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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第22話 報告
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オーギュストは報告書を読み終えて、大きく息を吐き出した。部下たちは計画通りにフリルネロ公爵領で動き出したらしい。
「オーギュスト殿下、大丈夫ですか?」
ジョエルの声を聞いて、オーギュストは顔を上げる。高度な魔法を使っていたので、ジョエルが私室に入ってきたことにも気づいていなかった。
「問題ない。使役獣と視野を共有していただけだ。距離があるから思ったより魔力を消費するな」
使役獣とは魔導師が契約する動物などを指す。例えば、使役者の魔力で速度を上げて手紙を運ぶ伝書鳩もそれに該当する。
「もしかして、新しい使役獣ですか?」
「ああ。マリエルたちは一昨日の夜にミシュリーヌと接触したらしい。護衛は断られたが、追跡は黙認しているようだ」
オーギュストは新たに作って使役したぬいぐるみをマリエルに運ばせていた。こちらからの指示はあまりできないが、向こうからの報告は使役獣の視野を介してすぐに受け取ることができる。昨晩も使役獣の中に入ったが、さっきはマリエルから呼び出されたのだ。
毎朝同じ時間に使役獣をミシュリーヌから預かる約束をしたらしい。使役獣の魔力を補充するというのが大義名分だが、一番の目的はマリエルがミシュリーヌと交流する時間を確保するためだろう。何かあった時に、マリエルに相談してくれれば心配が減る。
「ひとまず、安心ですね」
「そうだな」
ミシュリーヌの護衛には、特に優秀で信頼できる者をつけている。よほどのことがない限り、ミシュリーヌが危険な目に合うことはない。
「水晶についてはどうですか?」
「やはり、濁っていたそうだ。ただ、神殿に何者かの魔法の気配を感じるらしくてな。水晶が魔素に侵された理由の捜査は、私が行くまで難しそうだな」
マリエルたちが公爵領内でミシュリーヌを探している間に、別の隊が第三都市にある神殿に侵入していた。当初は神殿内を隈なく調べる予定だったが、魔法の気配を感じて、素早く水晶の状態だけを確認するに留めたらしい。先発隊の中でも精鋭部隊と呼ばれる優秀な者が担当したが、魔法の種類や使用者が分からなかったようだ。
「精鋭部隊が受けた印象では、術者はその場にいなかったらしい」
精鋭部隊が侵入したことに気づいて発動させた魔法ではなく、王宮に設置された防護魔法のように、継続的に発動させている魔法ということだ。術者は定期的に魔力を補充する必要があるが、そのとき以外は現場にいる必要がない。
「何者でしょうか? 精鋭部隊でさえ危険を感じて詳しい解析を躊躇ったとなると……」
ジョエルは後半の言葉を濁らす。ジョエルは明言を避けたが精鋭部隊であっても力量差のある相手だったということだ。
そして、送り込んだ精鋭部隊の顔を思い浮かべれば、『力量差のある相手』というのは国内だと高位貴族の一部と王族に限定される。
魔導師団で大成する者には平民出身者も多くいるが、魔力量だけで言えば高位貴族には及ばない。直系の王族はさらに上を行く場合が多く、オーギュストは言うまでもないが、それより遥かに魔力の少ない他の三兄弟も貴族とは一線を画す魔力量を誇る。
ただし、精鋭部隊を欺くには、生まれ持った才能だけではなく、修行が必要だ。修行は魔導師団で行われるのが一般的である。団員以外で実力が公になっているのは、王太子のノルベルトくらいだ。
「秘密裏に修行を積んだ人間がいるのか、他国の人間か。魔導師団を引退した者の中にいるとは思いたくないな」
魔獣が増えていたことを考えれば、自領のために独学で修行を積んだ者がいてもおかしくない。犯人の候補である禁書を特別室で読んでいた人間なら、魔力量的にはほぼ全員が該当する。
「どちらにしろ、注意が必要ですね」
「とりあえず、深追いせずに安全な場所からの監視に留めるようにと指示を出した。だが、神殿にかけられた魔法の種類は気になるな。今のところ、私には検討もつかない」
神殿の魔法についてはオーギュストが向えば、すぐにでも解析できるだろう。しかし、今は王都を離れるわけにはいかない。ミシュリーヌは標的にされても聖女の力を手に入れるためだろうから丁重に扱われる。対して、王太子一家が標的にされた場合は恨みか王位を手にするためなので、その場で殺される可能性が高い。優先順位が高いのは王都にいる王太子一家だ。
我ながら、冷静でつまらない男だな。
ミシュリーヌを何よりも愛しているのに、どうしても国を優先してしまう。オーギュストはどうしようもない自分に落ち込みながら、関係部署に渡すための報告書をまとめた。
「オーギュスト殿下、大丈夫ですか?」
ジョエルの声を聞いて、オーギュストは顔を上げる。高度な魔法を使っていたので、ジョエルが私室に入ってきたことにも気づいていなかった。
「問題ない。使役獣と視野を共有していただけだ。距離があるから思ったより魔力を消費するな」
使役獣とは魔導師が契約する動物などを指す。例えば、使役者の魔力で速度を上げて手紙を運ぶ伝書鳩もそれに該当する。
「もしかして、新しい使役獣ですか?」
「ああ。マリエルたちは一昨日の夜にミシュリーヌと接触したらしい。護衛は断られたが、追跡は黙認しているようだ」
オーギュストは新たに作って使役したぬいぐるみをマリエルに運ばせていた。こちらからの指示はあまりできないが、向こうからの報告は使役獣の視野を介してすぐに受け取ることができる。昨晩も使役獣の中に入ったが、さっきはマリエルから呼び出されたのだ。
毎朝同じ時間に使役獣をミシュリーヌから預かる約束をしたらしい。使役獣の魔力を補充するというのが大義名分だが、一番の目的はマリエルがミシュリーヌと交流する時間を確保するためだろう。何かあった時に、マリエルに相談してくれれば心配が減る。
「ひとまず、安心ですね」
「そうだな」
ミシュリーヌの護衛には、特に優秀で信頼できる者をつけている。よほどのことがない限り、ミシュリーヌが危険な目に合うことはない。
「水晶についてはどうですか?」
「やはり、濁っていたそうだ。ただ、神殿に何者かの魔法の気配を感じるらしくてな。水晶が魔素に侵された理由の捜査は、私が行くまで難しそうだな」
マリエルたちが公爵領内でミシュリーヌを探している間に、別の隊が第三都市にある神殿に侵入していた。当初は神殿内を隈なく調べる予定だったが、魔法の気配を感じて、素早く水晶の状態だけを確認するに留めたらしい。先発隊の中でも精鋭部隊と呼ばれる優秀な者が担当したが、魔法の種類や使用者が分からなかったようだ。
「精鋭部隊が受けた印象では、術者はその場にいなかったらしい」
精鋭部隊が侵入したことに気づいて発動させた魔法ではなく、王宮に設置された防護魔法のように、継続的に発動させている魔法ということだ。術者は定期的に魔力を補充する必要があるが、そのとき以外は現場にいる必要がない。
「何者でしょうか? 精鋭部隊でさえ危険を感じて詳しい解析を躊躇ったとなると……」
ジョエルは後半の言葉を濁らす。ジョエルは明言を避けたが精鋭部隊であっても力量差のある相手だったということだ。
そして、送り込んだ精鋭部隊の顔を思い浮かべれば、『力量差のある相手』というのは国内だと高位貴族の一部と王族に限定される。
魔導師団で大成する者には平民出身者も多くいるが、魔力量だけで言えば高位貴族には及ばない。直系の王族はさらに上を行く場合が多く、オーギュストは言うまでもないが、それより遥かに魔力の少ない他の三兄弟も貴族とは一線を画す魔力量を誇る。
ただし、精鋭部隊を欺くには、生まれ持った才能だけではなく、修行が必要だ。修行は魔導師団で行われるのが一般的である。団員以外で実力が公になっているのは、王太子のノルベルトくらいだ。
「秘密裏に修行を積んだ人間がいるのか、他国の人間か。魔導師団を引退した者の中にいるとは思いたくないな」
魔獣が増えていたことを考えれば、自領のために独学で修行を積んだ者がいてもおかしくない。犯人の候補である禁書を特別室で読んでいた人間なら、魔力量的にはほぼ全員が該当する。
「どちらにしろ、注意が必要ですね」
「とりあえず、深追いせずに安全な場所からの監視に留めるようにと指示を出した。だが、神殿にかけられた魔法の種類は気になるな。今のところ、私には検討もつかない」
神殿の魔法についてはオーギュストが向えば、すぐにでも解析できるだろう。しかし、今は王都を離れるわけにはいかない。ミシュリーヌは標的にされても聖女の力を手に入れるためだろうから丁重に扱われる。対して、王太子一家が標的にされた場合は恨みか王位を手にするためなので、その場で殺される可能性が高い。優先順位が高いのは王都にいる王太子一家だ。
我ながら、冷静でつまらない男だな。
ミシュリーヌを何よりも愛しているのに、どうしても国を優先してしまう。オーギュストはどうしようもない自分に落ち込みながら、関係部署に渡すための報告書をまとめた。
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