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黒の魔術師は怒りを隠せない

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黄昏色に染まる廊下を、
アドルフ・エルンストは足早に歩いていた。

黒のローブを纏った長身が、
長い影を作りながら校舎を進む。

肩まで伸びたグレーがかった黒色の髪は
後ろで一つにまとめられ、
丸みのある額、通った鼻筋、
気の強そうに上向いた鼻先と、
涼しげな切れ長の瞳の端正な顔立ちが際立つ。

男性にしては肌も白く、髪や目、ローブとのコントラストが目を引きつける。

すれ違う人誰もが振り返るのではないか、
というほどの美男子ぶりだが、

その黒曜石のような瞳は、全てを射殺さんばかりに鋭さを放っていた。



「あのジジイ、ふざけるのも大概にしろよ。」



先程までの出来事を思い出し、
思わず悪態が口を吐く。





会話の相手は、
このシュトラーレン魔術学校の校長。

いつも穏やかな笑みを浮かべ、
教育熱心な人格者、と言われている人物である。

たしかに、彼は教育熱心なのであろう。

まず呼び出された理由が、
来週から実施される

『全校スマイル週間』

なる、施策の打ち合わせ。


先日の職員会議で可決されていたのは知っている。
だが、この手の施策は定期的に実施はされるが、
いつも表面上のことであるのが常。
あまり気にも留めていなかったのだが、、


何故か今回は、
国の機関からの要請があったとか何とかで、
実施前と実施後の、学内の変化を報告しなければならないらしい。


なんと煩わしい。


そして校長直々に、何故かこの俺に、
笑顔の指導が施されることとなった。

曰く、

「エルンスト君のような、若くて、見目もいい教師が率先して取り組んでくれれば、
きっといい結果が得られることだろう。」

と、

そして2時間みっちりと、
口角の上げ方に、目尻の下げ方、
表情筋の鍛え方など、
様々な特訓を受け、
やっと解放されたのが今しがた。

「クソ!誰がなんのためにこんなこと!」

怒りの感情を押さえることなど出来ず、
イラつく足取りで帰路を急いだ。
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