分と違うもの、異質なものに対しての偏見は無くならない。

「もうやめなよ、痛くなるから……」

「サユリ殿……」

一之丞はハッと顔を上げこちらを向いた。

「一之丞は自分の人間の部分を恥じているの?」

「恥じるというよりは……好きになれないだけなのだ」

「ふぅん。なら、人間の一之丞のことは私が好きでいるわ」

「えっ?……それはどういうことなのだろうか?」

一之丞は目を丸くして私を見つめた。
何を言っているのかサッパリわからない、という表情をしている彼に、私はキッパリと言い放った。

「だって、一之丞の人型の顔、私の好きな顔なんだもん」

ギリシャの海運王《愛は銀の波に乗って》のヒーロー、イグナティオス。
そのビジュアルそっくりの彼を愛でずにはいられない。
但し、観賞用として常に2メートルくらい離れてて貰いたいけど。

一之丞は暫くぼーっと、私を眺めていた。
私もそんな一之丞を眺めている。
彼の円らな瞳は月明かりに照らされて、黒い宝石のように煌めいていた。
確かイグナティオスの瞳も、作中で黒曜石のようだと記されていた。
それを思い出すと、カッパの一之丞の姿が人型の彼と重なり、私は顔が赤くなるのを感じた。

「好き……サユリ殿が……私を……好き……」

ぼーっとしていた一之丞は譫言のように呟いている。

「うん。《顔》がね」

大事な単語が抜けている、そう思って補足しておいたけど、一之丞は全く聞いていなかった。

「そうであったか……うむ。ならば、私もサユリ殿に相応しい者にならねばならぬ」

「え?それ、どういう意味?」

掴んだままだった私の手を、一之丞はきゅっと強く握った。

「サユリ殿は、私が守る!!」

いや、今どちらかというと守ってやってるのは私だからね?
誰が寝床と食糧与えてやってると思ってるの?
そんな気持ちがふつふつと沸き上がったけど、やっと元気を取り戻した一之丞の気分を下げるのも如何なものか……。

困ったような顔をした私の前で、一之丞は屈託のない表情で微笑んでいる。
その無邪気な顔を見て、なんだかもうどうでも良くなった。
笑えてるんだからいいじゃない?
楽しそうなんだから、もうほっとこう。
そう考えて、私も目の前の一之丞ににっこりと微笑んでおいた。




























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