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スローライフに不穏な足音

嫁の話

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どっこいしょ と座った嫁。
さて、嫁の話を聞く場は整ったが、いつまで経ってもなかなか切り出さない嫁に焦れて声をかけることにした。

「私に話があるのよね?なにかな?」

「ええ、どこから話せばいいのか迷ってしまって」

「そう、順序立てて話してくれると助かるけど、時間もないしね。適当に話してくれても良いわよ?分からないことは質問するし」

「そう言ってもらえると助かります。私は縁あって亀聖獣様と出逢い、そしてジュナイル様のお許しをえて聖獣様の嫁になりました。
当然、心から祝福して下さる方ばかりではなく、精神的に追い詰められた時に旦那様は私を連れて領地を出てしまい 小さな洞窟に身を隠していました。

その間、祝福して下さらない方達は私が言葉巧み旦那様を追い出したと触れ周り・・・私が他の者に姿を見せた時には・・・更に酷い噂ばかりに。
姿を見せたくなくて、金魚の姿になり二度と人目に付く事はしないと・・・その間、旦那様は 私の素晴らしさを伝えて下さると約束を
・・・何度もやめて欲しいと頼んだのですが、旦那様の意思が堅く・・・」

まぁ~聞くまでもないよね。想像出来るもん。

「亀が、嫁の素晴らしさを話して歩いてると」

頬をピンクに染めてコクンと頷く嫁。
元々が カワイイ系の顔立ちなのだろう。ちょっとした仕草も可愛いのだ。
私が持ってない可愛らしさは素直に羨ましいわ。

「いいんじゃない?!愛情表現なんて人それぞれなんだから。ただ 亀の愛情表現は私からしたら迷惑よ!
ほかの者の話を聞かないのであれば貴方がしっかり注意しないとね、いつ終わるかもわからない話を聞かされる方はたまったもんじゃ無いよ」

「馬鹿夫婦だと言って下さった時、目が覚める思いでした」

感謝される言葉ではないのに、ちょっ、ちょっと泣かないでよ!?
目を潤ませる嫁に亀の騒ぐ姿が容易に想像出来るからうんざりする。

「感謝される事でもないから、それにね普通は言わないのよ?馬鹿夫婦なんて。
陰口でコソコソ言う言葉だから」

「それです!陰口で言うことはあっても、直接言って下さると方はいません」

胸の前で手を組見つめて来る姿はどことなく亀の姿に重なる。

「初めてあった人には絶対に言わないわね」

「ええ、ええ、その通りです。皆さん迷惑そうに 去っていく方ばかりでした」

へー、ヒラヒラと泳いでるだけでただ見てたんだ。
黙って去っていた方が気の毒だ。

「今日の私の服装、どのように見えます」

はぁー?話の脈絡が見えない。

「思った通りで言ってもいいの?」

「どうぞ」

では、遠慮なく。

「服には罪は無い。服は確かに可愛いわよ。
でもね、ふっくら体型に露出度が多い水着と見間違える服を身につけてる。勝手に見せたい派の人はいいが、わざわざ見せられてる方にはたまったもんじゃない。
正直 見たくも無いものをみせられてるこっちの立場もなって欲しいもね。
服の面積と肉の比率を考えたらそもそも、その服は選ばない。
それに、気がついてる?
貴方が座ってしまってミニパレオが下腹で綺麗に隠れてる。
それに、季節感がまる無視してるよね!
肌寒いこの季節にその格好は寒くないの?」

思った事を ハッキリと言ってやったら、嫁は目をキラキラさせて「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。

「はぁ~?」

気の抜けた声が出たのは仕方ない。
私が言った言葉は事実だとしても、内心で思っても決して声に出して言っていい事では無い。
なのに、目をキラキラさせてお礼を言ってきたのだ。
頭 大丈夫なのか?と本気で心配してしまう。

「私 凄く嬉しい」

「ねぇ 大丈夫?」

「ええ、大丈夫。私に本音で言ってくれる方が今まで居なかったの。ミホさんならきっと言ってくれると思ってたから」

いやいや、他人様がそう簡単に本音トークする人はいないだろ!
本音トークはまず、親兄妹が定番。
次に親友でしょ?
嫁は誰とも本音トークした事ないの?

「つかぬ事をお聞きしても?」

「なんでも!」

「友達って居るの?」

「聖獣様と結婚する前は 広く浅く 言葉を交わす方はおりました」

広く浅くって、それって友達って言わない。正確にはお知り合い程度だから。

「親兄妹は?」

「おりますが・・・数十年あっておりませんし、お家はお取り潰しになっておりますので今はどこで、どうしておられるか迄は」

お取り潰しって、いいとこ出のお嬢様なのね。

「連絡を取ろうとか思わないの?親兄妹は心配してるはずよ」

「いえ、それは・・・ないと思います。
母が死んで直ぐに父様が再婚しまして・・」

あ~、なんか暗~い過去が見える。

「再婚した義母と仲良く出来たの」

うわぁ~、どんよりしてしまったよ。
仲良く出来なかったのね、小説なら逆転シンデレラストーリーの話しね。
黙ってしまった嫁に悪いと思いながら更に質問をしてみる。

「義母に子供がいたとか?」

更に暗くなってしまった嫁。
当たりかぁ~。

「ええ、兄様と姉様が。再婚した時に、義母のお腹には既に妹がおりました」

げっ!まじかぁ~、最低な話だな。
にしても、かなり肩身の狭い思いをして暮らして来たのね。
ダメだ、私までも 暗くなってしまうよ。

「私が聖獣様と結婚した事を快く思ってなかった方は 自分に伴侶の座を譲れと、聖獣様の権力を御自分の力と勘違いをしてしまい、聖獣様が領地として統括していた地を出ていった後も私が追い出したと」

凄く言葉を隠してるけどさ、それって・・・親兄妹が?!ちょっと待った!!

「父親は?貴方の本当の父親よね?!」

「・・・父様と母様とは政略結婚で、父様は母様の御家の家督だけが目当てで母様と結婚を・・・。
お身体が弱かった母様は無理をして私を産んでくれましたが、無理がたたり・・・その間も父様は家には殆ど帰ってこなかった」

・・・・・聞くんじゃ無かった。
小説なら読み続けるだけで済む。でも、この嫁は辛い現実を生きてきたのだ。

「貴方のお母さんは身体は弱かったけど、心は強かったのね。素晴らしいお母さんじゃない」

沈んで項垂れてた嫁がガバッと上体を上げるから私は驚いて上体を後に反ってしまったが、見てしまった。
ポロポロと涙をこぼす嫁を見た亀が般若さながらに顔を変えて突進して来るのを。
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