25 / 25
事案1─学校の七不思議事件─
学校生活始めました -3-
しおりを挟む*
「たぶんその人物が、例のスケッチブックの男の子だと思うんです」
午後九時を回った校内は教師も生徒も既に下校していてシーンと静まり返っている。
「高山さんが志望校を変えるきっかけを作った人物、ですか……」
薮木は暗い廊下の先を懐中電灯で照らしながら進む。そうして端から二番目の教室の前で立ち止まり、廊下の上方を照らした。
『美術室』と書かれた教室札が浮かび上がる。
「──やはり何の気配もありませんね」
少しの間美術室の前に立ち尽くし、薮木はフルフルと首を横に振った。
「単なる噂話なんでしょうか?」
僕は薮木を見上げる。
もう何度か美術室の見回りを行ってはいるけれど、未だに高山さんの幽霊には出会えていない。
「どうでしょうね……」
薮木は首を捻った。
「中の確認もしてみましょうか」
そう言ってスーツのポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。懐中電灯で足元を照らしながら、教室の窓際まで進む。
その横手に、窓から差し込む明かりでぼんやりとドアが見えた。
例の絵が保管されている美術準備室のドアだ。
薮木は手にしていた鍵で解錠すると、美術準備室に入り、素早く窓のカーテンを閉めた。カーテンを閉めるのは外から中の様子が見えないようにするためだ。
「佑さん、照明をお願いします」と入り口横の僕へ指示を出す。
「あ、はい」
壁を指先で探る。すぐにスイッチが指に触れ、それを押し込む。途端、室内が急に明るくなり、暗闇に慣れた目が眩んで何度か瞬きを繰り返す。
その間に薮木は例の絵の傍らに歩み寄る。布で覆い隠されたその絵は、窓際とは反対の壁側に置かれてあった。薮木が布を外し、絵画をじっくりと観察する。
「何か変わったことありました?」
僕は薮木に近づき、尋ねた。僕の目には、なんの変化も感じられなかった。
「そうですね……」と薮木は顎を撫でる。
絵は清原の話どおり、赤色の絵の具でキャンパス全体が塗りつぶされている。そのため、元々何が描かれていたのか、判別することはできない。
噂では少女の霊の仕業になっていたが、本当にそうなのだろうか?
生前の高山さんが塗り潰した可能性も考えられなくはない。……まぁ、その理由はわからないけれど。
「特に変化は見受けられませんね」
僕が考えを巡らせている横で、薮木が言う。
「そうですよね……」
僕も薮木に同意した。
やっぱり幽霊の仕業だなんて噂話に過ぎないのだ。
きっと吹聴されているような怪談話は、元々のキャンバスの異質さとその持ち主が既に亡くなっていることを結びつけたことで出来上がったものなのだろう。
それでも薮木はすぐに結論を出さず、もう一週間も見回りを続けている。
「この後はどうするんですか?」
僕は投げやりに問うた。連日の見回りにいい加減うんざりしていた。高山さんの霊が本当にいるのなら何とかしてあげたいとは思うけれど。
「そうですね……」
薮木は軽く息を吐いた。
「この絵の内容が分かるのなら、そこからヒントも得られるでしょうが……残念ながらそれは無理そうです」
キャンパスから目を逸らし、
「スケッチブックを拝見できれば、糸口も掴めそうではありますが──」
チラリと僕を見る。
「しかし、私達特殊班は表立っては動けませんから。勝手に高山家にお邪魔してスケッチブックを盗み見るわけにも行きません」
何かを促すように思わせぶりな口調で言う。そういうところは只野に似ているな、と僕は渋面を作る。
「……つまり、僕にそのスケッチブックを確認して来いと」
「いえ、決してこれは命令ではありません。ただ、佑さんが少し飽きてしまわれているようなので、速やかに事態を変えられる方法を提案したまでです」
やっぱりその物言いは只野にすごく似ていて。腐っても彼は薮木の部下なのだ、と感心する。
「あくまでも提案です──どうでしょうか?」
薮木はいつもの無表情で言う。その仮面の下に、大人の強かさが垣間見えた。
そういう狡さが僕にはまだない。
つまりまだまだ子供だということを身に染みて感じる。それでも身体は今後変化はしなくても、精神的には色んな経験を通して大人になっていけるはずで。
──きっと。……たぶん。
それなら僕は自分に出来ることは全てやってみようと思う。自分の精神の成長のために。
「分かりました」
僕は素直に頷いた。
10
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる