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#6 ペナルティ
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あの事故から一ヵ月が経った頃のとある病室。ここには篠山尊が入院していた。
死線を彷徨っていたが一命をとりとめ、数日前に意識を取り戻した。ただ、両手両足をギプスで覆われており、体が無意識に動かないよう器具で固定されていた。その固定具が漸く外されたのだ。両手両足を覆うギプスは相変わらずではあるが、それでもどうにか動かそうと思えば動ける状態になった。
「これでようやく体を動かせるな。」
ベッドの上に横たわりながら右手を持ち上げてみた。右手が持ち上がるのを確認し終えると、今度は左手を持ち上げてみた。肩回りは問題なさそうだ。
「うん、大丈夫そうだな。」
尊はそう言い、今度は両手の指を動かして閉じたり開いたりしてみた。しかしこれはなかなか思う様にいかない。ギプスをしている=完治していないからうまく動かせないだけだろうと思った。
「まぁ、ギプスが取れる頃には治ってるだろ。」
そう呟きながら今度は上体をベッドから起こそうとした。・・・が、激痛が走った。
「ゔ・・・」
尊は上体を起こすのを断念した。腰???の辺りだろうか?それとも足だろうか?場所は特定できなかったが激しい痛みを感じた。今上体を起こすのは無理そうだ。
「こ、これは回復に時間がかかりそうだな。そりゃそうだよな。死ぬところだったんだからな。」
そう言い聞かせ今度は右足の指を動かそうとしたが、よくわからない。左足の指も動かそうとしたが、これまたよくわからない。両足についても完全に回復していないためだろうと思った。
「ふぅ・・・」
尊は一仕事終えたかのように深く息を吐き、「これからリハビリが大変だな」と呟いた。
そこへ、年配の医者が様子を見に来た。医者はあらかた尊の状態を確認した後、「もう大丈夫そうですね。死んでもおかしくない状態からよくここまで回復しましたね。本当に奇跡ですよ。当分リハビリは必要ですが、この調子だと退院もすぐですね。」と言い、部屋を出ていった。
「奇跡・・・そうだろう。何せ死神と契約したんだからな。命が助かり、そして邪魔者も消せた。結果オーライだよな。」
尊は思わず笑いだした。数日前、クラブのチームメート数名が見舞いに来た時の事を思い出し、堪えきれず笑いが漏れたのだ。
「尊、なんか装置でガチガチに固められてるけど、お前、もう大丈夫なのか?死にそうだったって聞いたけど。」
「そうだぞ、だから車なんてやめておけって言ったのに。」
「でも死にそうだったとは思えないほど元気そうで何よりだな。」
チームメート達に言葉を掛けられ、「見ての通りすぐには動けないが、俺はいたって元気だ。心配かけたな。」と尊は返した。
「そういえば、お前はもう聞いたか?ちょうどお前が事故った頃にコーチが亡くなったよ。心不全だってさ。」
「死んだ人の事をあまり悪く言いたくはなかったけど、俺らとしては良かったよな。」
チームメート達の言葉に思わずにやけそうになったが、そこは必至に堪えた。
(そりゃそうだろう。俺の身代わりになってもらったんだからな。頂いた命はありがたく使わせて貰うぜ)
「そうなんだ?俺は事故って入院していたし、少し前に意識が戻ったばっかだから今初めて聞いたよ。なーに、今度は良い人がコーチにやってくるよ。俺が復帰するまでに新しいコーチと良い関係気付いておいてくれよ。。」
チームメート達に何食わぬ顔で相槌を返した。チームメート達は「わかったよ」と返事を返し、続けて「お、やべもうこんな時間だ。そろそろ帰るわ。長居したな。早く怪我治せよ!」と壁の時計を見て慌てて帰って行った。
それが数日前の出来事だ。
その事を思い出すと同時に、尊はふと事故の際、意識を無くす直前に死神が言った言葉を思い出した。
「そういえばペナルティがどうのと・・・財布に入れとくとか言ってたか?」
尊は、動かすと痛む体に耐え、上体を捻ってベッド脇のサイドテーブルにあった財布にどうにか手を伸ばした。財布を広げると、二つ折りにされた1枚の紙切れが落ちてきて布団の上にパサッと落ちた。その紙切れを拾い上げ、広げて中のメモに目をやった。
『あなたへのペナルティは「癒えない傷」です。肉が切れても、骨が砕けても、内臓が潰れても、決して死ぬことはありませんが、傷も病気も治りません。』
「「「!!!!!」」」
尊の手から力なく離れた紙切れは再び布団の上に落ち、落ちた途端に灰になって消えてなくなった。
尊は頭が真っ白になった。完全に思考が停止し小一時間息をするのも忘れたかのように動かなくなった。そして暫く後、止まっていた思考が少しずつ動き出すと、今度は色んな考えが滝のように溢れだした。
(どういう意味だ?生きてるけど怪我も病気も治らない???つまり・・・?この腕もこの足も動かせないままただ生きていくという意味なのか???え?俺の夢は?プロになって金を稼いで優雅に暮らして親父を見返してやるっていう俺の夢は???ただ、ベッドの上で生きているだけの人生を送るのか???)
その混雑した思考の渦に飲まれ、尊は再び小一時間動かなくなった。
(え?俺、どこで間違った?身代わりを立てなければ良かった?いや、それならあの時死んでいた。山田を選ばず、佐藤で止めておけば良かった?いや、それだと結局若くして死ぬ事になる。・・・じゃぁ、どうすれば良かったんだ???)
尊のこの葛藤がいつまで続くのか、気が狂うまでか、はたまた新しい寿命が尽きるまでか、ベッドの上から動けない現状から考えると、結果的に終わりのない自問自答をするのに十分な時間が与えられた訳だ。
それとも彼は、親から受けた仕打ちや自分を取り巻く環境を恨まず、折角与えられた才能を伸ばす事だけに集中できていればこんな事にはならなかったという考えを、長い葛藤の末に見つける事が出来るだろうか。
その結果は、何年後かの彼にしかわからない。
死線を彷徨っていたが一命をとりとめ、数日前に意識を取り戻した。ただ、両手両足をギプスで覆われており、体が無意識に動かないよう器具で固定されていた。その固定具が漸く外されたのだ。両手両足を覆うギプスは相変わらずではあるが、それでもどうにか動かそうと思えば動ける状態になった。
「これでようやく体を動かせるな。」
ベッドの上に横たわりながら右手を持ち上げてみた。右手が持ち上がるのを確認し終えると、今度は左手を持ち上げてみた。肩回りは問題なさそうだ。
「うん、大丈夫そうだな。」
尊はそう言い、今度は両手の指を動かして閉じたり開いたりしてみた。しかしこれはなかなか思う様にいかない。ギプスをしている=完治していないからうまく動かせないだけだろうと思った。
「まぁ、ギプスが取れる頃には治ってるだろ。」
そう呟きながら今度は上体をベッドから起こそうとした。・・・が、激痛が走った。
「ゔ・・・」
尊は上体を起こすのを断念した。腰???の辺りだろうか?それとも足だろうか?場所は特定できなかったが激しい痛みを感じた。今上体を起こすのは無理そうだ。
「こ、これは回復に時間がかかりそうだな。そりゃそうだよな。死ぬところだったんだからな。」
そう言い聞かせ今度は右足の指を動かそうとしたが、よくわからない。左足の指も動かそうとしたが、これまたよくわからない。両足についても完全に回復していないためだろうと思った。
「ふぅ・・・」
尊は一仕事終えたかのように深く息を吐き、「これからリハビリが大変だな」と呟いた。
そこへ、年配の医者が様子を見に来た。医者はあらかた尊の状態を確認した後、「もう大丈夫そうですね。死んでもおかしくない状態からよくここまで回復しましたね。本当に奇跡ですよ。当分リハビリは必要ですが、この調子だと退院もすぐですね。」と言い、部屋を出ていった。
「奇跡・・・そうだろう。何せ死神と契約したんだからな。命が助かり、そして邪魔者も消せた。結果オーライだよな。」
尊は思わず笑いだした。数日前、クラブのチームメート数名が見舞いに来た時の事を思い出し、堪えきれず笑いが漏れたのだ。
「尊、なんか装置でガチガチに固められてるけど、お前、もう大丈夫なのか?死にそうだったって聞いたけど。」
「そうだぞ、だから車なんてやめておけって言ったのに。」
「でも死にそうだったとは思えないほど元気そうで何よりだな。」
チームメート達に言葉を掛けられ、「見ての通りすぐには動けないが、俺はいたって元気だ。心配かけたな。」と尊は返した。
「そういえば、お前はもう聞いたか?ちょうどお前が事故った頃にコーチが亡くなったよ。心不全だってさ。」
「死んだ人の事をあまり悪く言いたくはなかったけど、俺らとしては良かったよな。」
チームメート達の言葉に思わずにやけそうになったが、そこは必至に堪えた。
(そりゃそうだろう。俺の身代わりになってもらったんだからな。頂いた命はありがたく使わせて貰うぜ)
「そうなんだ?俺は事故って入院していたし、少し前に意識が戻ったばっかだから今初めて聞いたよ。なーに、今度は良い人がコーチにやってくるよ。俺が復帰するまでに新しいコーチと良い関係気付いておいてくれよ。。」
チームメート達に何食わぬ顔で相槌を返した。チームメート達は「わかったよ」と返事を返し、続けて「お、やべもうこんな時間だ。そろそろ帰るわ。長居したな。早く怪我治せよ!」と壁の時計を見て慌てて帰って行った。
それが数日前の出来事だ。
その事を思い出すと同時に、尊はふと事故の際、意識を無くす直前に死神が言った言葉を思い出した。
「そういえばペナルティがどうのと・・・財布に入れとくとか言ってたか?」
尊は、動かすと痛む体に耐え、上体を捻ってベッド脇のサイドテーブルにあった財布にどうにか手を伸ばした。財布を広げると、二つ折りにされた1枚の紙切れが落ちてきて布団の上にパサッと落ちた。その紙切れを拾い上げ、広げて中のメモに目をやった。
『あなたへのペナルティは「癒えない傷」です。肉が切れても、骨が砕けても、内臓が潰れても、決して死ぬことはありませんが、傷も病気も治りません。』
「「「!!!!!」」」
尊の手から力なく離れた紙切れは再び布団の上に落ち、落ちた途端に灰になって消えてなくなった。
尊は頭が真っ白になった。完全に思考が停止し小一時間息をするのも忘れたかのように動かなくなった。そして暫く後、止まっていた思考が少しずつ動き出すと、今度は色んな考えが滝のように溢れだした。
(どういう意味だ?生きてるけど怪我も病気も治らない???つまり・・・?この腕もこの足も動かせないままただ生きていくという意味なのか???え?俺の夢は?プロになって金を稼いで優雅に暮らして親父を見返してやるっていう俺の夢は???ただ、ベッドの上で生きているだけの人生を送るのか???)
その混雑した思考の渦に飲まれ、尊は再び小一時間動かなくなった。
(え?俺、どこで間違った?身代わりを立てなければ良かった?いや、それならあの時死んでいた。山田を選ばず、佐藤で止めておけば良かった?いや、それだと結局若くして死ぬ事になる。・・・じゃぁ、どうすれば良かったんだ???)
尊のこの葛藤がいつまで続くのか、気が狂うまでか、はたまた新しい寿命が尽きるまでか、ベッドの上から動けない現状から考えると、結果的に終わりのない自問自答をするのに十分な時間が与えられた訳だ。
それとも彼は、親から受けた仕打ちや自分を取り巻く環境を恨まず、折角与えられた才能を伸ばす事だけに集中できていればこんな事にはならなかったという考えを、長い葛藤の末に見つける事が出来るだろうか。
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