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百合の葯
サプライズプレゼント -2-
しおりを挟む「このアレンジメントをゲストテーブルの中央に置いていってくれる?」
花音は台車に積んだフラワースタンドの一つから小さなバラの装飾が施されたシャーベットグラスのような花器を取り上げる。それには、少し燻んだホワイトカラーの紫陽花をベースに、色彩の抑えたピンクや紫、白のバラとトルコキキョウで丸い形を模ったアレンジメントが収まっていた。先ほど花音が教えてくれたラウンドブーケのような形だ。
ふんわりとした丸みと優しい色味が、文乃のイメージにピッタリだ。
咲は淡いベージュのテーブルクロスがかけられた円卓の中央へと慎重にそれを置いていく。そのあとを花音が花の状態を確かめながら、悪くなったものを取り除いたり、生け直したりする。
「ウェディングの装花は前日のうちにあらかじめ生けておくんだけどね。一晩経つと水揚げが悪かったりして、どうしても使えないお花が出てくるの。あと、運搬するときに形が崩れることもあるからね。状態のチェックは欠かせないんだ」
そう言って入念にお花の手入れをしていく花音さんはいつもどおり穏やかな笑顔で、ブライズルームでの出来事が嘘のようだ。
──それにしても、二階堂って……
先ほどは花音の雰囲気に萎縮してすっかり聞きそびれたが、咲にはその名前に心当たりがあった。
──二階堂悟。
それは咲が華村ビルに引越してくるきっかけとなった人物──父が政略結婚の相手として告げた男の名前だった。
たしか母親がわりと有名な政治家で、つい最近、国の重要ポストに就いた、とニュースで目にした。悟本人も代議士を目指して修行中の身であるらしい。
その人物と花音のいう『二階堂悟』が同一人物なのかは分からない。もし同一人物なら、世の中よっぽど狭いな、と思う。
あの日の父とのやりとりを思い出し、咲はやり場のない感情に顔を曇らせた。
「どうしたの、咲ちゃん?」
いつの間にか傍に来ていた花音が、怪訝そうに尋ねる。
「あ、いえ、なんでもありません」
花音に二階堂のことを尋ねてみるべきかとも思ったが、ブライズルームの彼を見るかぎり、あまり触れてはいけない話題に思えた。
「そう?」と花音が首を傾げる。
まだ何か言いたげな花音を「それより、そろそろ挙式の時間ですよ」と咲は急かした。
「あ、ほんとだ」
花音が時計を確認して頷く。
「じゃあ、咲ちゃんは、テーブルを一回りして後片付けをお願い」
そう言って花音は作業に戻った。
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