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クリスタ改 リターンズ

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「アイスラー!ねえ!彼女どうしてしまったの!?」

「わからない!ああ……脈が弱くなってる……早く、ゆっくり部屋へ運んで!!」

「オレが運ぶ!姫様!……っなんで……」

遠くで、マリアとアイスラーとレオンの声がする。

あら、なんで私、自分の体を見ているのかしら?
ふわふわと宙を浮かんで、何かを掴もうと思っても空振りするばかりで全く掴めない。

「おーい、軍部の人間が来たぞー………え、おい、クリスタ様はどうしたんだ?」

ザックスが心配そうに私を見てる。
大丈夫よ、ちゃんとここにいるわ。

「わからないっ!でも危険だ!前のとは確実に違う。あの時は生きてるって言えたけどこれは……ゆっくり死に向かってる……」

え?
ちょっとアイスラー、私、死ぬの?
そんな予定はないわよ!?

「今軍部が来てるって言った!?大変だ、ローラントを止めておいて!ここへ来させないで!」

なんで?
ローラント来ちゃだめなの?

「そんな!クリスタがこんなことになってるのに……」

「君も見ただろ!あの時のローラントを!また、同じことが起こるよ!いや、それよりもっと酷いことになる」

あの時?
酷いことって?

「オレが足止めをする……だが……もし、姫様がどうにかなってしまったら、死に目に会えないのは、辛く……ないか?」

…………………………。


「わかってるよっ!そんなことわかってるんだ!だけど……」

アイスラー……。
えっと、私、本当に死んじゃうの?


ふと目をあげると、集会所の方から見覚えのある漆黒の軍服が見えた。
ああ、ローラントね。
その後ろにヴィクトールも。
ゆっくりと歩いていた彼らは、こちらを見つけると早足になり、何か異常な事態が起こっているのを確認して走ってくる。

レオンは私をアイスラーに預けて、ローラントの前に立った。

「どうした?なんでクリスタが倒れてるんだ?ああ、もう、オレが抱くから彼女をこっちに」

「今、ちょっと良くないんだ……」

「良くない?何がだ?」

アイスラーから私を引ったくるように抱くと、顔を近づけて呼吸を確かめ、胸に耳をあて心音を聞いた。

「…………弱い……おい、これは……」

「待って!ローラント!先に集会所に運んで!もう一度ちゃんと診るから!」

アイスラーの目には明らかに恐怖が見てとれた。
『あの時』のローラントがどれ程酷かったのかそれでわかる。

ローラント、私は大丈夫よ。
死んだりしないわ。

後ろから背中を触ろうとしたが、手は空しく宙を掻いた。

「……集会所はどこだ?案内しろ!早く!」

レオンに案内され、ローラントは集会所の粗末な簡易ベッドに私を横たえた。
アイスラーが側で脈を取ったり、心音を聞いたりしているが、事態は好転しないらしい。

この異常事態にトビアスもエンヴィも出てきて見守っている。
その時、マリアが顔を真っ青にして何かを指差した。
その方向には……。

「あなた!卒業セレモニーにいた係員ね!あたしにお父様からの伝言があるって嘘をついた……どうしてここにいるの!?」

「ははっ、流石に物覚えがいいね」

エンヴィは突然人が変わったようにせせら笑った。

「逃げるつもりも隠れるつもりもないよ。もう、目的は果たした。さぁ、好きにするといい」

「目的って………何よ」

マリアは指を組んで祈るようにクリスタを見てそれからエンヴィを睨んだ。

「クリスタ・ルイスをミカエルと同じ場所へ」

「!!!」

全員が動こうとしたが、ローラントが一番早かった。
その大きな手でエンヴィの頭を掴むと、そのまま壁に押し付けた。

「ローラント!ダメだ!まだ聞きたいことがある!」

アイスラーの言葉に反応してローラントは多少手を弛めた。

「何かしたのか?何かを飲ませたのか?どうなんだ?」

「……ふっ、……彼女はランゲンバッハの最後の犠牲者になるね。あの兵器と同じ毒だよ。緩やかに確実に死んでいく……ふふっ、……ううっ!」

ローラントは指に力を込め、エンヴィの頭を握り潰そうとしている。

「ローラント!来て!早く」

アイスラーの声が、もう叫びに近いものになっているのを、ローラントはどこか遠いところで聞いている気がしていた。
エンヴィの頭を荒々しく振りほどき、クリスタの側に駆けつけると、アイスラーが呟くように言った。

「脈が、消えた」



待ってよ………、私、死ねない。
ローラントを置いては死ねない!

頑張れ、私の体!
根性見せなさいよ!

宙で俯瞰していた私は、ほとんどローラントで見えなくなっていた本体に吸い込まれるようにして消えた。



*********


「それで、また出会ったわけなんだけど」

「おっ!出たわね、クリスタ改」

私達は初めてあった時と同じ、あの離宮にいた。
厳密には本来の離宮じゃなくて、頭の中で作られた離宮なんだけど。

「あなたがいると言うことは、まだ死んでないのね」

「脳はまだね。でも体はほぼ死んでるわ」

「死にたくないんだけど」

「ええ、私も」

離宮の泉の上で、クリスタとクリスタ改は共に腕組みをして考えている。

「ランゲンバッハの兵器とは、また大層なもの持ってきたわよね」

クリスタが腕組みを解くと、クリスタ改もそれにならう。

「そうね、あなたミカエルに捧げられたわよ。あの人、狂信者かしら」

「慕っているのは間違い無さそうだけど」

「ああ、ダメね、違うわ、生きる方法よね。今はそれを何とかしないと」

外では、心臓マッサージが始まったようで、定期的に体が揺れそれに伴って離宮も地震のように揺れた。
その揺れに反応するかのように、体を巡る血液がまた少しずつ流れはじめ、冷えた体をだんだんと暖かくしていく。

「あれ、な、なんだかちょっと熱くない?」

暖かさは適温を通り越してどんどん温度を上げていった。

「あっつう!何よ、これ!?」

もう体は火を吹きそうなほど熱く、いろんな場所で一度何かが壊れ、作られていくという作業が急ピッチで繰り返されているようだった。

「もしかして、あれじゃないかしら」

クリスタ改は手で顔を仰ぎながら気だるそうに言った。

「エリクシルの効能ってやつ」

「あー、そうね、もともとあれは不死の薬とか万能薬とか言われてたわね。でもあれは消えたんじゃなかった?」

「消えてなかったら?同化して血液の中にあったり、細胞になってたり?」

「ランゲンバッハの毒に対する抗体を凄い速さで作ってるってことかしら。熱さはその為かも」

二人は同時に思った。
いけるかもしれない!と。

「あー、飲んででよかったエリクシル!」

「ほんとねっ!」

少女達は同時に破顔した。

誰だか知らないけど、エリクシルを作ってくれたとても賢い人、感謝します!
とても賢い人……、とても賢い……

「ねぇ、まさか……」

「ええ、まさか……」

クリスタもクリスタ改も同じ考えながら、それを口には出来なかった。
可能性の一端にしかすぎない考えは、何の裏付けもなしには真実とは言えない。

そうしているうちに、熱かった体温は少し下がり、離宮の地震のような揺れも少しずつ収まっていく。

「そろそろ、またさよならね」

「ええ。次会うときは本当に死ぬ時ね」

「やめてよ!おばーちゃんになってからにしてね」

「あははっ、わかりました!」

あの離宮の時と同じように、クリスタ改は黄金の光になってふわりと消えた。

クリスタの軽かった体は、次第に重くなり泉に飲み込まれるように沈んでいく。
泉の底の方から誰かが呼んでいる。

待ってて、ごめんね、もうすぐ行くから。









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