1 / 19
黒の魔術師は怒りを隠せない
しおりを挟む黄昏色に染まる廊下を、
アドルフ・エルンストは足早に歩いていた。
黒のローブを纏った長身が、
長い影を作りながら校舎を進む。
肩まで伸びたグレーがかった黒色の髪は
後ろで一つにまとめられ、
丸みのある額、通った鼻筋、
気の強そうに上向いた鼻先と、
涼しげな切れ長の瞳の端正な顔立ちが際立つ。
男性にしては肌も白く、髪や目、ローブとのコントラストが目を引きつける。
すれ違う人誰もが振り返るのではないか、
というほどの美男子ぶりだが、
その黒曜石のような瞳は、全てを射殺さんばかりに鋭さを放っていた。
「あのジジイ、ふざけるのも大概にしろよ。」
先程までの出来事を思い出し、
思わず悪態が口を吐く。
*
会話の相手は、
このシュトラーレン魔術学校の校長。
いつも穏やかな笑みを浮かべ、
教育熱心な人格者、と言われている人物である。
たしかに、彼は教育熱心なのであろう。
まず呼び出された理由が、
来週から実施される
『全校スマイル週間』
なる、施策の打ち合わせ。
先日の職員会議で可決されていたのは知っている。
だが、この手の施策は定期的に実施はされるが、
いつも表面上のことであるのが常。
あまり気にも留めていなかったのだが、、
何故か今回は、
国の機関からの要請があったとか何とかで、
実施前と実施後の、学内の変化を報告しなければならないらしい。
なんと煩わしい。
そして校長直々に、何故かこの俺に、
笑顔の指導が施されることとなった。
曰く、
「エルンスト君のような、若くて、見目もいい教師が率先して取り組んでくれれば、
きっといい結果が得られることだろう。」
と、
そして2時間みっちりと、
口角の上げ方に、目尻の下げ方、
表情筋の鍛え方など、
様々な特訓を受け、
やっと解放されたのが今しがた。
「クソ!誰がなんのためにこんなこと!」
怒りの感情を押さえることなど出来ず、
イラつく足取りで帰路を急いだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?
青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」
婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。
私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。
けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・
※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。
※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる