魔王が識りたかったもの

香月 樹

文字の大きさ
上 下
22 / 25
第一章 旅立ち

#22 呪術師の娘6

しおりを挟む
そして私の旅が始まった。

新しい場所に行って暫く住み、
いつまでも年を取らない事を住民に怪しまれそうになったら、また新しい場所へ行く。

そうやってこの200年、小さな町や村を転々としてきた。

旅を始めてから数年経った頃、
私が幼い頃生贄として育てられたあの村が滅んだ事を、風の噂で聞いた。

少し複雑な気持ちにはなったが、不思議と涙は出なかった。

旅していく中で、優しく接してくれた住民、親しくなった住民も居たが、
みんな私を残して死んでいった。

親しくなった人達の死を幾度となく見送り、
その度に私の胸は、取り残された寂しさに苦しくなった。

これは呪いだ。

生贄としての責務を全う出来ず、あの村を見殺しにした私への罰だ。
いつまでも変わらないこの姿は私に一生付き纏い、見る度にそれを思い出させる。

私は段々と、出来るだけ小さな町や村の、出来るだけ中心部から離れた外れで、
出来るだけ人と関わらないようにひっそり暮らすようになった。

そんな時、もう一つの事実に気が付いた。

他の人が見えない物が見えるのだ。

ぼんやりとした黒い影のような物が見える。
それは魔族が残した魔力の残骸だという事を、何故か私は知っているのだ。

魔力が認識出来るようになったからか、
ある程度のものならば、この黒い影が払えるようになった。

そして魔力が見え始めた頃、私しか聴こえない声がする事に気付いた。
時期が同じ事を考えると、魔力が見えるようになった事と何か関係があるのだろう。

ただ、この声は、時折聞こえるだけで、
こちらの問い掛けに応えてはくれない一方通行のものだ。

だから、今のところ何の役にも立ってないし、特に邪魔にもなっていない。

そして、生きる術を知らなかった私は、
魔力が見えるようになったのを良い事に、呪術師になる事を決めた。

他に特別な才能も無いし、こんな私が少しでも人の役に立てるなら、
少しはあの村の供養になるのでは無いかと考えた。

行く先々では、他の呪術師に会う事も多く、
出会った先輩たちに呪術師について色々と教えて貰った。

私が見える黒い影は、やはり魔力の残骸である事や、
その呪いの主の魔力より強い魔力があれば、呪いを払える事など、
今後呪術師として生きていく事を決めた私にとって、とてもありがたい情報ばかりだった。

しかし、私にしか聞こえない声については、知っている呪術師は誰も居なかった。

今は特段困る事は無いしおいおい何かわかれば良いかな、と思ってはいるが、
声が聞こえ始めて既に150年近く経つが、未だに声の正体はわかっていない。

最近では、魔力を得るために必要なものでこういうものだ、と言い聞かせ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

謎のオプション「???」を取得したらレベルも魔法もスキルも消えました

gausu
ファンタジー
主人公天霧正人は限界を超えて輪廻転生したらしい 地球では転生できないようなので地球での転生回数をポイントに変換した。 ポイントで交換できるリストを見ていると選べるリストからはみ出た部分に{???}という規制を見つける。悩んでると、同時期に転生することになったライラという名の少女に強制的に取得させられた がステータスを確認しても取得した痕跡がなく神界で修行することにした カクヨム、小説家になろうでも投稿しています。なろうの方が投稿日が早いです。よろしくお願いします

転生したら、犬でした。

香月 樹
ファンタジー
僕は佐々木博。どこにでも居る平凡な社畜だ。 性格的には、人見知り、コミュ障、オタク。いわゆる陰キャというやつだ。 陽キャに憧れて田舎から都会に出て来たは良いけど、 会社の人間にとって、僕は空気のような存在だ。 時折、都合のいい時だけ僕は実在の人間になり、自分たちの仕事を押し付けてくる。 おかげで僕は毎日終電帰りだ。自由な時間なんて皆無と言って良い。 当然のように、相変わらず陽キャとは程遠い生活だ。 そんな僕がいつものように終電で寝落ちして、、、 目を開けたら、そこは異世界・・・ではなく檻の中でした。 平凡な僕の生活が、非凡な生活に一変した、そんな物語だ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

※異世界ロブスター※

Egimon
ファンタジー
 異世界に行きたい。ネット小説サイトに潜っている人間なら一度は願ったであろうその夢を、彼はバカ真面目に望んでいた。  生活環境に不満はなく、今の自分が嫌いでもない。しかし彼は、ここ日本でこのまま生きていくことに耐えられずにいた。  そんな折、ひょんなことから異世界に転生する権利を獲得する。様々な種族を選べる中、彼が選択したのは意外! ロブスターである。  異世界のロブスターは生命の領域を逸脱することなく、半永久的命という神にも等しい特殊な生態を持っていた。  そこに惹かれた青年は、知力と武力と生命力の限りを尽くして異世界を生き抜いていく。  往くぞ異世界ッ! 掛かってこい異世界ッ! 冒険の物語が今始まる――――!

処理中です...