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オズワルド少佐は納得する

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両サイドに欅が植えられた石畳の道を抜けると、美しい白亜の建物が見えてきた。

「うっわ!すごいですねーすっごいですー」

あまりに感動し過ぎて、本音の感想しか出てこない。
私の語彙力、酷い………。

すると後部座席から低い声が静かにかけられた。

「オズワルド少佐、ここは敵地だぞ。気を抜くな」

あんたには敵地だろうな!
私はハンドルを握りながらため息をついた。

「ですが、どうすればいいか解りません。男性を誘惑したことありませんし」

「とりあえず、クリスタが見てる前でローラントに撓垂れかかっておけ」

撓垂れ、かかる………
そんな高等技術使えるかなぁ………
私が遠い目をしてる間に車は屋敷のロータリーを抜け玄関に着いた。


************

「これは、ヴィクトール様!はて、お越しになるとは伺っておりませんでしたが……」

玄関で迎えに出た執事さんは少し不審そうに呟いた。

「ああ、いや、ちょっとね。ローラントの指示で銃器を持ってきたんだけどアイツに伝えてくれる?」

「はい、では居間にご案内します。そちらで暫くお待ち下さいませ」

執事さんの後ろから付いて行くと、途中でなんだかとてもいい匂いがしてくる。
実は昨日から何も食べていない。
仕事の引き継ぎと銃器運搬の手続きとその他諸々で忙しかったのだ。
私は吸い寄せられるように匂いのする方へ向かった。
ここは?キッチンルームかな?
ひょいと覗くとメイドが3人、あと、装いの違う少女が1人忙しいそうに働いていた。

「あら?お客様?」

少女が私に気付いて言った。
ベージュのエプロンに白いブラウス、カーキ色のスカート。
足元はワインレッドの編上げのブーツだ。
至って普通の装いなのだが、普通でないのはその容姿だ。
重厚で気品のある黄金の髪、輝く深い蒼い瞳。
その肌は雪のように白い。
そう、とても美しい。


「あ、すみません。とてもいい匂いがしたもので」

少女は私の格好をじっと見つめたあと、ああ!と頷いてその美しい顔を破顔させた。

「軍の方ね。他の皆さんは中庭にいるので、あなたもそちらへどうぞ。もうすぐ昼食が出来上がるので待っていて下さいね!」

少女はさっと踵を返し、メイドの1人に私の案内を頼んだ。

はぁー………何?可愛すぎるんですけど!!
妖精か?精霊か?天使か?いや、小悪魔か?
………はて、閣下には妹さんがいたかな?
雰囲気からして、それなりの身分の方に間違いはない。
うーん、と腕組みをしながら中庭に案内された私は花の咲き誇る庭園で2週間ぶりに閣下に会った。



閣下と3人の男性、あと年配の美しい婦人が庭園の中央、大きな木の下に作った白い東屋で談笑していた。
あれ?奥方様はどこだろう??

「ああ、オズワルド少佐、ご苦労だった」

閣下が私に気付き軽く手を挙げる。
カウチに座り、長い足を組んで座る閣下はとても格好いい。

「はっ!銃器、弾薬、滞りなく運搬致しました」

敬礼をし、簡単な報告を済ますと3人の男性の内の1人が私に話し掛けてきた。

「お堅いねぇーー疲れない?」

「あ、え?あの、任務ですので……」

「ふぅーん、ま、座りなよ」

と、自分の隣の空いてる椅子を進めてくれたが、任務中なのでここは閣下の顔色を伺ってみた。

閣下はにこやかに頷いた。
……………にこやかに!?だと?!
お仕えしてから3年、私は、私は、閣下の笑顔など見たことがない!

呆けた顔のまま惰性で椅子に腰かけると、さっきの執事さんがやって来て、なにやら閣下に耳打ちしたのが目に入った。
途端に彼の顔が困惑する。


それと同時に中庭出入り口からさっきの妖精さんと、准将が談笑しながら出てきた。
妖精さんは大きな銀のトレイを持ち、多分准将はそのトレイを持ってあげようとしてるように見えた。
どうやら、二人は顔見知りらしい。

そう思った瞬間、恐ろしい顔で閣下がカウチから立ち上がり二人の方に歩き始めた。

「あーー、殺られるかね?」

さっき私に話しかけた男が言う。

「どうだろうな、賭けるか?」

斜め前のやたら体格のよい男がそれに乗る。

「ふははっ!賭けになるかよ、そんなもん」

真正面の細身の色男がワインを手酌しながら笑う。

「いやぁね、男の嫉妬って」

恐らく母上様だろう、扇をパタパタと振りながら呆れ顔で言った。

ん、ちょっと待って………
嫉妬??閣下が??

私が頭を整理している間に、向こうから何か揉めている声が聞こえる。

「これは軽いから大丈夫よ、ヴィクトール」

「ダメだよ、オレが運ぶ」

「そうだな、お前が運べ」

妖精さんを挟んでデカい男二人が火花を散らしている。

「ヴィクトール、お前は呼んでないと思ったのだがオレの気のせいか?」

「気のせいだろ?だってオレも第三部隊だぜ」

「それこそ気のせいじゃないか?お前、うちの部隊にいたか?」


酷い、これは子供のケンカだ。
一体何なんだ。
何が原因で揉めて………。

暫く言い合いを見ていた妖精さんは、何事もなかったようにくるりと方向を変え、トレイを持ったままこちらへ歩いてきた。
それと一緒に、未だ子供のような罵り合いを続けながら二人の男もやってくる。

「ごめんなさいね。お待たせしました。前菜です。後からどんどん持って来ますからね」

妖精さんは、艶やかな黄金の髪を風に靡かせながら、せっせと取り分けていく。

「ほら、あなたもさっさと座って。ヴィクトールも」

妖精さんの言葉で一時休戦したのか、とりあえずはケンカをやめたようだ。

「君ももう仕事は終わりだ。ほら、おいで」

カウチに腰を掛けた閣下は、妖精さんの腰をぐいっと抱え込むとその長い足の間に座らせた。

ひぃーーーえーー!!??
きっと私の顔は今賑かなことになっているんだろう。
そして、面白い顔になっている人がもう1人。
准将の美しいお顔も結構大変なことになっています。
他の皆様は………全然動じておりません。
普通に食事してます。
え………この状況、通常なんですか?

「ローラント、これじゃあ私食べられないわ」

ほぼ後ろから羽交い締め状態の妖精さんが非難の声をあげる。

「いいんだ。オレが食べさせるから」

うぉーーーーーーーー!!
なんじゃあこりゃあー
妖精さんと、閣下って……

「あのぅ、失礼ですが閣下の奥方様って………」

何故か全員の目がこちらに集まり、それから一斉に妖精さんを見た。

「ご挨拶が遅れました。クリスタ・ルイス・ハインミュラーです」

閣下の腕の中でキラキラと輝く妖精さ、いや奥方様は私を真っ直ぐ見据えて言った。
ですよね!薄々勘づいてはいましたけど。

「アンナ・オズワルド少佐であります!」

立ち上がり頭を下げる。

「オズワルド少佐、お腹空いてたんでしょう??何かお取りしましょうか?」

後から後からと出てくる御馳走の数々に、正直もうお腹の虫が鳴りっぱなしだ。
さっきまでそれどころじゃなかったからなぁ。
奥方様は首を少し傾げて、トングとお皿を持ってじっと私を見つめてくる。
可愛いぞ、なんだこの可愛い生物は。
閣下でなくとも懐に入れたくなるなぁ。
お言葉に甘えて、お願いしようとした時、前方から執拗に突き刺さる視線に気がついた。

閣下が睨んでおられる………
なんだ?私、何かしたのか?
一向に気付かない私に閣下が口を開いた。

「少佐、自分で好きなものを取れ」

「はっ、はい!それでは……」

奥方様から皿を受け取り、席を立つ。
そこで、ふと気づいた。
閣下は奥方様に席を立たせたくなかったのでは?と。
つまり、ずっと懐に入れておきたいということですね!
くっ、羨ましい。
もう、めちゃくちゃ愛しちゃってるじゃないですかー!
基地を発った頃の閣下とは別人のようですよ。
是非、どういった経緯でこうなったのか教えて頂きたい!
きっと奥方様がいるところでなら饒舌になってくれますよね?

私は俄然やる気になり、さっきからとても気になっていたローストビーフをガッツリと皿に盛った。









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