純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
14 / 120
第一章 未知との遭遇

⑭どういうイリュージョンよ?

しおりを挟む
「どういうイリュージョンよ?」

取りあえずお風呂の扉を閉め、私は三匹に尋ねた。

「話せば長くなるが……」

お風呂で無駄に掛かるエコーの為に、一之丞のバリトンボイスがとてもエロく聞こえる……。
そして、さっきの精悍な銀髪イケメン海運王が目の前にちらつき、私の思考を乱す。
ダメ!しっかりして私!あれはカッパよ!
緑の水掻きと皿と甲羅を持った妖怪よ!
ギリシャの海運王じゃないんだからー!

「……み、短くお願い」

漸くそれだけを返すと、中から三左の陽気な声が聞こえた。

「お湯が皿にかかるとね、僕たち人間になるんだよー」

「な、何で!?」

「うーんとねー、おかーさんが人間だったから?」

「え……」

三左の答えは簡潔で分かりやすかったけど、全く理解できなかった。
これは、ちゃんと話を聞いた方がいいかもしれない。
一之丞の話は長そうだけど、彼に聞くのが一番いいような気がする。

「わかった。お風呂から出たらゆっくり話そうか……」

「うむ。そうしてもらえるとありがたい!……あと、申し訳ないが我らが着れそうなものはないか?」

「あっ!そうね、わかった、探しとく!」

今人間だから着るものがないと大変なことになるよね。
銀髪イケメン達の真っ裸なんて、そんな……そ……。
風呂場での光景を思い出し、カーッと顔が熱くなった。
一応29歳の健全な女であるが、残念ながら彼氏というものがいたことがなく、当然免疫もない。
それなのに、あんな見目麗しい全裸がいきなり目に飛び込んで来るんだから混乱しても仕方ないよね……。
彫刻のダビデ像も真っ青な均整のとれた体型が、まだ瞼の裏に焼き付いているようだ……。

私は赤い顔のまま、父母の部屋に移動した。
確か、父の服が残っていたはず……。
でも、典型的な日本人である父の服を果たしてダビデが着れるのか?
地味な紺のポロシャツとベージュの綿パンをはくダビデ……。
想像するとそれはかなり笑えた。
うん、ポロシャツはやめとこう、綿パンも……。
私は仕方なくタンスの奥から大きめのジャージの上下と、白いTシャツを適当に出し、急いで脱衣所に放り込んだ。

そして、待つこと20分。

脱衣所に出てきた気配を感じとり、台所から耳をすませると、三左の金切り声が聞こえた。

「いやぁーー!!何これっ……」

慌てて脱衣所前に移動し扉を叩いた。

「どうしたの!?」

「サユリちゃん、この服、ダサい」

ダサ……い?
ジャージにダサいとかある?
普通でしょ?
脱衣所の中では、失礼な三左を一之丞が叱っている。

「愚か者っ!折角用意してくれたのに、なんと言うことを!」

「そうだぞ、三左。いきなりのことでサユリさんも間に合わなかったんだよ」

珍しく次郎太が一之丞を擁護している。

「えぇーー僕、サユリちゃんみたいなちゃんとした寝間着がいい。色はねぇー可愛いピンクのやつ!」

「……私の寝間着?パジャマ?……着れるの?」

脱衣所の扉に向かって問いかけた。

「着れるよぅ!僕細身なんだよ?何なら見る?」

「い、いやいや、結構。じゃあ私のパジャマ持ってくるけど……ピンク?」

「うんっ!ピンクー」

こらっ!と窘める一之丞の声を聞きながら、私は渋々部屋へ行き、パジャマを物色した。
ピンク……だと?
自慢じゃないけど、そういう可愛い色は買わないし、着ない。
どこを探してもないのはわかっていたので、似たような色を持っていこうと考えていたら、タンスの奥深く、タオル地のバスラップを見つけた。
薄いピンク色で長さは膝丈ほど。
タオルで出来たキャミソールのようなものだ。
古い記憶を辿ってみると、高校の時、店に来るタオル会社の専務さんに貰ったことを思い出した。
趣味に合わなかったから、タンスの肥やしになったんだっけ……。
私はそれを手に取り、脱衣所に向かった。

「三左ー?これでいい?」

と、少しだけ隙間を開けて差し入れる。

「……ひゃう!これ、可愛いい!ありがと、サユリちゃん!!」

三左は変な悲鳴の後、嬉しそうにお礼を言った。

「いーえ。どういたしまして……早く出てきてね……」

「はーい!」

ああ……なんかもう疲れた。
でも、これからまだ長い話が待っているのだ。
私は冷蔵庫を開けビールを取り出すと、プシュといい音をさせた。
そして、ゴクッと一口飲んでプハーと息をはき、これから聞くであろうカッパ達の身の上話?に備えたのである。





































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...