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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第22話 決断
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浄化薬の値上げが発表されたのは一年前。冒険者たちは異議を唱えるため、署名を集めて領都にある神殿に向かったらしい。ヤニックもこの街の代表者の一人として参加していた。
「そこで対応した神官に言われたんだ。『オーギュスト殿下の采配だから、我々にはどうすることもできない』ってな」
「オーギュスト殿下はそんなことをする方ではありません!」
ミシュリーヌはつい声を荒げてしまう。未熟な自分のことなら仕方ないが、オーギュストを悪く言われるのは我慢できない。
「俺もオーギュスト殿下と会ったことがあるから、全てを信じているわけじゃない。殿下は、自ら前線に立って戦うような人だ。簡単に切り捨てるとは思えない」
ヤニックは魔導師団と共闘したことがあり、オーギュストとも二言三言会話を交わしたことがあるらしい。
「ただ、中央の権力争いなんて、俺らには分からない。そういうものだと言われたら否定も出来ないだろう?」
「権力争い?」
ミシュリーヌの疑問に、ヤニックが小さく頷く。
「この領地はガエル殿下が継ぐことに決まっている。浄化薬の値上げは、ガエル殿下とオーギュスト殿下の対立が原因だと推測されている」
兄弟間の政治的な駆け引き。S級冒険者のヤニックをはじめ、フリルネロ公爵領の行く末を憂う者は、それが本当の原因だと判断しているようだ。
「ガエル殿下って誰だ?」
「国王陛下には、四人の王子がいる。その中の……――」
ニコラの質問を受けて、ヤニックが丁寧に説明をはじめる。どうやら、それなりの立場にいる者以外は、ガエルの存在すら知らないらしい。きっと、『聖女のわがまま』というのが市井の噂の主流になっている原因だろう。
オーギュストの名誉のためにはどちらが良いのだろう。ミシュリーヌには分からない。ミシュリーヌが冷静に考えて分かったのは、どちらも真実ではなさそうだということだ。そもそも、オーギュストはお金を有り余るほど持っている。魔導師団長の報酬もあるだろうし、魔導師団の仕事以外でも善意で魔獣を狩り続けているからだ。
『権力争い』
こちらも、オーギュストとは結びつかない言葉だ。
オーギュストは魔導師団長という立場もあまり喜んでいないようだった。何か辞められない理由があるようで、渋々、その地位にいるというのがミシュリーヌにも伝わってきていたのだ。
ただ、それもオーギュストの恋人の存在に気づかなかったミシュリーヌから見えていたものにすぎない。オーギュストの恋人のヴァネッサはどう考えているのだろう? オーギュストに権力を持たせたいと思っているのだとしたら……
ミシュリーヌはそこまで考えて首を振る。そうだとしても、優しいオーギュストが罪のない人々を巻き込むはずがない。兄弟仲を考えれば、ガエルに嫌がらせをするというのも考えにくい。
ミシュリーヌは、オーギュストが何も知らずに巻き込まれているとしか思えなかった。
「わたくしが一人で考えていても駄目ね」
残念ながら、ミシュリーヌには一人で解決できるほどの頭も人脈もない。こんなときに頼れる相手なんて、一人しかいなかった。一緒に居たくなくて逃げたのに情けないが、解決するためにはオーギュストを頼るほかない。
「私はどうしてもオーギュスト殿下が指示したとは思えません。然るべき人に調査してもらおうと思います」
「どうするつもりなんだ? この一年間、領主にも国にも何度も訴えてきた。支援どころか調査も来なかったんだぞ」
「私に考えがあります。まずはこの領地で何が起こったか詳しく教えて頂けますか?」
「あ、ああ」
ヤニックはミシュリーヌの言葉に戸惑いながら頷く。ヤニックの顔に僅かながら期待の色が混ざったのを感じて、ミシュリーヌは聖女らしく微笑んだ。
「そこで対応した神官に言われたんだ。『オーギュスト殿下の采配だから、我々にはどうすることもできない』ってな」
「オーギュスト殿下はそんなことをする方ではありません!」
ミシュリーヌはつい声を荒げてしまう。未熟な自分のことなら仕方ないが、オーギュストを悪く言われるのは我慢できない。
「俺もオーギュスト殿下と会ったことがあるから、全てを信じているわけじゃない。殿下は、自ら前線に立って戦うような人だ。簡単に切り捨てるとは思えない」
ヤニックは魔導師団と共闘したことがあり、オーギュストとも二言三言会話を交わしたことがあるらしい。
「ただ、中央の権力争いなんて、俺らには分からない。そういうものだと言われたら否定も出来ないだろう?」
「権力争い?」
ミシュリーヌの疑問に、ヤニックが小さく頷く。
「この領地はガエル殿下が継ぐことに決まっている。浄化薬の値上げは、ガエル殿下とオーギュスト殿下の対立が原因だと推測されている」
兄弟間の政治的な駆け引き。S級冒険者のヤニックをはじめ、フリルネロ公爵領の行く末を憂う者は、それが本当の原因だと判断しているようだ。
「ガエル殿下って誰だ?」
「国王陛下には、四人の王子がいる。その中の……――」
ニコラの質問を受けて、ヤニックが丁寧に説明をはじめる。どうやら、それなりの立場にいる者以外は、ガエルの存在すら知らないらしい。きっと、『聖女のわがまま』というのが市井の噂の主流になっている原因だろう。
オーギュストの名誉のためにはどちらが良いのだろう。ミシュリーヌには分からない。ミシュリーヌが冷静に考えて分かったのは、どちらも真実ではなさそうだということだ。そもそも、オーギュストはお金を有り余るほど持っている。魔導師団長の報酬もあるだろうし、魔導師団の仕事以外でも善意で魔獣を狩り続けているからだ。
『権力争い』
こちらも、オーギュストとは結びつかない言葉だ。
オーギュストは魔導師団長という立場もあまり喜んでいないようだった。何か辞められない理由があるようで、渋々、その地位にいるというのがミシュリーヌにも伝わってきていたのだ。
ただ、それもオーギュストの恋人の存在に気づかなかったミシュリーヌから見えていたものにすぎない。オーギュストの恋人のヴァネッサはどう考えているのだろう? オーギュストに権力を持たせたいと思っているのだとしたら……
ミシュリーヌはそこまで考えて首を振る。そうだとしても、優しいオーギュストが罪のない人々を巻き込むはずがない。兄弟仲を考えれば、ガエルに嫌がらせをするというのも考えにくい。
ミシュリーヌは、オーギュストが何も知らずに巻き込まれているとしか思えなかった。
「わたくしが一人で考えていても駄目ね」
残念ながら、ミシュリーヌには一人で解決できるほどの頭も人脈もない。こんなときに頼れる相手なんて、一人しかいなかった。一緒に居たくなくて逃げたのに情けないが、解決するためにはオーギュストを頼るほかない。
「私はどうしてもオーギュスト殿下が指示したとは思えません。然るべき人に調査してもらおうと思います」
「どうするつもりなんだ? この一年間、領主にも国にも何度も訴えてきた。支援どころか調査も来なかったんだぞ」
「私に考えがあります。まずはこの領地で何が起こったか詳しく教えて頂けますか?」
「あ、ああ」
ヤニックはミシュリーヌの言葉に戸惑いながら頷く。ヤニックの顔に僅かながら期待の色が混ざったのを感じて、ミシュリーヌは聖女らしく微笑んだ。
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