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保健医は黒の魔術師に嘘を吐く(ハンナside)
しおりを挟む「はぁ~~。」
魔術準備室を出て廊下を歩きながら、
ため息を吐く。
先程まで、エルンストさんと一緒に世間話をしていた。
王国魔術師団にいた頃は仕事の話しかしたことが無かったので、
こんな風に話をするのは初めてのことだった。
とてもドキドキしたけれど、
話をしたいと言えば、気さくに応じてくれたし、メロンパンまでくれる神対応振り。
その際、「好きなのか?」と聞かれて、
私の気持ちがバレたのかと思って慌てたが、
メロンパンのことだったようだ。
恥ずかしい、、。
彼とは昨日再会した。
私はあるキッカケで魔術師団を辞め、保健医としてこのシュトラーレン魔術学校に来た。
昨日も授業終わりに彼の姿を探していたが、
もう帰ってしまったのか見つからず、
なんとなくしょげたまま備品補充をしていたら、箱をひっくり返してしまった。
前任の保健医がズボラな人だったようで、
大きな箱に雑多に備品が詰め込まれており、
整理しなければいけないな、と思いながらも、なかなか手が着けられずにいたのだが、、
こんなことならもっと早くやっておけば良かった、と後悔していると、
突然、保健室の扉が開いた。
誰だろう、と振り返ると、
そこにいたのは、半年間会いたくて堪らなかった、アドルフ・エルンストその人だった。
向こうから現れたことに驚き、目を見開く。
半年の間に、以前よりも背が伸びて大人っぽくなったように感じる。
感慨深く見入っていると、エルンストさんは疲れたような顔で私を見やり、もう帰ると言い出した。
ーせっかく会えたのに、そんなの嫌だ!
気づけば私は必死に彼を引き止めていた。
片付けを手伝って欲しい、と頼めば、
一人でできるだろう、と言われ、言葉に詰まる。
そうだ、正直言ってこの位王国魔術師団にいた魔術師なら一瞬で片付けられる。
言葉に窮した私は、とっさに彼に嘘を吐いた。
"風の魔術の出力が安定しないので、魔法で片付けが出来ない"と。
元々生活魔術などの、出力を抑えてコントロールしなければならないものが苦手ではあったので、全くの嘘ではない。
が、これを片付けられないか、と聞かれればそんなことはない。
彼はそんな私の言葉を信じたようで、
風の魔術で、さっさと備品を片付け始める。
久しぶりに見る彼の魔術は、相変わらず正確で美しかった。
彼は備品を仕舞った箱を元あった場所まで運んでくれて、今後の改善策まで考えてくれた。
とても疲れているようなのに、優しい彼に、
嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが無い混ぜになる。
せめてもと、ヒーリングの魔術をかけてあげれば、疲れが取れたのかスッキリとした表情でお礼を言われた。
お礼を言うのはこちらの方なのに。
彼の立ち去る背中を見ながら、嘘を吐いたことへの罪悪感が迫り上がる。
でも、私は彼を救いたくて、この学校に来たのだ。
その為なら、どんなことだってする。
私は彼のそばに居続けるために、この嘘を吐き続けようと、そっと決意した。
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