魔王が識りたかったもの

香月 樹

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序章

#3 天界と魔界、天族と魔族

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天界や魔界は高次元の世界のため、人族が立ち入る事はできない。

天族がその神の御業として、時には御心を人々に知らしめるため、
または悪さをしようとした魔族が人界にやってくるため、
その時にできた次元の割れ目を、天界への入口、魔界への入り口と人族は呼んでいる。

その魔界への入り口に設けられた生贄の祭壇。
周りを岩々で囲まれた中、少し開けた場所に玉座がえられている。

少しでも恐怖を和らげようという意図だろうか、もしくは目が見えないのか、
今回新たに生贄として捧げられた若い娘は布で目隠しをされていた。
そして、その両手は後ろ手に縛られているようだった。

玉座に座ったまま、魔王は娘に問うた。

「娘よ、お前もまたその命を捧げるためここに来たのか。それはお前の意志なのか?」

「はい、私一人の命で人々が助かるのであれば、喜んでこの命を捧げましょう。
元より身寄りのない身、誰も悲しむ者などおりません。」

生贄の娘は淡々と落ち着いた声で答えた。
身なりこそ貧しいが、目隠しされていてもその美しさは見て取れた。

「そうか、その覚悟があるのであればお前を我が城まで連れ行こう。」

魔王はそう言うと玉座から立ち上がり、生贄の娘の手を引くために娘に近づいた。

その瞬間、岩陰から若い男が勢いよく飛び出して来た。
男は軽装の鎧を身に纏い、両手で剣をかかげ、玉座の魔王に切りかかった。

「彼女はお前には渡さん!例えこの命と引き換えにしても返して貰う!」

男はどうやら娘の恋人のようだった。

人族が勝手に生贄を捧げ、娘も自分の意志で生贄となるためにやってきた。
それなのにその恋人と思われる男には切りつけられ、魔王はいわれのない攻撃を受けたのだ。

(これしきの剣捌き、避けるのは簡単だ。
そのまま受けても人族の剣など魔族には当たらないが、どうしてくれようか。。。)

人界より高次元の天界や魔界に住む天族や魔族もまた、高次元の存在である。
霊的なもの、精神的なものと考えると判りやすいかもしれない。

そのため、人が手で触れる事はかなわず、人族の剣のような物理的なものは効かない。

魔族を殺すには同じ次元の武器である聖剣が、天族を殺すには魔剣が必要である。
聖剣は天族の持つ神力で作られた武器で、魔剣は魔族の持つ魔力で作られた武器だ。

同じ次元の武器ではあるが、力の根源が同じため魔剣で魔族は殺せない。
傷を付ける事はできても致命傷にならない。少し時間はかかるが、傷はいつか癒えるのだ。
同様に、聖剣では天族を傷つけられても、殺せない。

(ふむ、攻撃が効かないとわかれば諦めるかな。。。)

魔王は男の一太刀をその身に受ける事にした。
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