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慢心と番狂わせ
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ジークフリードは思いの外上手くいっている自分の計画に大満足だった。
体調のすぐれない皇帝陛下に変わり、政務を執っていると、まるでこの国の全てが手に入ったような気さえしていた。
誰も彼も皇太子を誉め讃える。
優秀で美しく心優しい皇太子殿下と。
しかし、そうではないものが昔から一人いた。
讃えるどころか、皇太子だろうが容赦なくその言葉で叩き伏せた。
彼女は私より優秀でさらに美しく、まぁ多少性格に難はあったが、他より飛び抜けた才能の持ち主だった。
そう、クリスタ・ルイス、小さい頃から利発で美しい私の『はとこ』。
皇太子の私が手に入れられないものはあまりなかったが、クリスタはどうしても手に入らないものの1つだった。
彼女の誕生日パーティーで初めて会ってから、その姿を忘れられず、また会えるようにと陛下に願い出たりした。
いつか、彼女を私の妃にと、そう言えるように出来ることをやろうと思ってもいた。
だが問題があった。
その時既に、彼女には婚約者がいたのだ。
リューデルといったか、クリスタの従兄妹だったその男は、優秀な上に美男子で私が勝っていることと言えば、この皇太子という地位だけだった。
諦めなければならないか……そう思っていると、信じられないことが起きた。
リューデルが落馬してこの世を去ったのだ。
彼には申し訳ないが、これでクリスタを諦めなくて良いと思うと自然と胸が踊った。
私はそれから度々彼女に会いに行き、会えば口喧嘩になったが、それがとても楽しかったのを良く覚えている。
彼女もそうだといいが、どうだろうな。
クリスタに相応しい男にと、勉学に励み研鑽を積み漸く自分に自信が持てた頃、グリュッセル公に彼女を私の婚約者にと願い出た。
答えはノーだった。
理由は彼女の意思を尊重し、医術士として働かせてやりたいからであった。
ならばもう少し待とう、いやいくら待ってもいい。
そう思っていたのに、突然クリスタは結婚した。
相手は信じられないことに良くない噂のある男だった。
陸軍のローラント・ハインミュラー、軍部嫌いのグリュッセル公が陸軍の男に娘を嫁がせることがまず考えられない。
情報局の連中が最近おかしな動きをしているのと何か関係があるのではないか、そう思って調べていくと、何やら焦臭いことになっているようだった。
ミカエル・ローゼンハイム、あの犯罪者絡みの。
確実にクリスタの結婚にミカエルが関係している、そう思った。
詳しい状況がはっきりしないまま、クリスタ達は首都に帰ってきて、また何か怪しい動きをし始めた。
まさか、それがミカエルを討ち取る計画であったなどとは思いもよらなかったが……。
結果的にハインミュラー卿は功績を挙げたことになるが、あの男を昇進させるのは出来るだけ避けたい、一時でもクリスタを妻にしていた男にやる勲章などない。
その後、放っていた密偵からどうも二人がケンカ別れをしたらしい、という報告を受けそれに便乗して離縁したという噂を流した。
クリスタは離縁どころか、結婚もしていないと言っていたし、形だけの夫婦だったのかもな。
いずれにしろ、もう彼女を手に入れた。
絶対手に入らないと思っていたものを。
あとは、ファルタリアのクレセントナイトの利権を手に入れ、この大陸における鉱石の市場を独占する。
私の代でこのザナリアを経済大国にする、そう、類いまれな頭脳をもつ皇后と共にな。
「殿下、大変でございます!!」
「どうした?何事か?」
侍従の慌てた声に、ジークフリードはいきなり現実に引き戻された。
「ファルタリア自治区で反乱です!!」
「は?」
ファルタリア自治区……、そこの住民が反乱だと……!?
そんな気力も財力もないはずだ。
ファルタリアの民には、そういった気が起こらないように最低限のものしか与えていない。
生かさず殺さず……人道的にはどうかと思うが、これも帝国のため。
そう思い帝国民とファルタリアの民との間に圧倒的な格差を設けたのだ。
「………首謀者は誰だ?」
「これを……声明文です」
侍従が筒状になった声明文をジークフリードに手渡した。
「ファルタリア鉱石組合と、ファルタリア自治区と…………ファルタリア女王……え……女王!?」
女王とは………なんだ!
誰のことだ!
どこかの女を担ぎ出したのか?
しかし、何の関係もない女の筈はないだろう……。
ジークフリードは考えたが、その考えはまとまらなかった。
とにかく、反乱をどうにかしないと、暴動に発展すれば大変なことになる。
「クレセントナイトの所有権と、ファルタリアの独立か、どちらもきけぬ願いだな。………おい!軍の元帥を呼べ、あー、今は誰だったか…」
「あの、実は軍部の人員が激しく入れ代わりまして、新しい元帥が承認されました」
「元帥が変わった?評議会でそんな議題があったか?」
どう考えても私がいた時、そんな議題は上がらなかった。
待てよ、私がいなくなったあとは……?
「その軍部の議題はなんだ?!」
「ローラント・ハインミュラー卿の元帥推挙の件です」
「な、んだと………」
元帥は承認された。
今の元帥はローラント・ハインミュラー卿。
寄りによってあの男か!
何か、おかしい……………。
そう感じ始めたジークフリードは侍従に荒々しく声を上げた。
「ハインミュラー卿を王城へ」
体調のすぐれない皇帝陛下に変わり、政務を執っていると、まるでこの国の全てが手に入ったような気さえしていた。
誰も彼も皇太子を誉め讃える。
優秀で美しく心優しい皇太子殿下と。
しかし、そうではないものが昔から一人いた。
讃えるどころか、皇太子だろうが容赦なくその言葉で叩き伏せた。
彼女は私より優秀でさらに美しく、まぁ多少性格に難はあったが、他より飛び抜けた才能の持ち主だった。
そう、クリスタ・ルイス、小さい頃から利発で美しい私の『はとこ』。
皇太子の私が手に入れられないものはあまりなかったが、クリスタはどうしても手に入らないものの1つだった。
彼女の誕生日パーティーで初めて会ってから、その姿を忘れられず、また会えるようにと陛下に願い出たりした。
いつか、彼女を私の妃にと、そう言えるように出来ることをやろうと思ってもいた。
だが問題があった。
その時既に、彼女には婚約者がいたのだ。
リューデルといったか、クリスタの従兄妹だったその男は、優秀な上に美男子で私が勝っていることと言えば、この皇太子という地位だけだった。
諦めなければならないか……そう思っていると、信じられないことが起きた。
リューデルが落馬してこの世を去ったのだ。
彼には申し訳ないが、これでクリスタを諦めなくて良いと思うと自然と胸が踊った。
私はそれから度々彼女に会いに行き、会えば口喧嘩になったが、それがとても楽しかったのを良く覚えている。
彼女もそうだといいが、どうだろうな。
クリスタに相応しい男にと、勉学に励み研鑽を積み漸く自分に自信が持てた頃、グリュッセル公に彼女を私の婚約者にと願い出た。
答えはノーだった。
理由は彼女の意思を尊重し、医術士として働かせてやりたいからであった。
ならばもう少し待とう、いやいくら待ってもいい。
そう思っていたのに、突然クリスタは結婚した。
相手は信じられないことに良くない噂のある男だった。
陸軍のローラント・ハインミュラー、軍部嫌いのグリュッセル公が陸軍の男に娘を嫁がせることがまず考えられない。
情報局の連中が最近おかしな動きをしているのと何か関係があるのではないか、そう思って調べていくと、何やら焦臭いことになっているようだった。
ミカエル・ローゼンハイム、あの犯罪者絡みの。
確実にクリスタの結婚にミカエルが関係している、そう思った。
詳しい状況がはっきりしないまま、クリスタ達は首都に帰ってきて、また何か怪しい動きをし始めた。
まさか、それがミカエルを討ち取る計画であったなどとは思いもよらなかったが……。
結果的にハインミュラー卿は功績を挙げたことになるが、あの男を昇進させるのは出来るだけ避けたい、一時でもクリスタを妻にしていた男にやる勲章などない。
その後、放っていた密偵からどうも二人がケンカ別れをしたらしい、という報告を受けそれに便乗して離縁したという噂を流した。
クリスタは離縁どころか、結婚もしていないと言っていたし、形だけの夫婦だったのかもな。
いずれにしろ、もう彼女を手に入れた。
絶対手に入らないと思っていたものを。
あとは、ファルタリアのクレセントナイトの利権を手に入れ、この大陸における鉱石の市場を独占する。
私の代でこのザナリアを経済大国にする、そう、類いまれな頭脳をもつ皇后と共にな。
「殿下、大変でございます!!」
「どうした?何事か?」
侍従の慌てた声に、ジークフリードはいきなり現実に引き戻された。
「ファルタリア自治区で反乱です!!」
「は?」
ファルタリア自治区……、そこの住民が反乱だと……!?
そんな気力も財力もないはずだ。
ファルタリアの民には、そういった気が起こらないように最低限のものしか与えていない。
生かさず殺さず……人道的にはどうかと思うが、これも帝国のため。
そう思い帝国民とファルタリアの民との間に圧倒的な格差を設けたのだ。
「………首謀者は誰だ?」
「これを……声明文です」
侍従が筒状になった声明文をジークフリードに手渡した。
「ファルタリア鉱石組合と、ファルタリア自治区と…………ファルタリア女王……え……女王!?」
女王とは………なんだ!
誰のことだ!
どこかの女を担ぎ出したのか?
しかし、何の関係もない女の筈はないだろう……。
ジークフリードは考えたが、その考えはまとまらなかった。
とにかく、反乱をどうにかしないと、暴動に発展すれば大変なことになる。
「クレセントナイトの所有権と、ファルタリアの独立か、どちらもきけぬ願いだな。………おい!軍の元帥を呼べ、あー、今は誰だったか…」
「あの、実は軍部の人員が激しく入れ代わりまして、新しい元帥が承認されました」
「元帥が変わった?評議会でそんな議題があったか?」
どう考えても私がいた時、そんな議題は上がらなかった。
待てよ、私がいなくなったあとは……?
「その軍部の議題はなんだ?!」
「ローラント・ハインミュラー卿の元帥推挙の件です」
「な、んだと………」
元帥は承認された。
今の元帥はローラント・ハインミュラー卿。
寄りによってあの男か!
何か、おかしい……………。
そう感じ始めたジークフリードは侍従に荒々しく声を上げた。
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