13 / 72
13.売り込み
しおりを挟む
それから数日後、ブルクハルトはジュリアンを乗せて結界の巡回に来ていた。今日もエッカルトたちの当番に同行させてもらう形だ。
「これが竜騎士の普段の仕事なんですね」
「そうだ。王都騎士団は参加しないから、ジュリアンも初めてだろう」
「はい。興味深いです」
ジュリアンは結界を観察しながら、ガスパールの話を熱心に聞いている。
ジュリアンは王都騎士団にいくつかある隊のうちの一つで副隊長をしている。そのため、辺境の魔獣との戦いは経験済みだ。しかし騎士団が参加するのは、年に十数回行われている大規模討伐のみなので普段の竜騎士の活動には詳しくない。
大規模討伐は魔獣が結界の外で増えすぎないように間引きの目的で行われる。魔導師が結界をわざと一区画だけ消滅させて、そこから入り込んできた魔獣を討伐するのだ。竜騎士団も含む各地の騎士団が協力する形で行われ、ブルクハルトも辺境伯騎士団の一員として経験のために参加してきた。
「見回り任務は竜騎士の中心的な仕事だが、参加するのは辺境伯領に住んでいる若手の竜騎士だけだ。父も参加したいようだが、会議や領主の仕事もあるから難しい」
「なるほど……今日も王都で会議がありますもんね。竜騎士団長は毎回出席されていたように思います」
ジュリアンが言うとおり、王都に各騎士団の代表者が集まり、次の大規模討伐に向けての会議が行われている。竜騎士団からはクリスティーナたちの父、ドリコリン伯爵をはじめ数人が出席しているはずだ。
「さすがに詳しいな」
「王都騎士団の団長に資料の作成を手伝わされていただけですよ」
ジュリアンは何でもないことのように言って笑ったが、話す内容は機密扱いとなる会議の資料を作っているのだ。団長に信頼されているのだろう。今回の資料を作る時間はなかっただろうが、王都騎士団は大丈夫だろうか。
ガスパールも同じことを思ったのか質問していたが、ジュリアンは笑顔で躱していた。
【雑談はここまでかな。最初の魔獣みたいだよ】
【了解! 近そうだな】
「ジュリアン、初仕事だ」
「はい!」
今日はブルクハルトもエッカルトとだけは会話が可能だ。ガスパールとジュリアンには聞こえないが、エッカルトを通じて意思の疎通ができる。緊張に包まれていた前回とは異なり、落ち着いた雰囲気だ。
もっともそれは会話ができる事だけが理由ではない。ガスパールの雰囲気を比べてみると、やはり彼もクリスティーナに対して過剰に心配していたことが伺える。エッカルトも今回は最初から後方を飛んでおり、戦闘に参加する気は全くなさそうだ。クリスティーナのときにブルクハルトのそばを飛んでいたのは、ガスパールの心情を慮ってのことだったのだろう。
【あれか】
しばらく飛んでいると熊の魔獣が見えてくる。
「一匹だけですし、僕が仕留めても良いですか? 僕の実力を確認していただきたい」
ジュリアンの言葉にブルクハルトは小さく頷く。
ブルクハルトが魔獣に近づいていくと、弓の射程に入ったと同時に、ジュリアンが魔力を這わせた矢を放った。炎をまとった弓矢はぐんぐん速度を上げて魔獣に向かっていく。その勢いのまま、魔獣の前足に突き刺さると爆音と共に魔獣が吹き飛んだ。
「僕は炎系の魔法が得意なんです。大型の魔獣はこの方法で仕留めることが多いですね。ただ、大規模討伐時に上空から使用するのには適さないと思うので、他の方法もお見せします」
ジュリアンは自分を売り込むように一人で語りだす。竜騎士になったときを想定して、戦闘の構想を練ってきていたようだ。
その後もジュリアンは狐の魔獣、狼の魔獣と問題なく倒していった。宣言通り、風や雷の魔法を使うなど討伐法を変えてブルクハルトに見せていく。
「食用にする魔獣には雷魔法がおすすめですよ」
「ほぅ、味が違うのか」
「はい。魔獣特有の臭みが軽減されます」
【それ本当? ガスパールって、雷魔法使えたっけ?】
ジュリアンの豆知識にエッカルトが大袈裟に反応する。ガスパールが雷魔法を使っているところは見ないが、エッカルトの要望で練習することになったようだ。この二人の関係については、ブルクハルトにも解明出来ていないところが多い。
「次は鳥型のようですね。接近戦を試してもよろしいですか?」
ブルクハルトはジュリアンの言葉に答えるように頷いて、ガスパールの方を見る。
「好きにしろ」
ガスパールの了承を受けて、ジュリアンは弓を背中におさめて剣を抜く。ジュリアンの剣さばきにはブルクハルトも興味があるが、残念ながら自分の竜騎士の接近戦を肉眼で見ることは難しい。正式に竜騎士契約をすれば、ある程度動きを感じることができるので、その日を楽しみに待つことにした。
「これが竜騎士の普段の仕事なんですね」
「そうだ。王都騎士団は参加しないから、ジュリアンも初めてだろう」
「はい。興味深いです」
ジュリアンは結界を観察しながら、ガスパールの話を熱心に聞いている。
ジュリアンは王都騎士団にいくつかある隊のうちの一つで副隊長をしている。そのため、辺境の魔獣との戦いは経験済みだ。しかし騎士団が参加するのは、年に十数回行われている大規模討伐のみなので普段の竜騎士の活動には詳しくない。
大規模討伐は魔獣が結界の外で増えすぎないように間引きの目的で行われる。魔導師が結界をわざと一区画だけ消滅させて、そこから入り込んできた魔獣を討伐するのだ。竜騎士団も含む各地の騎士団が協力する形で行われ、ブルクハルトも辺境伯騎士団の一員として経験のために参加してきた。
「見回り任務は竜騎士の中心的な仕事だが、参加するのは辺境伯領に住んでいる若手の竜騎士だけだ。父も参加したいようだが、会議や領主の仕事もあるから難しい」
「なるほど……今日も王都で会議がありますもんね。竜騎士団長は毎回出席されていたように思います」
ジュリアンが言うとおり、王都に各騎士団の代表者が集まり、次の大規模討伐に向けての会議が行われている。竜騎士団からはクリスティーナたちの父、ドリコリン伯爵をはじめ数人が出席しているはずだ。
「さすがに詳しいな」
「王都騎士団の団長に資料の作成を手伝わされていただけですよ」
ジュリアンは何でもないことのように言って笑ったが、話す内容は機密扱いとなる会議の資料を作っているのだ。団長に信頼されているのだろう。今回の資料を作る時間はなかっただろうが、王都騎士団は大丈夫だろうか。
ガスパールも同じことを思ったのか質問していたが、ジュリアンは笑顔で躱していた。
【雑談はここまでかな。最初の魔獣みたいだよ】
【了解! 近そうだな】
「ジュリアン、初仕事だ」
「はい!」
今日はブルクハルトもエッカルトとだけは会話が可能だ。ガスパールとジュリアンには聞こえないが、エッカルトを通じて意思の疎通ができる。緊張に包まれていた前回とは異なり、落ち着いた雰囲気だ。
もっともそれは会話ができる事だけが理由ではない。ガスパールの雰囲気を比べてみると、やはり彼もクリスティーナに対して過剰に心配していたことが伺える。エッカルトも今回は最初から後方を飛んでおり、戦闘に参加する気は全くなさそうだ。クリスティーナのときにブルクハルトのそばを飛んでいたのは、ガスパールの心情を慮ってのことだったのだろう。
【あれか】
しばらく飛んでいると熊の魔獣が見えてくる。
「一匹だけですし、僕が仕留めても良いですか? 僕の実力を確認していただきたい」
ジュリアンの言葉にブルクハルトは小さく頷く。
ブルクハルトが魔獣に近づいていくと、弓の射程に入ったと同時に、ジュリアンが魔力を這わせた矢を放った。炎をまとった弓矢はぐんぐん速度を上げて魔獣に向かっていく。その勢いのまま、魔獣の前足に突き刺さると爆音と共に魔獣が吹き飛んだ。
「僕は炎系の魔法が得意なんです。大型の魔獣はこの方法で仕留めることが多いですね。ただ、大規模討伐時に上空から使用するのには適さないと思うので、他の方法もお見せします」
ジュリアンは自分を売り込むように一人で語りだす。竜騎士になったときを想定して、戦闘の構想を練ってきていたようだ。
その後もジュリアンは狐の魔獣、狼の魔獣と問題なく倒していった。宣言通り、風や雷の魔法を使うなど討伐法を変えてブルクハルトに見せていく。
「食用にする魔獣には雷魔法がおすすめですよ」
「ほぅ、味が違うのか」
「はい。魔獣特有の臭みが軽減されます」
【それ本当? ガスパールって、雷魔法使えたっけ?】
ジュリアンの豆知識にエッカルトが大袈裟に反応する。ガスパールが雷魔法を使っているところは見ないが、エッカルトの要望で練習することになったようだ。この二人の関係については、ブルクハルトにも解明出来ていないところが多い。
「次は鳥型のようですね。接近戦を試してもよろしいですか?」
ブルクハルトはジュリアンの言葉に答えるように頷いて、ガスパールの方を見る。
「好きにしろ」
ガスパールの了承を受けて、ジュリアンは弓を背中におさめて剣を抜く。ジュリアンの剣さばきにはブルクハルトも興味があるが、残念ながら自分の竜騎士の接近戦を肉眼で見ることは難しい。正式に竜騎士契約をすれば、ある程度動きを感じることができるので、その日を楽しみに待つことにした。
0
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説
竜王の加護を持つ公爵令嬢は婚約破棄後、隣国の竜騎士達に溺愛される
海野すじこ
恋愛
この世界で、唯一竜王の加護を持つ公爵令嬢アンジェリーナは、婚約者である王太子から冷遇されていた。
王太子自らアンジェリーナを婚約者にと望んで結ばれた婚約だったはずなのに。
無理矢理王宮に呼び出され、住まわされ、実家に帰ることも許されず...。
冷遇されつつも一人耐えて来たアンジェリーナ。
ある日、宰相に呼び出され婚約破棄が成立した事が告げられる。そして、隣国の竜王国ベルーガへ行く事を命じられ隣国へと旅立つが...。
待っていたのは竜騎士達からの溺愛だった。
竜騎士と竜の加護を持つ公爵令嬢のラブストーリー。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
扇 レンナ
恋愛
一途な隠れ美形の竜騎士さま×捨てられた令嬢――とろけるほどに甘い、共同生活
小さな頃から《女》というだけで家族に疎まれてきた子爵令嬢メリーナは、ある日婚約者の浮気現場を目撃する。
挙句、彼はメリーナよりも浮気相手を選ぶと言い、婚約破棄を宣言。
家族からも見放され、行き場を失ったメリーナを助けたのは、野暮ったい竜騎士ヴィリバルトだった。
一時的に彼と共同生活を送ることになったメリーナは、彼に底なしの愛情を与えられるように……。
隠れ美形の竜騎士さまと極上の生活始めます!
*hotランキング 最高44位ありがとうございます♡
◇掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス
◇ほかサイトさまにてコンテストに応募するために執筆している作品です。
◇ベリーズカフェさん先行公開です。こちらには文字数が溜まり次第転載しております。
運命は、手に入れられなかったけれど
夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。
けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。
愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。
すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。
一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。
運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。
※カクヨム様でも連載しています。
そちらが一番早いです。
婚約者にも家族にも裏切られたので、小さな村でモフモフカフェを開くことにしました
柚木ゆず
恋愛
王太子ニオズの心変わりによって理不尽な婚約破棄をされ、義妹と継母の企みによって家を追放をされた元侯爵令嬢・サーラ。
そんなサーラは母親が遺してくれたお金を使い、母親が生前に使用していたアトリエを改装してカフェを開くことにしました。
従業員はサーラと、8匹の子猫達。
おすすめのメニューは、特製スフレパンケーキと苺のパンケーキサンド。
そして常連客は、魔王様……!?
毒はお好きですか? 浸毒の令嬢と公爵様の結婚まで
屋月 トム伽
恋愛
産まれる前から、ライアス・ノルディス公爵との結婚が決まっていたローズ・ベラルド男爵令嬢。
結婚式には、いつも死んでしまい、何度も繰り返されるループを終わらせたくて、薬作りに没頭していた今回のループ。
それなのに、いつもと違いライアス様が毎日森の薬屋に通ってくる。その上、自分が婚約者だと知らないはずなのに、何故かデートに誘ってくる始末。
いつもと違うループに、戸惑いながらも、結婚式は近づいていき……。
※あらすじは書き直すことがあります。
※小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる