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あなたは誰?
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意識が闇の中からゆっくりと浮上していく。
随分長い夢を見ていた。
懐かしく悲しいあの日の記憶。
闇はやがて白い靄になって、クリスタにまとわりついた。
靄は暖かくて、包まれているとずっとこのままでいいような気持ちになってくる。
「……きて、…………タ……」
誰か、何か、言った?
「起きて……クリスタ……」
誰?あなたは………?
私を呼んでるの?そんな悲しそうな声で。
声に導かれ靄から抜け出ると、さっきまで軽かった体がいきなり重くなった。
腕も体も動かない……。
何か重いものがのし掛かっているみたいに。
辛うじて瞼は動かすことが出来るようで、恐々と目を開ける。
「クリスタ!!」
そう大きな声で名前を呼んだのは、ダークブラウンの瞳の美しい男。
男は2、3日寝てないんじゃないかというくらい顔色が悪く、クリスタが目を覚ました途端美しい顔をクシャクシャにして、涙を浮かべすがり付いている。
彼はメルダースにとても良く似ていた。
まだ夢の中かと思ったほどに。
引っ付きそうなほど体を寄せ、私の腕を押さえつけている。
………なるほど、重い筈だわ。
その男の後ろには、ノイラートお父様、クライン、クリム、ラングにマリアにアーベル?かしら………あとは知らない人が何人か……
クリスタは冷静に状況を整理し始めた。
最後の記憶は確か………マリアを助けるためにミカエルに会って、記憶を取り戻す為に何か薬を飲んだ。
そうして、意識がなくなり………。
「私、どのくらい寝てたの?」
クリスタが起きようとするのを男が支えてくれた。
そして、そのまま後ろに回り込むとクリスタの背中とベッドの間に大きな体を滑り込ませる。
周りの誰も顔色一つ変えなかった。
どうやら、おや?と思ったのはクリスタだけのようだ。
「2日だ。卒業セレモニーから2日経っている」
ノイラートは難しい顔をして言った。
「ミカエルに会ったか?」
「ええ、ミカエルは……リルケだったわ……ああ、知ってたのよね?気付かないなんてどうかしてた。先入観って怖いわね」
「言えなくて悪かった……だが、お前、リルケになついてたろ?それで………」
クリスタはクラインの言葉を遮って言った。
「気を使ってくれてありがとう。でも、大丈夫よ。いいの、ほんとに……大丈夫……」
大丈夫、それは自分に言い聞かせているようにも思えた。
「……そうか、それで……何をされた?」
ノイラートの言葉に全員が息を飲んだ。
ダークブラウンの瞳の男も心配そうに後ろから覗き込んできた。
「ええと、思い出して欲しい記憶があって、それを引き出すための薬を飲まされたわ」
マリアが顔を押さえて泣き出してしまった。
「マリア、泣くほどのことではないわ。ちゃんと生きてるし。あなたが無事で良かったわ」
そう言うと、マリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「泣くほどのことよ!そんな得体のしれない薬、何かあったらどうするの!?私のせいで……私のせいで………」
ラングはマリアの背中を擦り、落ち着かせようとしてくれている。
クリスタは何も言えず、マリアを見つめた。
確かに自分がマリアと同じ立場でもそう言うだろう。
だけど、やはり無事で良かったと思う。
自分のしたことに後悔はしていない。
「それで、思い出したのか?」
ノイラートは話を元に戻した。
「ええ、ミカエルが言う記憶はきっと離宮でのことよ。あんな大事なことを忘れていたのね。お母様が亡くなったときのことなのに……」
「しょうがないさ……私達も無理にお前に思い出させようとはしなかったしな。出来れば、忘れた方がいいんだ……」
「忘れさせられていたなんて思わなかった。お母様のこと、良く思い出せなかったのはそのせいね。ミカエルはなぜ………あ、いいえ……」
突然口ごもるクリスタにノイラートが、ゆっくり近づき尋ねた。
「それで……離宮でルイーシャを殺したのはミカエルか!?」
当時母は病死だと診断された。
自然死に近い状態だったからだ。
だが、その診断を父は信じていなかった。
母の死自体信じることが出来なかったのだろう。
「直接手は下していないわ。ただ、毒を渡してお母様はそれを飲んだ……。でも……殺したことになるんでしょうね……」
クラインがノイラートに歩み寄り、肩を抱いて近くの椅子に座らせる。
顔色をあまり変えなかったノイラートの指先が、少し震えていたのを家族だけが気付いていた。
「……ミカエルはお母様を姉だと言ってたわ………」
クリスタは記憶で見た内容を出来る限り話した。
ただ、白い本と鍵のことについては喋らなかった。
それは、母との最後の約束。
自分を信頼して託してくれた母に報いる為に、自身がやらなければならないことだ。
それとは別にクリスタには知りたいことがあった。
叔父にあたるのだろう、ミカエルのこと。
彼に何があったのか知りたい。
ファルタリアで何が起こり、何故母は彼を逃がさなくてはならなかったのか。
「私、ファルタリアで当時何があったのか知りたい。ミカエルに何があったのか……」
「当時を知るものは殆ど死んでいるよ……」
ノイラートがポツリと呟いた。
「そうだったわね……」
もう知ることは出来ないのだろうか……そう思うと、途端に体から力が抜ける。
「……ごめんなさい…少し疲れたわ。ちょっと休みたい」
「悪いがもう少し……」
クリムがそういいかけたところで、ダークブラウンの瞳の男が冷たい声で遮った。
「疲れてると言ってるだろう」
地の底から響くような声に一同が固まる。
だが、不思議とクリスタはこの声が心地よいと感じていた。
彼はとても好ましい体格(骨)をしているし、顔(骨)も好みだわ。
彼はそっとクリスタの額に触れ、溢れるような笑顔を向けた。
それは愛するものに向けるような顔。
「何か欲しいものはあるか?」
低い声が優しく心に染み渡る。
「ありがとう、今は要らないわ………ところで」
「ん?」
「あなたは誰なのかしら?」
随分長い夢を見ていた。
懐かしく悲しいあの日の記憶。
闇はやがて白い靄になって、クリスタにまとわりついた。
靄は暖かくて、包まれているとずっとこのままでいいような気持ちになってくる。
「……きて、…………タ……」
誰か、何か、言った?
「起きて……クリスタ……」
誰?あなたは………?
私を呼んでるの?そんな悲しそうな声で。
声に導かれ靄から抜け出ると、さっきまで軽かった体がいきなり重くなった。
腕も体も動かない……。
何か重いものがのし掛かっているみたいに。
辛うじて瞼は動かすことが出来るようで、恐々と目を開ける。
「クリスタ!!」
そう大きな声で名前を呼んだのは、ダークブラウンの瞳の美しい男。
男は2、3日寝てないんじゃないかというくらい顔色が悪く、クリスタが目を覚ました途端美しい顔をクシャクシャにして、涙を浮かべすがり付いている。
彼はメルダースにとても良く似ていた。
まだ夢の中かと思ったほどに。
引っ付きそうなほど体を寄せ、私の腕を押さえつけている。
………なるほど、重い筈だわ。
その男の後ろには、ノイラートお父様、クライン、クリム、ラングにマリアにアーベル?かしら………あとは知らない人が何人か……
クリスタは冷静に状況を整理し始めた。
最後の記憶は確か………マリアを助けるためにミカエルに会って、記憶を取り戻す為に何か薬を飲んだ。
そうして、意識がなくなり………。
「私、どのくらい寝てたの?」
クリスタが起きようとするのを男が支えてくれた。
そして、そのまま後ろに回り込むとクリスタの背中とベッドの間に大きな体を滑り込ませる。
周りの誰も顔色一つ変えなかった。
どうやら、おや?と思ったのはクリスタだけのようだ。
「2日だ。卒業セレモニーから2日経っている」
ノイラートは難しい顔をして言った。
「ミカエルに会ったか?」
「ええ、ミカエルは……リルケだったわ……ああ、知ってたのよね?気付かないなんてどうかしてた。先入観って怖いわね」
「言えなくて悪かった……だが、お前、リルケになついてたろ?それで………」
クリスタはクラインの言葉を遮って言った。
「気を使ってくれてありがとう。でも、大丈夫よ。いいの、ほんとに……大丈夫……」
大丈夫、それは自分に言い聞かせているようにも思えた。
「……そうか、それで……何をされた?」
ノイラートの言葉に全員が息を飲んだ。
ダークブラウンの瞳の男も心配そうに後ろから覗き込んできた。
「ええと、思い出して欲しい記憶があって、それを引き出すための薬を飲まされたわ」
マリアが顔を押さえて泣き出してしまった。
「マリア、泣くほどのことではないわ。ちゃんと生きてるし。あなたが無事で良かったわ」
そう言うと、マリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「泣くほどのことよ!そんな得体のしれない薬、何かあったらどうするの!?私のせいで……私のせいで………」
ラングはマリアの背中を擦り、落ち着かせようとしてくれている。
クリスタは何も言えず、マリアを見つめた。
確かに自分がマリアと同じ立場でもそう言うだろう。
だけど、やはり無事で良かったと思う。
自分のしたことに後悔はしていない。
「それで、思い出したのか?」
ノイラートは話を元に戻した。
「ええ、ミカエルが言う記憶はきっと離宮でのことよ。あんな大事なことを忘れていたのね。お母様が亡くなったときのことなのに……」
「しょうがないさ……私達も無理にお前に思い出させようとはしなかったしな。出来れば、忘れた方がいいんだ……」
「忘れさせられていたなんて思わなかった。お母様のこと、良く思い出せなかったのはそのせいね。ミカエルはなぜ………あ、いいえ……」
突然口ごもるクリスタにノイラートが、ゆっくり近づき尋ねた。
「それで……離宮でルイーシャを殺したのはミカエルか!?」
当時母は病死だと診断された。
自然死に近い状態だったからだ。
だが、その診断を父は信じていなかった。
母の死自体信じることが出来なかったのだろう。
「直接手は下していないわ。ただ、毒を渡してお母様はそれを飲んだ……。でも……殺したことになるんでしょうね……」
クラインがノイラートに歩み寄り、肩を抱いて近くの椅子に座らせる。
顔色をあまり変えなかったノイラートの指先が、少し震えていたのを家族だけが気付いていた。
「……ミカエルはお母様を姉だと言ってたわ………」
クリスタは記憶で見た内容を出来る限り話した。
ただ、白い本と鍵のことについては喋らなかった。
それは、母との最後の約束。
自分を信頼して託してくれた母に報いる為に、自身がやらなければならないことだ。
それとは別にクリスタには知りたいことがあった。
叔父にあたるのだろう、ミカエルのこと。
彼に何があったのか知りたい。
ファルタリアで何が起こり、何故母は彼を逃がさなくてはならなかったのか。
「私、ファルタリアで当時何があったのか知りたい。ミカエルに何があったのか……」
「当時を知るものは殆ど死んでいるよ……」
ノイラートがポツリと呟いた。
「そうだったわね……」
もう知ることは出来ないのだろうか……そう思うと、途端に体から力が抜ける。
「……ごめんなさい…少し疲れたわ。ちょっと休みたい」
「悪いがもう少し……」
クリムがそういいかけたところで、ダークブラウンの瞳の男が冷たい声で遮った。
「疲れてると言ってるだろう」
地の底から響くような声に一同が固まる。
だが、不思議とクリスタはこの声が心地よいと感じていた。
彼はとても好ましい体格(骨)をしているし、顔(骨)も好みだわ。
彼はそっとクリスタの額に触れ、溢れるような笑顔を向けた。
それは愛するものに向けるような顔。
「何か欲しいものはあるか?」
低い声が優しく心に染み渡る。
「ありがとう、今は要らないわ………ところで」
「ん?」
「あなたは誰なのかしら?」
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◻︎◾︎◻︎◾︎◻︎
本編完結しました。
読んでくれる皆様のおかげで、ここまで続けられました。
ありがとうございました!
時々彼らを書きたくてうずうずするので、引き続きオマケやifを不定期で書いてます。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
書くかどうかは五分五分ですが、何か読んでみたいお題があれば感想欄にどうぞ。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
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