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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
1.熊を狩る
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クリスティーナは成人を迎える年齢になっても、子供の頃と変わらずドリコリン伯爵領の森の中にいた。単独行動なので、慣れた森ではあるが慎重に歩みを進める。
数年前、熊の魔獣を一人で討伐できるようになってからは、ブルクハルトも森に単独で入ることを渋々許してくれている。それでも心配をかけたくなくて、ブルクハルトがいない日は街に留まり治癒魔法の鍛錬をすることも多い。
今日一人で森に入ったのは、冒険者紹介所で熊の魔獣の討伐数が減っていると聞いたからだ。ある程度間引いておかないと、人里に近い場所に出てきてしまう可能性がある。猪や狼の魔獣を相手にする中級冒険者が熊の魔獣と遭遇し危険な目に合わないよう、領地を守る伯爵家の娘としては力になりたい。
『お前の仕事じゃない』
そんなブルクハルトの声が聞こえてきそうだが、気にせず熊の痕跡を探す。
「いたわ」
クリスティーナが敵の存在を魔法で感知してそちらに向かうと、木々の隙間から熊の魔獣の姿が見えた。
「やっぱり、いつもより浅い場所まで来てるのね」
これでは中級冒険者は不安で森の奥まで入れないだろう。熊の魔獣には悪いが人々の生活を優先させてもらう。
クリスティーナは熊に気づかれる前に、目を狙って弓を放った。毛皮を傷つけたくないので、魔力は抑えておくことも忘れない。
グオーーン
弓は狙った通りに右目に突き刺さり、熊が痛みで恐ろしい雄叫びをあげる。その声に足音を隠して、クリスティーナは一気に距離をつめた。
「えい!」
熊が気がつく前に懐に入り、腹部を剣でスパリと切り裂く。熊に反撃の間を与えず蹴り倒して、首元に剣を当ててとどめを刺した。
「上出来かな?」
クリスティーナは素早く熊に必要な処理をすると、担いで街に戻った。
「姫様、おかえりなさい」
「ただいま」
街の入り口では、伯爵騎士団が出入りする者を確認している。いつもどおりの光景だ。顔見知りの門番たちが、クリスティーナを笑顔で迎えてくれる。
「ティナ、麻袋に入れて運んでこいよ。街道を歩く人が見たらびっくりするだろう」
クリスティーナが門を抜けようとすると、旅人の対応を終えたトーマが文句を言ってきた。
トーマは数年前に孤児院を出て、伯爵騎士団で働いている。クリスティーナに対する態度は相変わらずだ。
「うるさいわね。前に麻袋を担いでたら『姫様、中身はなんですか?』って、青い顔をした騎士に門の前で停められたのよ。これなら、分かりやすいでしょ」
「いや、その騎士は今の状態のほうが青くなると思うぞ。熊を単独討伐する『姫様』ってどうなんだよ。あの男はどうした? 婚約破棄でもされたのか?」
クリスティーナがジト目でトーマを睨んでいると、代わりに年配の騎士がげんこつを落とす。
「いってぇー!」
「姫様になんてことを言うんだ!」
年配の騎士は青い顔をして周囲を見回した。幸いなことに騎士団員以外は聞いていない。トーマもそれを確認しての発言だと思いたい。
「勤務中にごめんなさい。幼馴染の軽口だから、今回だけは許してくれる? 私からも叱っておくわ」
「分かりました。教育が行き届いておらず申し訳ありません」
年配の騎士はそれだけ言って離れていく。聞かなかった事にしてくれるのだろう。
「トーマ、勤務中は伯爵騎士団の一員としてちゃんとしなさいよ。ハルトに聞かれるだけなら殴られて終わりだと思うわ。でも、辺境伯騎士団の方に聞かれたら問題になりかねないんだからね」
年配の騎士が叱ったのも、このあたりが理由だろう。クリスティーナとブルクハルトの婚約は、家と家を結びつける重要なものだ。本人たちでさえ制御できないこともある。
「悪かったよ。でも、ティナが最近無理している気がして心配なんだ。竜騎士選定試験を受けるって本当か? アイツと結婚するなら危険な仕事をする必要なんてないはずだろう?」
「孤児院で聞いたの?」
トーマは気まずそうに頷く。孤児院の子どもたちに話したのはクリスティーナ自身なので、そんな顔はしないでほしい。
今日の単独討伐は竜騎士選定試験の前の肩慣らしの意味もある。選定試験は数年に一度あるが、クリスティーナにとっては一度きりの機会になる。だからこそ、万全を期したかったのだ。
「アイツとうまくいってないのか? それなら……」
「うまくいってないわけないでしょ」
クリスティーナはトーマの言葉を途中で遮る。辺境伯家と上手く付き合えていないだなんて、それこそ、他の騎士に聞かれたら心配されかねない。
トーマはなぜかブルクハルトを嫌っていて、ことあるごとに小言を言ってくる。ブルクハルトもトーマに近づきすぎるなと言うし、二人は反りが合わないようだ。
「ちゃんと成人のパーティには二人で出席するし、心配しなくて大丈夫よ」
クリスティーナは笑顔で言って、隠れて小さくため息をつく。
トーマの言葉がすべて的外れとは言えないところが悲しい。もし、本当にうまくいっているなら、竜騎士選定試験を受けようと思ったか分からない。でも、それはトーマに話すようなことではない。
「じゃあ、門番頑張るのよ」
「あ、ああ」
トーマはまだなにか言いたそうにしていたが、クリスティーナは話を切り上げて街の中に入る。熊に視線が集まっているのを感じて、急いで冒険者紹介所に向かった。
数年前、熊の魔獣を一人で討伐できるようになってからは、ブルクハルトも森に単独で入ることを渋々許してくれている。それでも心配をかけたくなくて、ブルクハルトがいない日は街に留まり治癒魔法の鍛錬をすることも多い。
今日一人で森に入ったのは、冒険者紹介所で熊の魔獣の討伐数が減っていると聞いたからだ。ある程度間引いておかないと、人里に近い場所に出てきてしまう可能性がある。猪や狼の魔獣を相手にする中級冒険者が熊の魔獣と遭遇し危険な目に合わないよう、領地を守る伯爵家の娘としては力になりたい。
『お前の仕事じゃない』
そんなブルクハルトの声が聞こえてきそうだが、気にせず熊の痕跡を探す。
「いたわ」
クリスティーナが敵の存在を魔法で感知してそちらに向かうと、木々の隙間から熊の魔獣の姿が見えた。
「やっぱり、いつもより浅い場所まで来てるのね」
これでは中級冒険者は不安で森の奥まで入れないだろう。熊の魔獣には悪いが人々の生活を優先させてもらう。
クリスティーナは熊に気づかれる前に、目を狙って弓を放った。毛皮を傷つけたくないので、魔力は抑えておくことも忘れない。
グオーーン
弓は狙った通りに右目に突き刺さり、熊が痛みで恐ろしい雄叫びをあげる。その声に足音を隠して、クリスティーナは一気に距離をつめた。
「えい!」
熊が気がつく前に懐に入り、腹部を剣でスパリと切り裂く。熊に反撃の間を与えず蹴り倒して、首元に剣を当ててとどめを刺した。
「上出来かな?」
クリスティーナは素早く熊に必要な処理をすると、担いで街に戻った。
「姫様、おかえりなさい」
「ただいま」
街の入り口では、伯爵騎士団が出入りする者を確認している。いつもどおりの光景だ。顔見知りの門番たちが、クリスティーナを笑顔で迎えてくれる。
「ティナ、麻袋に入れて運んでこいよ。街道を歩く人が見たらびっくりするだろう」
クリスティーナが門を抜けようとすると、旅人の対応を終えたトーマが文句を言ってきた。
トーマは数年前に孤児院を出て、伯爵騎士団で働いている。クリスティーナに対する態度は相変わらずだ。
「うるさいわね。前に麻袋を担いでたら『姫様、中身はなんですか?』って、青い顔をした騎士に門の前で停められたのよ。これなら、分かりやすいでしょ」
「いや、その騎士は今の状態のほうが青くなると思うぞ。熊を単独討伐する『姫様』ってどうなんだよ。あの男はどうした? 婚約破棄でもされたのか?」
クリスティーナがジト目でトーマを睨んでいると、代わりに年配の騎士がげんこつを落とす。
「いってぇー!」
「姫様になんてことを言うんだ!」
年配の騎士は青い顔をして周囲を見回した。幸いなことに騎士団員以外は聞いていない。トーマもそれを確認しての発言だと思いたい。
「勤務中にごめんなさい。幼馴染の軽口だから、今回だけは許してくれる? 私からも叱っておくわ」
「分かりました。教育が行き届いておらず申し訳ありません」
年配の騎士はそれだけ言って離れていく。聞かなかった事にしてくれるのだろう。
「トーマ、勤務中は伯爵騎士団の一員としてちゃんとしなさいよ。ハルトに聞かれるだけなら殴られて終わりだと思うわ。でも、辺境伯騎士団の方に聞かれたら問題になりかねないんだからね」
年配の騎士が叱ったのも、このあたりが理由だろう。クリスティーナとブルクハルトの婚約は、家と家を結びつける重要なものだ。本人たちでさえ制御できないこともある。
「悪かったよ。でも、ティナが最近無理している気がして心配なんだ。竜騎士選定試験を受けるって本当か? アイツと結婚するなら危険な仕事をする必要なんてないはずだろう?」
「孤児院で聞いたの?」
トーマは気まずそうに頷く。孤児院の子どもたちに話したのはクリスティーナ自身なので、そんな顔はしないでほしい。
今日の単独討伐は竜騎士選定試験の前の肩慣らしの意味もある。選定試験は数年に一度あるが、クリスティーナにとっては一度きりの機会になる。だからこそ、万全を期したかったのだ。
「アイツとうまくいってないのか? それなら……」
「うまくいってないわけないでしょ」
クリスティーナはトーマの言葉を途中で遮る。辺境伯家と上手く付き合えていないだなんて、それこそ、他の騎士に聞かれたら心配されかねない。
トーマはなぜかブルクハルトを嫌っていて、ことあるごとに小言を言ってくる。ブルクハルトもトーマに近づきすぎるなと言うし、二人は反りが合わないようだ。
「ちゃんと成人のパーティには二人で出席するし、心配しなくて大丈夫よ」
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トーマの言葉がすべて的外れとは言えないところが悲しい。もし、本当にうまくいっているなら、竜騎士選定試験を受けようと思ったか分からない。でも、それはトーマに話すようなことではない。
「じゃあ、門番頑張るのよ」
「あ、ああ」
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