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Extra Ausgabe
出産狂想曲④~従軍記者ジェシカ
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急いで馬を駆け、駅前に着いた私は、一旦降りて産科医を探した。
しかし、顔を知らない私ではとても探しようがない。
困り果て、知っている顔を探して目を彷徨わせると、ハインミュラー家の執事を見つけた。
「執事さーん!!」
「え……っ、あ!ジェシカさ……まっ!?」
執事の目は横に並んだ馬に釘付けになった。
しかしさすがはハインミュラー家の執事。
息を整えると、何事もなかったように状況を説明し始めたのである。
「ご覧下さい。やっと医術士が来てくださいました!しかしまだ人手は足りません」
「大丈夫よ。もうすぐ各地から医術士が押し寄せるでしょう。それよりも!クリスタ嬢の担当医はどの方かしら?」
私は焦っていた。
こうしている間にも、クリスタ嬢が大変なことになってやしないかと気が気じゃない。
「はっ!そうでしたね!急がねばなりません!ええと、フィーネ・バーナー医術士は……」
執事は額に手を翳し、辺りを物色すると「あっ!」と声を上げ指差した。
「そこでございます!」
彼の指差す方には、バスから怪我人を運んでいる女性の姿が。
「ありがとう。じゃあ、私、一足先にあの人を連れてハインミュラー邸に行くわね!」
「はい!宜しくお願いします!クリスタ様とお子様方をどうか……」
深く長く頭を下げる執事に、力強く頷くと、私はバーナー医術士の元へと向かった。
「すみません!フィーネ・バーナー先生?」
「へ?……ええっ!?馬?」
バーナー医術士は患者を見る手を止めこちらを見、隣の馬を見て叫ぶ。
「貴女、クリスタ嬢の担当医ですわよね?彼女陣痛が始まったらしいわ!一緒にハインミュラー邸まで来てくださる!?」
「なっ……そうなの!?大変だ!すぐ行くよ!で、あの……もしかしてだけど……この馬で、かな?」
「これの他に手段はないでしょうね?交通がマヒしてる今、一番確実で早いわ!さぁ、乗って!ザナリア馬術大会優勝者のジェシカ・ハーネスが華麗で優雅に最速でお届けするわ!」
「あ、うん……」
バーナー医術士は恐々と馬を見上げた。
初めて乗るのだろうか、緊張感丸出しで若干顔色が悪い。
しかし、そんなことで無駄にする時間はない。
「バーナー先生?行きますわよ!」
「わ、わかった!ちょっと待ってて!」
彼女はゴクリと息を呑み、それから腹を括ったような表情で駆け出した。
行き先は、フローリアの妹の所だ。
そこで、何やら会話を交わした後、バーナー医術士はしっかりした足取りでこちらにやってきた。
「行こうか!ジェシカさん!お世話になります!」
「ええ!参りましょう!」
私は先に馬に乗ると、バーナー医術士をグイッと後ろに引き上げた。
すると彼女は、馬上の高さを怖がりもせず、スッと姿勢を正す。
……案外肝が座っている。
何だか、仲良くなれそうな人だわ。
「しっかり掴まってらして!飛ばすわよ!」
「了解!いつでもどうぞ!」
バーナー医術士は私の腰に手を回し、ギュッと抱きつくようにした。
それを確認して、私は颯爽と馬を駆った。
しかし、顔を知らない私ではとても探しようがない。
困り果て、知っている顔を探して目を彷徨わせると、ハインミュラー家の執事を見つけた。
「執事さーん!!」
「え……っ、あ!ジェシカさ……まっ!?」
執事の目は横に並んだ馬に釘付けになった。
しかしさすがはハインミュラー家の執事。
息を整えると、何事もなかったように状況を説明し始めたのである。
「ご覧下さい。やっと医術士が来てくださいました!しかしまだ人手は足りません」
「大丈夫よ。もうすぐ各地から医術士が押し寄せるでしょう。それよりも!クリスタ嬢の担当医はどの方かしら?」
私は焦っていた。
こうしている間にも、クリスタ嬢が大変なことになってやしないかと気が気じゃない。
「はっ!そうでしたね!急がねばなりません!ええと、フィーネ・バーナー医術士は……」
執事は額に手を翳し、辺りを物色すると「あっ!」と声を上げ指差した。
「そこでございます!」
彼の指差す方には、バスから怪我人を運んでいる女性の姿が。
「ありがとう。じゃあ、私、一足先にあの人を連れてハインミュラー邸に行くわね!」
「はい!宜しくお願いします!クリスタ様とお子様方をどうか……」
深く長く頭を下げる執事に、力強く頷くと、私はバーナー医術士の元へと向かった。
「すみません!フィーネ・バーナー先生?」
「へ?……ええっ!?馬?」
バーナー医術士は患者を見る手を止めこちらを見、隣の馬を見て叫ぶ。
「貴女、クリスタ嬢の担当医ですわよね?彼女陣痛が始まったらしいわ!一緒にハインミュラー邸まで来てくださる!?」
「なっ……そうなの!?大変だ!すぐ行くよ!で、あの……もしかしてだけど……この馬で、かな?」
「これの他に手段はないでしょうね?交通がマヒしてる今、一番確実で早いわ!さぁ、乗って!ザナリア馬術大会優勝者のジェシカ・ハーネスが華麗で優雅に最速でお届けするわ!」
「あ、うん……」
バーナー医術士は恐々と馬を見上げた。
初めて乗るのだろうか、緊張感丸出しで若干顔色が悪い。
しかし、そんなことで無駄にする時間はない。
「バーナー先生?行きますわよ!」
「わ、わかった!ちょっと待ってて!」
彼女はゴクリと息を呑み、それから腹を括ったような表情で駆け出した。
行き先は、フローリアの妹の所だ。
そこで、何やら会話を交わした後、バーナー医術士はしっかりした足取りでこちらにやってきた。
「行こうか!ジェシカさん!お世話になります!」
「ええ!参りましょう!」
私は先に馬に乗ると、バーナー医術士をグイッと後ろに引き上げた。
すると彼女は、馬上の高さを怖がりもせず、スッと姿勢を正す。
……案外肝が座っている。
何だか、仲良くなれそうな人だわ。
「しっかり掴まってらして!飛ばすわよ!」
「了解!いつでもどうぞ!」
バーナー医術士は私の腰に手を回し、ギュッと抱きつくようにした。
それを確認して、私は颯爽と馬を駆った。
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